(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年8月25日08時30分
宮城県仙台塩釜港塩釜区
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第三かなめ丸 |
総トン数 |
1.4トン |
全長 |
8.53メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル4シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
36キロワット |
回転数 |
毎分3,500 |
3 事実の経過
第三かなめ丸(以下「かなめ丸」という。)は、ヤンマー造船株式会社が製造して昭和63年3月に進水したFRP製の小型兼用船で、機関室にヤンマーディーゼル株式会社(平成14年7月1日付でヤンマー株式会社に社名変更)製の4JH-TZ型と称するディーゼル機関を主機として装備していたほか、船尾にアルミニウム合金製のトランサムプレートに固定された同社製のSZ110-1型と称するアウトドライブユニットを備えていた。
主機の回転は、主機の出力軸に連結された外径8.5センチメートル(以下「センチ」という。)長さ約1メートルの連結軸からアウトドライブユニットの入力軸に伝達され、同軸からクラッチを介してアウトドライブを作動させるようになっており、振動を吸収するなどの目的のために、主機が4個の防振ゴムで支えられていたほか、連結軸の各軸端には各々厚さ3.5センチ外径16.5センチのゴム製弾性継手が使用されていた。
ところで、機器メーカーは、主機の防振ゴム(以下「防振ゴム」という。)及び連結軸のゴム製弾性継手(以下「ゴム継手」という。)が、機能上重要なところに設置され、主機の使用中に損耗・劣化するうえ、通常の点検ではその後いつまで安全に使用できるか予測しにくいものであることから、3箇月または500時間毎に点検するとともに、表面的に異常がなくても2年毎に取り替えるよう取扱説明書に記載するほか、リモコンハンドル近くに交換時期を明記した定期交換部品シールを貼るなどして、取扱者に注意を促していた。
A受審人は、乗船していた北洋トロール漁船の仕事上の関係から昭和51年7月に一級小型船舶操縦士(5トン限定)の免許を取得していたもので、平成元年12月にかなめ丸を購入して甥に同船を遊漁船として運航させていたところ、同9年に会社を定年退職したことから、同年に刺網漁の漁業権を購入し、以後は自身が同船に船長として乗り組んで遊漁と刺網漁業に従事していた。
B指定海難関係人は、父親の跡を継いでヤンマーディーゼル株式会社の特販店であるS製作所を営み、1人で部品販売や修理に携わっていたもので、主機出力軸と連結軸の軸心計測については、連結軸の各軸端が主機出力軸及びアウトドライブユニット入力軸の各フランジと嵌め込み式になっていることから専用の冶具を使用して計測しなければならなかったが、連結軸の両端にはゴム継手が取り付けられているので少しくらいの軸心の狂いは吸収するだろうと考えていたうえ、機種ごとに冶具を全て備えておくのは経済的に負担が大きいこともあって、軸心計測用の専用冶具を備えていなかった。また、同人は、防振ゴムやゴム継手等の重要なゴム製部品については、それらを2年毎に取り替えるよう取扱説明書に記載されていることは承知していたものの、自身では、取扱説明書どおり2年で取り替える必要はなく、4年ないし5年で取り替えればよいと考えていた。
B指定海難関係人は、かなめ丸の仕事を同4年ころから行うようになり、その後は1年に1回ほどの頻度で修理等に携わっていたが、その際、船舶所有者でもあるA受審人に対して、防振ゴム及びゴム継手をいつごろ取り替えたか確認せず、また、ゴム製重要部品は定期的に点検及び交換が必要であることなどの適切な助言や指導も行っていなかった。
一方、A受審人は、取扱説明書をよく読んでいなかったうえ、B指定海難関係人からゴム製重要部品整備上の適切な助言・指導を受けていなかったこともあって、同3年ころにゴム継手を新替えしたことしか甥から聞いていなかったのに、自身が船長として乗り組むようになってからも防振ゴムやゴム継手等のゴム製重要部品の点検及び取替えを修理業者に依頼していなかった。
そのため、かなめ丸は、防振ゴム及びゴム継手が長期間取り替えられないまま年間700時間ほど主機を運転しながら遊漁と刺網漁を続けているうち、いつしか、ゴム継手が劣化するとともに、防振ゴムの損耗・劣化などによって主機出力軸と連結軸との軸心の狂いが大きくなっていた。
このような状況の下、A受審人は、出港時毎に船底に溜まったビルジを点検していたところ、同13年6月ころビルジ量が増加しているのを認めたので、B指定海難関係人に調査を依頼した。
調査を依頼されたB指定海難関係人は、トランサムプレートを点検してクラッチケース取付ボルト穴に亀裂が入っているのを発見したので、同プレートを取り替えることにし、連結軸船尾端のゴム継手とアウトドライブユニット入力軸のフランジとを連結しているボルトを外してアウトドライブユニットとトランサムプレートを取り外したのち、トランサムプレートを新替えして復旧した。
その際、B指定海難関係人は、連結軸両端のゴム継手を点検して表面に異常がないことは確認したものの、A受審人に同継手をいつ取り替えたかを確認しなかったので、同継手が10年以上取り替えられていないことに気付かず、また、軸心計測を行わなかったので、防振ゴムの損耗・劣化などのために軸心の狂いが大きくなっていたが、このことにも気付かなかった。
その後、かなめ丸は、ゴム継手が劣化し、主機出力軸と連結軸との軸心が狂ったまま主機を運転して刺網漁と遊漁を繰り返しているうち、いつしか連結軸船首側のゴム継手に亀裂が入る状況となっていた。
こうして、かなめ丸は、A受審人が1人で乗り組み、刺網漁を行う目的で、船首0.1メートル船尾0.2メートルの喫水をもって、同14年8月25日08時ころ宮城県須賀漁港を発し、主機を全速力前進にかけて同県仙台塩釜港南東方沖合の漁場に向かって航行中、劣化していた連結軸の船首側ゴム継手の亀裂が進行するとともに、連結軸が振れ回ってトランサムプレートのクラッチケース取付ボルト穴に亀裂が生じ始めていたところ、08時30分花淵灯台から真方位102度2.7海里の地点において、同継手が破断して異音を発するとともに、船速が急速に低下した。
当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、海上には約1.5メートルのうねりがあった。
A受審人は、異音を認めたので直ちに主機のクラッチを切り、機関室の点検蓋を外して中を見たところ、トランサムプレートから多量の海水が船内に流れ込んでいるのを認めたので、沈没すると判断し、直ちに主機を停止するとともに携帯電話で海上保安部に連絡を取ろうとしたが、電波が届かなかったことから、周辺海域にいる知人の遊漁船に連絡して救助を求めた。
その後、A受審人は、ライフジャケットを装着して遊漁船の救助を待っていたところ、転覆しそうになったので海中に飛び込み、左舷側に転覆したかなめ丸のもやい綱につかまって漂流していたところを通りかかったプレジャーボートに救助された。
一方、かなめ丸は、他の遊漁船によって修理業者の岸壁まで曳航され、のち上架して、損傷したゴム継手やトランサムプレート等及び濡損した電気機器等を新替えするなどの修理を行った。
(原因)
本件機関損傷は、機器の保守管理にあたり、ゴム製重要部品の点検・整備が不十分で、ゴム継手が長期間の使用によって劣化していたことと、主機出力軸と連結軸との軸心が狂ったまま主機の運転が続けられたこととによって発生したものである。
修理業者が、ゴム製重要部品整備上の適切な助言・指導を船舶所有者に対して行っていなかったこと、及びアウトドライブユニットを取り外してトランサムプレートを新替えした際に主機出力軸と連結軸との軸心調整を行わなかったことは、本件発生の原因となる。
かなめ丸が転覆したのは、連結軸が振れ回ってトランサムプレートが損傷し、損傷部から多量の海水が船内に浸入して復原力を喪失したことによるものである。
(受審人等の所為)
A受審人は、機器の保守管理にあたる場合、取扱説明書中の記載に従って定期的にゴム製重要部品を点検・整備すべき注意義務があった。ところが、同人は、取扱説明書をよく読まず、ゴム製重要部品の点検・整備を十分に行っていなかった職務上の過失により、長期間の使用によって劣化していたゴム継手を破断させるとともに、連結軸の振れ回りによって損傷したトランサムプレートから多量の海水が浸水してかなめ丸が転覆する事態を招くに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、ゴム製重要部品整備上の適切な助言・指導を船舶所有者に対して行っていなかったこと、及びアウトドライブユニットを取り外してトランサムプレートを新替えした際に主機出力軸と連結軸との軸心調整を行わなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、全ての機種の専用冶具は備えられないとしながらも、入念にゴム製部品を点検して早期に異常を発見するとともに、船舶所有者に対して適切な助言・指導を行うよう心がけるなど、同種事故の再発防止に努めている点に徴し、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。