(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年8月30日08時10分
青森県むつ小川原港
2 船舶の要目
船種船名 |
交通船第二十八さちえ丸 |
総トン数 |
10トン |
登録長 |
11.82メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
66キロワット |
3 事実の経過
第二十八さちえ丸(以下「さちえ丸」という。)は、船舶所有者であるT株式会社が関係する防波堤築造工事等において、専ら必要機材の運搬や工事に携わる作業員の輸送に従事する鋼製の交通船で、船体の中央部から船尾方にかけて操舵室が、同室の船首側に客室が配置され、船首部には、最船首部のブルワーク下に、同ブルワークから甲板上に下りる際のステップとしての板張り部分(以下「ステップ」という。)が設けられ、その船尾側にビットが取り付けられていた。
さちえ丸は、T株式会社が代表を努める共同企業体による青森県むつ小川原港の南航路災害復旧工事に平成14年8月2日から従事していたところ、昭和53年4月に取得した二級小型船舶操縦士免許を有するA受審人が1人で乗り組み、浚渫区域の深浅測量を行う作業員6人を測量現場に輸送する目的で、船首0.4メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成14年8月30日07時20分同港公共岸壁東側の船溜りを発し、むつ小川原港新納屋南防波堤灯台から真方位288度1,080メートルに位置する護岸の作業員乗船予定地点に向かった。
A受審人は、07時35分ごろ前示の乗船予定地点に着いたものの、作業員がまだ来ていなかったので、以前から護岸上のビットに係止されたままになっている、径22ミリメートル長さ7.2メートルの合成繊維製ロープ(以下「係留索」という。)の一端を自船船首のビットに係止したのち、主機のクラッチを切って待機した。
08時00分A受審人は、作業員が護岸上に集まり始めたので、船体が護岸に直角になるようにさちえ丸を操船し、同船の船首端を同護岸に押し着けて作業員が乗船するのを待ったが、その際、同船の係留索は、船尾が右方に流された状態から船体が護岸に直角になるよう操船されたことによって、右舷船首の舷外に垂れ下がる状態になっていた。
その後、A受審人は、作業員全員が乗船したのを確認したので離岸することにしたが、離岸するに当たり、普段は最後に乗船した作業員が係留索をビットから外してくれていたので、係留索は既に外されているものと思い込み、同索が外されているかどうかを確認せず、更に、船首ブルワーク付近の上甲板上に作業員2人がいて、そのうちの1人が手摺り等につかまらないまま同甲板の左舷側に立っているのを認めていたのに、同人に座るか何かにつかまるよう指示しないなど、乗船した作業員の安全に対しても十分に配慮しなかった。
こうして、さちえ丸は、08時10分少し前、主機を微速力後進にかけて離岸を開始したところ、ビットに係止されたままになっていた係留索が緊張すると同時に、船体が急停止して激しく動揺し、08時10分前示の地点において、ステップに腰掛けていた作業員が係留索で左前腕部を強打されるとともに、甲板上に立っていた作業員が身体のバランスを崩して転倒した。
当時、天候は曇で風力2の東風が吹き、港内は穏やかで、潮候は高潮期であった。
その結果、係留索に強打されて左前腕部打撲及び挫傷で1週間の加療を要すると診断された作業員Mは、1日の休業で済んだものの、転倒した作業員Oは、第6、第7及び第8肋骨各右側骨折及び外傷性肝破裂で1箇月の加療が必要との診断を受けた。
(原因)
本件作業員負傷は、青森県むつ小川原港において、浚渫区域の深浅測量を行う作業員を乗せて離岸する際、係留索が外されていることの確認及び乗船した作業員の安全に対する配慮がいずれも不十分で、離岸直後に、ビットに係止されたままになっていた係留索が緊張すると同時に船体が急停止して激しく動揺したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、青森県むつ小川原港において、浚渫区域の深浅測量を行う作業員を乗せて離岸する場合、係留索が外されていることを確認すべき注意義務があった。ところが、同人は、普段は最後に乗船した作業員が係留索をビットから外してくれていたので、係留索は既に外されているものと思い込み、同索が外されていることを確認しなかった職務上の過失により、離岸直後に、係留索が緊張すると同時に船体が急停止して激しく動揺し、ビットの傍に座っていた作業員が係留索に強打されるとともに、船首甲板上に立っていた作業員がバランスを崩して転倒する事態を招き、両作業員をそれぞれ負傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。