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 海難審判庁採決録 >  2003年度(平成15年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成15年仙審第17号
件名

油送船鶴翔丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成15年11月11日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(内山欽郎、吉澤和彦、勝又三郎)

理事官
弓田邦雄

受審人
A 職名:鶴翔丸機関長 海技免許:四級海技士(機関)(機関限定)

損害
過給機タービンホイール、インペラ及び軸受装置等に損傷

原因
主機排気タービン過給機の整備・取扱不良

主文

 本件機関損傷は、主機排気タービン過給機にサージングが発生するようになった際の措置が適切でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年9月12日07時00分
 岩手県釜石港南南東方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 油送船鶴翔丸
総トン数 1,599トン
全長 92.80メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,471キロワット
回転数 毎分240

3 事実の経過
 鶴翔丸は、平成5年11月に進水した、重油の輸送に従事する鋼製油送船で、可変ピッチプロペラを推進器とし、阪神内燃機工業株式会社製の6EL38型ディーゼル機関を主機として装備し、自動負荷制御装置によって航海中はプロペラ翼角を自動的に変化させて主機の回転数を一定に保つようになっていたほか、主機の燃料にはC重油を使用し、主機の船尾側架構上には、株式会社新潟鐵工所製のNR26/R型と称する輻流式排気タービン過給機(以下「過給機」という。)を付設していた。
 過給機は、単段のラジアル式タービンと単段の遠心式コンプレッサとがロータ軸で結合され、同軸中央部が2個の浮動スリーブ式の平軸受(以下「浮動軸受」という。)と同軸受間のスラストリングで支えられていて、タービン入口ケーシングに流入した主機の排気ガスが、ノズルリングで加速され、タービンホイールに作用してロータ軸を回転させる一方、吸入フィルタからコンプレッサ入口ケーシングに吸入された機関室内の空気が、インペラ及びディフューザで圧縮されて主機に供給されるようになっていた。
 鶴翔丸は、毎年入渠して過給機を開放し、各部を掃除して浮動軸受を取り替えるなどの整備を行うとともに、2年ごとに主機を開放・整備し、月間400時間ないし500時間ほど主機を運転しながら、運航に従事していた。
 A受審人は、平成11年11月から鶴翔丸に機関長として乗り組み、航海中には自らも機関室当直に就いて各機器の運転管理に携わっており、過給機については、ほぼ1箇月ごとにタービン側及びコンプレッサ側の注水洗浄を行うなどして運転管理に当たるほか、同12年4月の入渠時に過給機の開放に立ち会ってタービン側の汚れ具合に異常がないことを確認していた。また、同人は、出渠後に傭船者が変わり、運航形態の変更に伴って主機の運転時間が月間500時間ないし600時間に増加してからも、従前どおりの間隔で注水洗浄を行っていたが、同13年6月の入渠時にも過給機の開放に立ち会ってタービン側の汚れ具合に異常がないことを確認していた。
 鶴翔丸は、その後もほぼ1箇月ごとに過給機の注水洗浄が行われていたところ、入渠時期の遅れからか過給機のノズルリング及びタービンホイールの燃焼生成物の堆積量が増加し、同14年9月2日ごろから負荷変動のない通常の航海中に過給機にサージングが発生するようになっていた。
 ところで、過給機メーカーは、ノズルリング及びタービンホイールにカーボン等の燃焼生成物が付着して堆積すると、サージングが発生して過給機に悪影響を及ぼすこと、及びサージングが発生するようになった場合にはタービン側の洗浄を行うことなどを取扱説明書中に記載して、取扱者に注意を促しており、A受審人もこのことを知っていた。
 ところが、A受審人は、自身の当直中に過給機がサージングするようになったのを認めるとともに他の当直者からもサージング発生の報告を受けていたが、翌月には定期検査工事が予定されていて過給機を開放整備することになっていたので、それまでは大丈夫だろうと思い、注水洗浄を繰り返し行うなどの適切な措置を採らないまま、過給機の運転を続けていた。
 その後、鶴翔丸は、過給機のサージングによるロータ軸の振動によって浮動軸受及びスラストリングの異常磨耗が進行する状況のもと、北海道稚内港で積荷のA重油を荷揚げしたのち、A受審人ほか9人が乗り組み、空倉のまま、船首2.20メートル船尾4.60メートルの喫水をもって、同月10日11時10分同港を発し、京浜港川崎区に向かった。
 翌11日08時30分ごろ、A受審人は、機関室当直者から過給機にサージングが発生するとともに主機のミスト抜き管からオイルミストが出ているとの報告を受け、燃料を切り替えて主機を停止したのち、主機メーカーに問い合わせてクランク室内部の点検等を行ったものの、異常を発見出来なかったので、主機を再始動して続航した。
 こうして、鶴翔丸は、主機の回転数を毎分224とし、プロペラ翼角を15.1度とした全速力前進で航行中、過給機にサージングが発生すると同時にタービンホイール及びインペラがケーシングに接触し、翌々12日07時00分首埼灯台から真方位091度4.5海里の地点において、過給機が異音を発した。
 当時、天候は晴で風力3の北風が吹いていた。
 A受審人は、機関室当直者から過給機に異常が生じた旨の連絡を受けたので直ちに機関室に急行し、主機を停止して過給機タービン側出口ケーシングのドレンコックを開けたところ、潤滑油の流出を認めたので、主機の運転は不可能と判断し、事態を船長に報告した。
 鶴翔丸は、来援した引船に曳航されて岩手県大船渡港に入港し、整備業者が過給機を開放して調査した結果、タービンホイール、インペラ及び軸受装置等に損傷が認められたので、損傷部品を新替えするとともにノズルリングに付着している燃焼生成物を除去するなどの修理を行った。 

(原因)
 本件機関損傷は、過給機の運転管理にあたり、通常航海中にサージングが発生するようになった際の措置が不適切で、サージングが発生するまま過給機の運転が続けられ、浮動軸受及びスラストリングが異常磨耗してロータ軸が振れ回ったことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、過給機の運転管理にあたり、通常航海中にサージングが発生するようになったのを認めた場合、タービン側が汚損しているおそれがあったから、タービン側の注水洗浄を繰り返し行うなど、適切な措置を採るべき注意義務があった。ところが、同人は、翌月に定期整備が予定されていたのでそれまでは大丈夫だろうと思い、タービン側の注水洗浄を行わなかった職務上の過失により、サージングが発生するまま過給機の運転を続け、浮動軸受及びスラストリングの異常磨耗によりロータ軸が振れ回ってタービンホイール及びインペラがケーシングに接触する事態を招き、タービンホイール、インペラ及び軸受装置等を損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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