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平成15年門審第49号
件名

旅客船よしふく火災事件

事件区分
火災事件
言渡年月日
平成15年12月15日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(安藤周二、長浜義昭、千葉 廣)

理事官
大山繁樹

受審人
A 職名:よしふく船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
機関室の側壁、天井防音壁及び電線等を焼損

原因
燃料油・潤滑油等の点検・取扱不良

主文

 本件火災は、主機潤滑油系統油受の油量が増加する際、燃料油系統の漏洩調査が不十分で、燃料噴射ポンプから漏洩した燃料油が潤滑油に混入するまま運転が続けられたばかりか、クランク室から跳ね上げられてガス抜管に滞留した燃料油混じりの潤滑油を除去する措置がとられず、同油がガス抜管から噴出し、排気管に降りかかって発火したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年5月4日11時15分
 山口県仙崎港
 
2 船舶の要目
船種船名 旅客船よしふく
総トン数 8.5トン
全長 13.30メートル
2.30メートル
深さ 1.53メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 154キロワット
回転数 毎分2,600

3 事実の経過
 よしふくは、昭和59年2月に進水した、山口県仙崎港から青海島周辺を巡る遊覧航海に従事する最大搭載人員38人のFRP製旅客船で、船首側から順に前部客室、操舵室及び後部客室並びに操舵室下方に機関室がそれぞれ配置され、操舵室に主機遠隔操縦装置が備えられていた。
 機関室は、長さ2メートル幅2メートル高さ1.4メートルで、右舷側通路壁の長さ166センチメートル(以下「センチ」という。)高さ64センチの開口部蓋(ふた)を取り外して出入りするようになっており、中央部に主機が設置され、船尾天井左舷側に内径10センチの換気管及び同右舷側に内径20センチの空気取入管が設けられ、両管先端部が操舵室屋上に導かれていた。
 主機は、昭和63年10月換装時に設置された、いすゞ自動車株式会社製造のUM6BG1TC型と呼称されるディーゼル機関で、燃料油として軽油が使用され、クランク室右舷側にボッシュ式集合形の燃料噴射ポンプが装備されていた。また、主機の過給機は、架構船尾側に付設され、ラギングが施された排気管が接続されており、クランク室にはオイルミスト等を排出する目的で、内径30ミリの螺旋状(らせんじょう)針金入り透明ビニールホースのガス抜管が取り付けられていた。ガス抜管は、クランク室から立ち上がり、排気管上方沿いの水平部が機関室天井から(つるされ)され、前示換気管の内側を貫通して先端部に固定されていた。
 主機の潤滑油系統は、クランク室底部の容量26リットルの油受(以下「油受」という。)に入れられた潤滑油が、直結駆動の潤滑油ポンプに吸引され、潤滑油こし器、潤滑油冷却器及び潤滑油主管を順に経て各部に分岐し、カム室の燃料噴射ポンプ下部やカム軸等を潤滑した後、油受に戻る経路で循環しており、油受油量計測用の検油棒がクランク室右舷側に差し込まれていた。
 A受審人は、昭和52年10月に一級小型船舶操縦士の免許を取得し、平成9年6月によしふくの船長として乗り組み、操船のほか主機の運転保守にあたっていたもので、同船は冷暖房設備がないため、同14年には専ら繁忙期における臨時便として運航され、主機を延べ200時間ばかり運転しており、7月上旬に潤滑油及び潤滑油こし器フィルタエレメントを定期交換し、11月下旬から翌15年3月中旬にかけての冬場に3日間隔で毎回30分間程度、蓄電池の充電を兼ねて暖機運転を行い、始動前に油受の油量を点検していた。
 ところで、主機は、燃料噴射ポンプのバレルとプランジャ摺動部(しゅうどうぶ)の摩耗が徐々に進行し、いつしか同ポンプから漏洩した燃料油がカム室の潤滑油に混入していたことから、潤滑油の定期交換後、運転に伴って同油が消費されていたものの、油受の油量が減少しない状況になっていた。
 よしふくは、3月20日に当年最初の、5月3日に2回目の運航が行われ、主機の運転が続けられているうち、漏洩した燃料油の混入量が増加し始めた。さらに、主機のガス抜管は、水平部でたるんだ箇所を生じたことから、クランク室から飛沫状(ひまつじょう)で跳ね上げられた燃料油混じりの潤滑油が同箇所に滞留し、閉塞(へいそく)する状況になった。
 しかし、A受審人は、5月4日朝始発の運航に備えて主機の始動前に油受の油量を点検し、油量の増加を認めた際、油量がほぼ一杯入っているから問題がないだろうと思い、業者に依頼するなどして燃料油系統の漏洩の有無を調査しなかったので、燃料油が燃料噴射ポンプから漏洩していることに気付かず、さらに、ガス抜管水平部のたるんだ箇所に滞留した油を認めたが、その箇所を手直しするなどして同油を除去する措置をとることなく、運転を行った。
 こうして、よしふくは、A受審人ほか1人が乗り組み、旅客27人を乗せ、同日2回目の青海島一周の遊覧航海を行う目的で、船首0.20メートル船尾1.20メートルの喫水をもって、10時10分仙崎港を発し、主機を回転数1,500(毎分回転数、以下同じ。)にかけて岩場等を巡り終え、11時05分帆止ノ瀬戸を通過して全速力前進の回転数2,400に増速し、操舵室の天窓から見張りをしながら帰航中、燃料油が潤滑油に混入するまま運転が続けられ、ガス抜管に滞留した燃料油混じりの潤滑油がクランク室内の圧力上昇により急激に押し上げられて同管の先端部から噴出し、外周を伝わって排気管の高温部分のラギングに降りかかり、同受審人が噴出油に気付いて主機を停止した後、機関室の開口部蓋を取り外したところ、同ラギングにしみ込んだ油が発火して燃え上がり、11時15分仙崎港沖防波堤南灯台から真方位065度1,150メートルの地点において、同室の火災を発見した。
 当時、天候は晴で風力1の北北東風が吹き、海上は穏やかであった。
 よしふくは、A受審人が持運び式消火器を用いて消火活動を行ったうえ陸上側に連絡し、鎮火した後、旅客全員を来援した救助船等に無事移乗させ、仙崎港に曳航された。
 火災の結果、よしふくは、機関室の側壁、天井防音壁及び電線等を焼損し、のち各焼損箇所等が修理され、また、再発防止対策として、主機のガス抜管の模様替措置がとられた。 

(原因)
 本件火災は、主機油受の油量が増加する際、燃料油系統の漏洩調査が不十分で、燃料噴射ポンプから漏洩した燃料油が潤滑油に混入するまま運転が続けられたばかりか、クランク室から跳ね上げられてガス抜管に滞留した燃料油混じりの潤滑油を除去する措置がとられず、同油がクランク室内の圧力上昇によりガス抜管の先端部から噴出し、外周を伝わり排気管の高温部分に降りかかって発火したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、操船のほか主機の運転保守にあたり、始動前に油受の油量の増加を認めた場合、燃料油が潤滑油に混入しているおそれがあったから、業者に依頼するなどして、燃料油系統の漏洩の有無を調査すべき注意義務があった。しかし、同受審人は、油受の油量がほぼ一杯入っているから問題がないだろうと思い、燃料油系統の漏洩の有無を調査しなかった職務上の過失により、燃料油が燃料噴射ポンプから漏洩していることに気付かず、潤滑油に混入するまま運転を続け、クランク室から跳ね上げられてガス抜管に滞留した燃料油混じりの潤滑油が同管の先端部から噴出し、外周を伝わり排気管の高温部分に降りかかって発火し、機関室の火災を招き、側壁、天井防音壁及び電線等を焼損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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