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平成15年函審第32号
件名

漁船第八宝春丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成15年12月10日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(岸 良彬、黒岩 貢、古川隆一)

理事官
河本和夫

受審人
A 職名:第八宝春丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 業種名:機関販売修理業

損害
主機1番のクランクピン軸受が溶損、連接棒に焼損、クランク軸に焼損、ピストン、シリンダライナ、クランクピン軸受、主軸受、ピストンピン及び油圧調整弁に掻き傷が生じた

原因
クランクピン軸受の点検不十分

主文

 本件機関損傷は、主機油だめにビルジが浸入した際、クランクピン軸受を点検する措置が不十分であったことによって発生したものである。
 機関販売修理業者が、クランクピン軸受を点検する措置をとらなかったことは、本件発生の原因となる。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年8月26日05時00分
 北海道厚岸港南方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第八宝春丸
総トン数 9.7トン
登録長 13.80メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 514キロワット
回転数 毎分1,940

3 事実の経過
 第八宝春丸(以下「宝春丸」という。)は、平成元年3月に進水した、さけ・ます流し網漁業及びさんま棒受網漁業に従事するFRP製漁船で、主機として、同10年4月に新たに換装された三菱重工業株式会社製のS6B5-MTKL型と呼称するディーゼル機関を備え、動力取出軸に、船内給電用の主発電機及び漁労機械用油圧ポンプ等が連結していた。
 主機の潤滑油系統は、直結潤滑油ポンプによりクランク室底部の容量70リットルの油だめから吸引、加圧された潤滑油が、油こし器及び油冷却器を経て入口主管に至り、主機各部の摺動部やピストン冷却ノズルに導かれたのち、油だめに戻る循環をしていた。
 宝春丸は、例年5月初めから7月上旬までをさけ・ます流し網漁に、7月下旬から11月上旬までをさんま棒受網漁に従事していたところ、同14年8月8日北海道釧路港沖合の漁場に向けて航行中、被押の作業船と衝突して船首部を圧壊したことから、曳航されて同日17時40分修理地の北海道花咲港に引き付けられた。
 18時30分A受審人(平成2年3月6日一級小型船舶操縦士免許取得)は、船内で寝泊りしていた乗組員3人を残して花咲港近くの家に帰宅することとし、船内電源を確保するため主機を運転したまま離船した。
 その後、宝春丸は、折からの大雨で、雨水が衝突の衝撃で機関室前壁上方の甲板に生じていた亀裂から機関室内に流入して、ビルジ水位が上昇するようになり、やがてビルジが軸貫通部や主機油だめの検油棒差込口から油だめに浸入し、潤滑油中にビルジが混入して、主機が潤滑阻害の状態で運転される状況となった。
 同日22時50分A受審人は、乗組員から大量のビルジが滞留しているとの通報を受け、急ぎ帰船して23時00分主機を止め、ビルジの排出作業を行った。
 A受審人は、主機が潤滑阻害の状態で運転が続けられ、クランクピン軸受に掻き傷を生じているおそれがあったが、翌9日早朝指定海難関係人B(以下「B」という。)に修理を依頼する際、衝突の衝撃による主機の位置ずれの有無を点検するよう指示したのみで、主機油だめにビルジが浸入した件については同支店の従業員が来船したとき、乗組員から説明させることとし、その修理を同支店に任せておけば大丈夫と思い、同支店に対し、クランクピン軸受を点検するよう具体的に指示するなどして、同軸受を点検する措置を十分にとることなく、08時ごろ衝突事件処理のため海上保安部に出向いた。
 Bは、三菱重工業株式会社の北海道総代理店業務を営むS株式会社の一支店で、支店長を含め6人の陣容で主として舶用機関の販売と修理業務を行っており、平成8年ごろから宝春丸の機関整備を手掛け、主機の換装工事も同支店が行っていた。
 A受審人からの修理依頼を受けたBは、08時30分支店長代理Nほか従業員2人を宝春丸に派遣して修理に当たらせた。
 N支店長代理は、宝春丸に到着後、乗組員から主機油だめにビルジが浸入したことを聞き、先に主機の据付け状態に異状のないことを確かめ、次いで油だめの検油棒を引き抜いたところ、油面の上昇と潤滑油の乳化を認めたので、ビルジが混入した状態で運転が続けられたことが分かったが、不在であったA受審人に連絡のうえクランクピン軸受の点検を行うよう進言するなどして、同軸受を点検する措置をとらなかった。
 そしてN支店長代理は、機関内部に滞留した水分を蒸発させる目的でフラッシングを2回行うこととし、新油を張り込みのうえ2時間ばかり運転したのち、潤滑油及び油こし器のフィルタエレメントを交換して1回目のフラッシングを終え、その後、宝春丸が船体修理のため花咲港内の造船所に上架され、冷却海水を通水することができなかったことから、同所で約1時間のみ2回目のフラッシングを同手順で行い、クランクピン軸受に掻き傷の生じていることに気付かないまま、16時00分に作業を終了した。
 こうして、宝春丸は、船体修理工事を終えたのち、A受審人ほか4人が乗り組み、さんま棒受網漁の目的で、船首1.5メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、同月25日16時00分花咲港を発し、全速力前進で厚岸港南方沖合約60海里の漁場に向けて航行の途、高負荷がかかったことにより1番クランクピン軸受の掻き傷が進行して金属粉が発生し始め、22時ごろ漁場に至って操業したのち、翌26日04時00分操業を切り上げて漁場を発進し、主機を回転数毎分1,600にかけて発航地に向け帰港中、ピストン及びシリンダライナの摺動面に金属粉を噛み込んで掻き傷を生じるとともに、油圧調整弁にも噛み込むようになり、燃焼ガスがクランク室に吹き抜けてミスト抜き管から多量のオイルミストが噴出し、潤滑油圧力も不安定になりながら運航を続けるうち、05時00分厚岸灯台から真方位174度46.5海里の地点において、潤滑油圧力低下警報装置が作動した。
 当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、海上には少しうねりがあった。
 船橋で当直中のA受審人は、非常停止ボタンで主機を停止させ、潤滑油全量を新替えして始動し、回転数を毎分1,500として運転を再開したところ、06時30分再び潤滑油圧力低下警報装置が作動したので所属漁業協同組合に救援を求め、宝春丸は、巡視船及び僚船により花咲港に引き付けられ、主機の開放調査が行われた結果、1番のクランクピン軸受が連れ回りを起こして溶損を、連接棒に焼損を生じていたほか、クランク軸に焼損を、ピストン、シリンダライナ、クランクピン軸受、主軸受、ピストンピン及び油圧調整弁に掻き傷を生じていることなどが判明し、のちこれらの新替えと手直し修理がなされた。
 本件後、Bは、潤滑油が乳化した状態の機関の修理に当たっては、軸受の開放点検を行う措置をとることとした。 

(原因)
 本件機関損傷は、主機運転中、油だめにビルジが浸入した際、クランクピン軸受を点検する措置が不十分で、同軸受に掻き傷を生じたまま運転が続けられ、損傷が拡大したことによって発生したものである。
 機関販売修理業者が、主機の潤滑油が乳化しているのを認めた際、クランクピン軸受を点検する措置をとらなかったことは、本件発生の原因となる。
 
(受審人等の所為)
 A受審人は、主機運転中、油だめにビルジが浸入したのを認めた場合、クランクピン軸受に掻き傷を生じているおそれがあったから、修理業者に対し同軸受を点検するよう具体的に指示するなどして、同軸受を点検する措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、修理業者に任せておけば大丈夫と思い、修理業者に対し同軸受を点検するよう具体的に指示するなどして、同軸受を点検する措置を十分にとらなかった職務上の過失により、同軸受に掻き傷を生じたまま運転を続けて損傷の拡大を招き、クランク軸、ピストン及びシリンダライナ等に焼損と掻き傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 Bが、主機の潤滑油が乳化しているのを認めた際、A受審人にクランクピン軸受の点検を行うよう進言するなどして、同軸受を点検する措置をとらなかったことは、本件発生の原因となる。
 Bに対しては、本件後、潤滑油が乳化した状態の機関の修理に当たっては、軸受の開放点検を行うこととした点に徴し、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。





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