(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年4月28日00時40分
色丹島東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第七みなと丸 |
総トン数 |
160トン |
登録長 |
33.45メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
1,765キロワット |
回転数 |
毎分750 |
3 事実の経過
第七みなと丸(以下「みなと丸」という。)は、平成2年4月に進水した、沖合底びき網漁業に従事する船首船橋・船尾機関室型の鋼製漁船で、可変ピッチプロペラを有し、主機として株式会社新潟鐵工所が製造した6MG28HX型と称するディーゼル機関を備え、減速機を介してプロペラと連結し、動力取出軸には増速機を介して漁労機械用油圧ポンプが連結していた。
減速機は、新潟コンバーター株式会社が製造したMGR3243VC型と称するもので、入力軸が湿式多板クラッチを介して子歯車に連結し、これに組み合った親歯車で出力軸が回転する構造となっていた。
減速機の潤滑油系統は、直結潤滑油ポンプにより同機底部の容量120リットルの油だまりから吸引、加圧された潤滑油が2方向に分岐し、一方が26.0キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)に調圧されてクラッチの作動ピストンに導かれる作動油経路となり、他方が4.0キロに調圧されて軸受、歯車及びクラッチ板に導かれる潤滑油経路となっていて、潤滑油経路の圧力が1.1キロ以下になると警報を発するようになっていた。
減速機の潤滑油及び作動油の各圧力計は、主機左舷前部に設置された計器盤に組み込まれ、減速機から計器盤に至る導管は、潤滑油圧力計のものが外径8ミリメートル(以下「ミリ」という。)の銅管、作動油圧力計のものが同径のステンレス管で、両導管が束ねられて機関室床板下に配管され、5箇所ばかり設置された防振バンドによって固定されていた。
ところで、防振バンドは、両導管を束ねてゴムで巻いたうえ、押さえ金具をボルトとナットでアングル材に締め付ける構造となっており、経年によるナットの緩みやゴムの硬化で同金具の締付力が低下し、やがてはゴムが脱落して導管が押さえ金具やアングル材に直接触れて摩耗するおそれがあった。また、減速機の潤滑油は、消費量が少ないものの、外部漏洩により油量が減少することがあるので、漏油を早期に発見できるよう、毎日油量を点検するなどして、油量管理を十分に行う必要があった。
A受審人は、平成13年7月中間検査工事後に乗船して機関の保守運転管理に当たり、主機を年間4,500時間ばかり運転し、減速機については運転時間1,500時間ごとに潤滑油を新替えすることとしており、同年12月末に業者の手により潤滑油を新替えした。
翌14年2月中旬、A受審人は、減速機の潤滑油を5リットル補給したのち、いつしか主機最後部下方の防振バンドのゴムが脱落し、減速機の潤滑油圧力計の導管が摩耗して微細な破口を生じ、潤滑油が外部に漏洩して油量が減少する状況となったが、これまで消費量が少なかったので頻繁に油量を計測するまでもないと思い、補給後一度も油量を点検しなかったので、このことに気付かなかった。
こうして、みなと丸は、A受審人ほか14人が乗り組み、操業の目的で、船首2.2メートル船尾4.6メートルの喫水をもって、同年4月26日19時00分北海道花咲港を発し、色丹島東方の漁場に至ってオッタートロール式の底びき網漁を続けているうち、逆転機の潤滑油の漏洩が進行し、越えて28日00時40分北緯43度48分東経147度47分の地点において、主機を回転数毎分670プロペラ翼角を9.5度として約3ノットの速力で揚網中、減速機油だまりの油面が低下し、潤滑油ポンプが空気を吸い込み、潤滑油圧力低下警報が作動した。
当時、天候は晴で風力2の西風が吹き、海上は穏やかであった。
機関室当直中のA受審人は、減速機を点検して過熱しているのを認め、船長に主機を停止したい旨を告げ、揚網を待つうち00時50分異音とともにクラッチが脱となったことを知り、揚網を終えた01時00分主機を停止して救援を求め、みなと丸は、僚船により青森県八戸港に引き付けられ、調査の結果、入力軸、同軸の玉軸受及びクラッチ板などが焼損していることが判明し、のち修理された。
(原因)
本件機関損傷は、主機減速機の潤滑油の油量管理が不十分で、潤滑油圧力計導管の防振バンド部に生じた破口から同油が漏洩し、潤滑油不足となったまま運転が続けられ、減速機の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、主機減速機の保守運転管理に当たる場合、潤滑油の漏洩を早期に発見できるよう、毎日油量を点検するなどして、油量管理を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、これまで潤滑油の消費量が少なかったので頻繁に油量を計測するまでもないと思い、油量管理を十分に行わなかった職務上の過失により、潤滑油圧力計導管の防振バンド部に生じた破口から潤滑油が漏洩して、同油が不足していることに気付かないまま運転を続けて潤滑阻害を招き、入力軸、同軸の玉軸受及びクラッチ板などを焼損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。