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平成15年那審第36号
件名

漁船第八幸丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成15年11月14日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(上原 直、坂爪 靖、小須田 敏)

理事官
浜本 宏

受審人
A 職名:第八幸丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:第八幸丸機関長 操縦免許:小型船舶操縦士
指定海難関係人
有限会社C 業種名:造船業

損害
主機中間軸の折損

原因
主機の中間軸の点検不十分

主文

 本件機関損傷は、主機の中間軸の点検が不十分で、同軸に生じていた亀裂が進行したことによって発生したものである。
 造船業者が、主機の中間軸を抜き出した際、カラーチェックなどによる同軸の点検を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年4月7日02時45分
 沖縄県久米島西方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第八幸丸
総トン数 19.92トン
登録長 14.92メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 257キロワット
回転数 毎分1,180

3 事実の経過
 第八幸丸(以下「幸丸」という。)は、昭和48年に進水し、船体中央部に機関室を配置したFRP製漁船で、昭和63年3月に現船舶所有者が購入して翌4月に主機を換装していた。
 主機の動力伝達系統は、主機換装時に、中間軸、プロペラ軸及びプロペラを取り替えて以来そのまま使用していて、中間軸が炭素鋼鍛鋼(KSFR45)製の長さ860ミリメートル直径100ミリメートルで、その両端に取り付けた焼嵌式軸継手を介して、主機のクランク軸とプロペラ軸とを連結し、中間軸には軸受が装備されず、主機の動力をプロペラに伝達していた。
 幸丸は、沖縄県泊漁港を基地として、同県久米島西方漁場で底魚一本釣り漁業に、1航海8ないし9日間、主機の運転時間は160時間ばかりで周年にわたり従事しており、1年に1回以上は上架して船底洗いなどを実施していた。
 A受審人は、中学卒業後から漁師として漁船に乗り、昭和58年10月27日に一級小型船舶操縦士の免許を取得したのち、幸丸の船長として実弟のB受審人を機関長にして共に乗り組んでいたものであるが、主機の保守整備についてはB受審人に任せて、専ら本船の運航に当たっていた。
 B受審人は、昭和58年10月27日に一級小型船舶操縦士の免許を取得し、幸丸の機関長として乗り組み、主機の保守整備に当たっていたもので、定期的な船底洗いと主機の船尾管支面材の取替え工事のため、平成14年3月指定海難関係人有限会社C(以下「C」という。)に入った。
 ところが、B受審人は、長年にわたって中間軸等に繰返し曲げ応力が掛かると、同軸等に亀裂が生じているおそれがあることを知っていたが、これまで軸系の折損事故などにあったことがなかったため、同軸等に亀裂などが生じることはないものと思い、Cにカラーチェックの実施を指示するなど、同軸等の点検を十分に行わなかったので、同軸に亀裂が生じていることに気付かなかった。
 Cは、昭和43年に船舶の建造及び修理業務などを目的として設立され、現船舶所有者が幸丸を購入したころから、幸丸の修理及び船底洗いなどを行っていたところ、平成14年3月幸丸の船底洗いを兼ねての主機の船尾管支面材の取替え工事にあたり、プロペラ軸等を開放した際、中間軸の軸心にさほど狂いがなかったことから、同軸に亀裂などが生じていないものと判断し、カラーチェックなどによる同軸の点検を十分に行っていなかった。
 こうして、出渠後、操業を繰り返していた幸丸は、A及びB両受審人ほか2人が乗り組み、船首1.2メートル船尾2.3メートルの喫水をもって、平成15年3月29日09時00分泊漁港を発し、久米島西方の漁場に至って操業を行い、同年4月6日15時00分約1トンの漁獲物を獲て同漁場を発進し、主機を全速力前進にかけて帰港中、前示の中間軸に生じていた亀裂が一段と進行し、翌7日02時45分久米島灯台から真方位249度51.0海里の地点において、中間軸が、船尾側の軸継手付近で軸心にほぼ直角に折損し、急に主機の回転音が高くなった。
 当時、天候は曇で風力2の南風が吹き、海上は穏やかであった。
 就寝中のB受審人は、A受審人が主機を停止したので目覚め、急いで機関室内に赴き、原因を調べたところ中間軸の折損を認め、航行不能と判断してそのことをA受審人に報告した。
 幸丸は、海上保安庁に救助を要請し、その後、来援した引船により泊漁港に曳航された。
 Cは、本件以降、再発防止のために主機の船尾管支面材の取替え工事等にあたり、中間軸等を抜き出した際には、同軸等のカラーチェックを実施するようになった。 

(原因)
 本件機関損傷は、主機の船尾管支面材の取替え工事にあたり、中間軸を抜き出した際、同軸の点検が不十分で、出渠後、漁場からの帰港中、同軸に生じていた亀裂が進行したことによって発生したものである。
 造船業者が、主機の船尾管支面材の取替え工事にあたり、中間軸を抜き出した際、カラーチェックなどによる同軸の点検を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 
(受審人等の所為)
 B受審人は、主機の船尾管支面材の取替え工事にあたり、中間軸を抜き出した場合、長年にわたる同軸へ掛かる繰返し曲げ応力により同軸に亀裂が生じているおそれがあったから、造船業者に同軸のカラーチェックの実施を指示するなど、同軸の点検を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、これまで軸系の折損事故などにあったことがなかったため、中間軸等に亀裂などが生じることはないものと思い、同軸の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、出渠後、漁場からの帰港中、繰返し曲げ応力により、中間軸の船尾側軸継手付近に生じていた亀裂が進行し、軸心にほぼ直角に同軸を折損させるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 Cが、主機の船尾管支面材の取替え工事にあたり、中間軸を抜き出した際、カラーチェックなどによる同軸の点検を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 Cに対しては、本件以降、主機の船尾管支面材の取替え工事等にあたり、中間軸等を抜き出した際には、同軸等のカラーチェックを実施するなど、同種事故の再発防止に努めている点に徴し、勧告しない。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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