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 海難審判庁採決録 >  2003年度(平成15年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成15年函審第24号
件名

漁船第八暁丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成15年11月14日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(岸 良彬、黒岩 貢、野村昌志)

理事官
河本和夫

受審人
A 職名:第八暁丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
主機ピストン5個、シリンダライナ全数、過給機のロータ軸、同軸軸受及び軸受ハウジングが焼損

原因
主機冷却海水ポンプの整備不十分

主文

 本件機関損傷は、冷却海水ポンプの整備が不十分で、主機の冷却が阻害されたことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年9月9日09時50分
 北海道豊浜漁港西方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第八暁丸
総トン数 19.72トン
登録長 17.38メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 441キロワット
回転数 毎分1,350

3 事実の経過
 第八暁丸(以下「暁丸」という。)は、昭和54年1月に進水した、いか一本つり漁業に従事するFRP製漁船で、主機として、平成9年3月に約7年使用の中古機関と換装した、三菱重工業株式会社製造のS6R2F-MTK型と称するディーゼル機関を備え、操舵室の主機計器盤には回転計、冷却清水温度計及び排気温度計などが組み込まれていた。
 主機の冷却海水系統は、ヤブスコ式の直結冷却海水ポンプにより海水吸入弁から吸引、加圧された海水が、2方向に分岐して一方が空気冷却器及び清水冷却器を、他方が逆転減速機の潤滑油冷却器を経て、それぞれ左舷外板に設けられた船外吐出口に至る経路となっていた。
 また、主機の冷却清水系統は、直結冷却清水ポンプにより冷却器内蔵の清水タンクから吸引、加圧された清水が、潤滑油冷却器、シリンダジャケット、シリンダヘッド、冷却水出口集合管及び排気集合管を経て、再び清水タンクに戻る経路となっていた。
 そして、主機の潤滑油系統は、直結潤滑油ポンプによりクランク室底部の油だまりから吸引、加圧された潤滑油が、潤滑油こし器と潤滑油冷却器を経て入口主管に至り、主軸受、カム軸受、ピストン冷却油ノズル及び過給機などに分岐し、各部の潤滑と冷却を行ったのち、再び油だまりに戻る経路となっていた。
 A受審人は、昭和50年7月4日に一級小型船舶操縦士免許を取得し、平成元年5月ごろ暁丸を中古で購入して以来船長として乗り組み、北海道豊浜漁港を基地として、例年6月から8月20日ごろまでをいか一本つり漁に、11月から翌年1月までをすけとうだら漁にそれぞれ従事し、他の期間を休漁として、8月末から9月にかけて近在の乙部漁港で船体整備を行い、定期的な機関整備を行わずに、主機を年間2,000時間ばかり運転していたところ、平成11年8月主機冷却海水ポンプのゴム製インペラの羽根9枚のうち3枚が破断したので、これを新替えした。
 暁丸は、その後も毎年操業を繰り返しているうち、いつしか主機冷却海水ポンプのインペラの羽根が経年により材料疲労を起こして破断し、冷却海水の通水量が減少するようになった。
 平成14年7月中旬A受審人は、いか一本つり漁に従事中、主機冷却清水温度が通常約60度(摂氏、以下同じ。)のところ約80度に上昇し、冷却海水の船外吐出口からの吐出量が減少しているのを認めたが、休漁期まであと少しなので、それまでは何とか運転できるものと思い、整備業者に依頼するなどして、速やかに冷却海水ポンプの整備を行うことなく操業を続けたことから、羽根の破断片が各冷却器の海水流路を塞ぐようにもなり、更に冷却清水、潤滑油及び給気の各温度が上昇し始めるとともに、潤滑油の粘度低下により、過給機ロータ軸の軸受に異常摩耗を生じて過給機の回転が低下し、主機が給気量不足で燃焼不良を起こして排気温度の上昇と回転の低下をもたらす状況となった。
 8月20日ごろ暁丸は、いか一本つり漁を切り上げて休漁期に入り、同月25日から乙部漁港において船体整備が行われ、引き続き地元の豊浜漁港に回航して機関整備が行われることとなった。
 こうして、暁丸は、A受審人が単独で乗り組み、回航の目的で、船首1.2メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、9月9日09時30分乙部漁港を発し、主機を回転数毎分1,300として豊浜漁港に向け航行中、冷却海水ポンプのインペラの羽根の破断が拡大して冷却海水の通水量が著しく減り、ピストンが冷却阻害で膨張し始め、09時50分檜山豊浜港西防波堤灯台から真方位232度2.0海里の地点において、主機の回転が低下するとともに排気色が黒変した。
 当時、天候は晴で風力2の東風が吹き、海上は平穏であった。
 A受審人は、直ちに主機を止め、機関室に急行し、主機が過熱しているのを認め、冷めるのを待って再始動したところ、船外吐出口からの吐出水量が著しく少なく、水蒸気が出ているのを認め、低速で豊浜漁港に入港し、暁丸は、整備業者による主機の開放調査の結果、ピストン5個、シリンダライナ全数、過給機のロータ軸、同軸軸受及び軸受ハウジングが焼損していることが判明し、のちいずれも新替えされた。 

(原因)
 本件機関損傷は、主機の冷却海水の通水量が減少した際、冷却海水ポンプの整備が不十分で、ゴム製インペラの破断が拡大し、主機の冷却が阻害されたことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、主機の冷却海水の通水量が減少したのを認めた場合、冷却海水ポンプのゴム製インペラが破断しているおそれがあったから、インペラの破断が拡大して主機の冷却が阻害されることのないよう、同ポンプの整備を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、休漁期まであと少しなので、それまでは何とか運転できるものと思い、同ポンプの整備を十分に行わなかった職務上の過失により、インペラの破断が拡大して主機の冷却阻害を招き、ピストン5個、シリンダライナ全数、過給機のロータ軸、同軸軸受及び軸受ハウジングに焼損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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