(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年12月22日13時45分
豊後水道 佐田岬東方沖
2 船舶の要目
船種船名 |
旅客船ニュー豊予 |
総トン数 |
699トン |
全長 |
71.50メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
2,942キロワット |
回転数 |
毎分720 |
3 事実の経過
ニュー豊予は、平成元年11月に進水した2機2軸を備えた鋼製旅客船兼自動車航走船で、僚船2隻とともに大分県佐賀関港と愛媛県三崎港間を約1時間10分で結ぶ毎日上下各16便の定期運航に従事しており、主機として、いずれもダイハツディーゼル株式会社が同年に製造した6DLM-28S型ディーゼル機関を2機備え、それぞれ逆転減速機を介してプロペラを連結し、操舵室から遠隔操縦が行えるようになっていたが、発停は機関室で行われ、両舷主機とも各シリンダには船首側から1番ないし6番の順番号が付されていた。
主機の冷却清水系統は、電動の冷却清水ポンプによって吸引加圧された冷却清水が、両舷主機に分流したうえ各シリンダのジャケットとシリンダヘッド及び過給機ケーシングを冷却する経路(以下「ジャケット系」という。)と、排気弁箱と同弁座を冷却する経路(以下「弁シート系」という。)に分岐して各部を冷却したのち、いずれも出口主管から自動温度調整弁付の清水冷却器に至り、同冷却器出口で合流して同ポンプ吸引管へ環流するほか、一部が出口主管から空気抜き管を経て機関室上方に設置した清水膨張タンクに導かれ、加圧管を経て同吸入管に戻るようになっていた。
また、主機の冷却清水温度上昇警報装置は、運転中出口主管で75ないし80度(摂氏、以下同じ)の冷却清水温度が、ジャケット系において85度、弁シート系において90度まで上昇するとそれぞれ作動し、機関室前部の機関監視室に設置された監視盤などで警報を発するとともに警報ランプを点灯するようになっていたものの、冷却清水ポンプを始動しないまま運転するなどして系統内を冷却清水が循環していないときには作動しない可能性があった。
A受審人は、同5年4月にK株式会社に一等機関士として入社し、同13年1月に一括公認を受けた機関長兼一等機関士に昇進したのち、1箇月毎の配乗表に基づき2日乗船後2日休日となる就労体制のもとで乗船勤務を行っていたもので、同14年12月21日の初便からニュー豊予に機関長として乗り組んで機関の運転管理に当たり、出入港時には一等機関士を指揮して2人で各機器の運転操作を行い、航海中は往航と復航とに分けて交代で機関当直に携わっていた。
ところで、A受審人は、主機の運転に当たって、主機関係電動ポンプ類のスイッチ操作を機関室前部の機関監視室内に設置された集合始動器盤で自らが行い、冷却海水ポンプは初便から終便まで連続運転とし、2台備えられた冷却清水ポンプについては、1日ごとに切り替え、各便ごとの主機始動前に通油用の予備潤滑油ポンプとともに始動して主機停止の数分後に停止するようにしていた。
翌22日12時55分ごろ、A受審人は、三崎港発第6便の運航に備えフェリー岸壁にシフトするため主機の運転準備に取り掛かり、機関監視室に入って予備潤滑油ポンプを始動したものの、うっかりして冷却清水ポンプを始動し忘れ、右舷及び左舷主機の順に通油を行ったのち、13時00分ごろ右舷主機を一等機関士に始動させ、続いて自らが左舷主機を始動していずれも中立運転とした。ところが、いつもの手順で作業を済ませたものと思い、機側操縦ハンドル前の計器盤で冷却清水圧力などに異常がないか確認しなかったので、冷却清水ポンプを運転していないことに気付くことなく、操舵室に機関準備完了を連絡し、同時10分同岸壁に着岸後一等機関士の部署を解き、燃料油サービスタンクへの燃料油移送作業を開始した。
こうして、ニュー豊予は、A受審人ほか8人が乗り組み、乗客22人及び車両10台を載せ、13時30分三崎港を発し、佐賀関港に向かって主機を回転数毎分650の全速力にかけて航行中、機関監視室で運転監視中のA受審人が依然として主機冷却清水ポンプを始動していないことに気付かず、両舷主機が過熱してシリンダヘッド水密Oリング類の硬化や油膜切れによるピストンとシリンダライナの金属接触が生じ始める状況となったが、系統内を冷却清水が循環していないために冷却清水温度上昇警報装置が作動しないまま運転が続けられた。
やがてA受審人は、燃料油移送ポンプが自動停止したので、燃料油サービスタンクを切り替えるため機関監視室から出たとき、機関室内の熱気と焦げ臭い異臭を感じ、左舷主機の3番と4番シリンダの間に置いていた漏油受け用のウエスが発煙しているのを発見する一方、清水膨張タンクの空気抜きから蒸気が噴気しているのを上甲板後部で認めた一等機関士が機関室に急行したことで、冷却清水ポンプを運転していないことに気付き、13時45分佐田岬灯台から真方位077度2.3海里の地点において、操舵室に両舷主機の減速を通報した。
当時、天候は晴で風力2の北風が吹き、海上はやや波立っていた。
A受審人は、主機を微速力前進まで減速して除冷運転を続けるうち、100度まで上昇していたシリンダヘッド出口の冷却清水温度計示度が90度以下に降下したのを確認して冷却清水ポンプの運転を始め、その後各運転諸元に異常がないことから、操舵室に連絡して主機を通常運転に戻し、その後も主機の詳細点検を行わないで3往復運航したのち佐賀関港外に錨泊した。
ニュー豊予は、翌朝の始動準備で左舷主機をエアランニングしたとき、指圧器弁から水の噴出が認められたために運航を取り止め、点検した修理業者が6番シリンダの燃料噴射弁ノズルホルダガイドの水密Oリングなどが熱損しているのを発見し、同シリンダヘッドを予備ヘッドと交換したほか、同機他シリンダの排気弁や燃料噴射弁ノズルホルダなどを取り替えて定期運航を続け、翌15年1月23日定期検査のために入渠して両舷主機を開放整備した際、冷却阻害に起因するシリンダライナの異常摩耗が発見され、全シリンダライナが新替えされた。
(原因)
本件機関損傷は、愛媛県三崎港を出航のため主機を始動する際、冷却清水圧力の確認が不十分で、電動冷却清水ポンプが始動されないまま主機の運転が続けられて過熱したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、機関の運転管理に当たり、出航のため主機を始動する場合、冷却清水が通水されずに過熱運転することのないよう、冷却清水圧力に異常がないか確認すべき注意義務があった。ところが、同人は、いつもの手順で作業を済ませたと思い、冷却清水圧力に異常がないか確認しなかった職務上の過失により、電動冷却清水ポンプを始動していないことに気付かないまま主機の運転を続け、主機が過熱する事態を招き、シリンダヘッドの水密Oリング類を熱損し、全シリンダライナに異常摩耗を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。