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 海難審判庁採決録 >  2003年度(平成15年) > 火災事件一覧 >  事件





平成15年横審第76号
件名

漁船いけす丸火災事件(簡易)

事件区分
火災事件
言渡年月日
平成15年11月28日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(大本直宏)

副理事官
入船のぞみ

受審人
A 職名:いけす丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
主機遠隔操縦装置、主機計器盤、主配電盤、無線機、魚群探知器及び操舵室内配線等を焼損、消火用海水により機関室内の主発電機及び自動調整器を濡損

原因
火気取扱い不適切

裁決主文

 本件火災は、火気の取扱いが適切でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年3月13日21時00分
 駿河湾
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船いけす丸
総トン数 3.6トン
登録長 9.00メートル
2.81メートル
深さ 1.04メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 70

3 事実の経過
 いけす丸は、中型まき網漁業船団の網船である総トン数39.98トンの第八いけす丸(以下「網船」という。)に付属する、レッコボートと称するFRP製漁船で、漁場往復の航行時、網船の船尾に主機関駆動状態のまま船首部を吊り上げられ、船尾部着水状態で進行し、漁場に到着すると、船首部着水後に網船から離れ、後退しながら網船の船尾部から網を引き出し、展張するなどの作業に従事していた。
 操舵室は、船体中央部のやや前方に位置し、長さ1.40メートル幅1.60メートル高さ1.66メートルで、両舷側にアルミ製引き戸が設けられ、同室前部の機器台上には左舷から順に、魚群探知器、主配電盤、計器盤及び主機遠隔操縦装置、天井部に無線機がそれぞれ設置され、同室後部に固定式長いすがあって、その間が幅約70センチメートル(以下「センチ」という。)の通路となり、床面に木製グレーティングが敷かれ、機器台中央部の右舷寄りに操舵輪が設けられていた。
 A受審人(昭和50年8月8日四級小型船舶操縦士免状取得)は、平成15年2月からいけす丸の船長職にあって、機器台下空所の木製グレーティング敷き床面上で操舵輪の下方に、電気ストーブ(以下「ストーブ」という。)を置き、操舵室内の暖房用に供していた。
 ストーブは、幅50センチ奥行き20センチ高さ40センチの交流用で、転倒すると通電が停止する安全装置付きのものであったが、業者に依頼して、主機の始動用バッテリーからの直流24ボルト給電用に改造され、同安全装置が作動しない機構となり、ストーブ本体上方の中央部に、持運び用の取っ手パイプが渡されていた。
 ストーブの設置模様は、ストーブ底面の左右両面と前面を2.5センチ角の木枠で囲み、木製グレーティングにビス止めし、ストーブ上部は、直径2.0ミリメートルの網補修用の化学繊維索により、取っ手パイプの中央部と機器台下の操舵室前面壁とを結び、移動・転倒防止策にしていた。
 いけす丸は、平成15年3月13日17時00分前示のように網船の船尾配置にあって静岡県静浦港を発し、19時00分駿河湾の漁場付近に至って操業準備にかかり、網船からA受審人ほか甲板員1人が乗り組み、同時15分ストーブの電源を入れて同ストーブが作動している状態下、操舵室において操業開始に備え待機した。
 その後A受審人は、20時10分魚影が薄く操業を中止して帰港する旨の連絡を受け、網船に移乗することにしたが、ストーブの移動・転倒防止策をとっているので大丈夫と思い、終了作業に気を取られ、ストーブの電源を切ってヒーター赤熱状態の消失を確認するなど、火気の取扱いを適切に行わず、甲板員ともども操舵室を無人にして網船に移り休息した。
 こうして、いけす丸は、ストーブが作動している状態のまま網船に連結されて帰港中、網船のピッチングほかの影響で船体の動揺と振動とを繰り返すうち、21時00分伊豆大瀬埼灯台から真方位265度5.0海里の地点において、ストーブ上部の化学繊維索の切断を招き、ストーブが船尾側に転倒して木製グレーティングに着火し、操舵室の火災が発生した。
 当時、天候は小雨で風力4の北東風が吹き、波高約2メートルの波浪があった。
 火災は、網船の航海当直者により発見され、網船からの消火用海水の放水などによる消火作業によって、約15分後に鎮火した。
 火災の結果、主機遠隔操縦装置、主機計器盤、主配電盤、無線機、魚群探知器及び操舵室内配線等を焼損し、消火用海水により機関室内の主発電機及び自動調整器を濡損したが、のちいずれも新替又は修理された。 

(原因)
 本件火災は、夜間、駿河湾において、操業中止の連絡を受け、レッコボートから網船に移乗する際、火気の取扱いが不適切で、操舵室内のストーブの電源を切らず、ストーブが作動している状態のまま同ボートを無人とし、網船船尾部で船首部を吊り上げられた状態で航行中、ストーブが船体動揺等で転倒し、床面の木製グレーティングに着火して、操舵室内に延焼したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、駿河湾において、操舵室で操業開始に備え、ストーブが作動している状態にして待機中、操業を中止して帰港する旨の連絡を受け、網船に移乗する場合、ストーブの電源を切ってヒーター赤熱状態の消失を確認するなど、火気の取扱いを適切に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、ストーブの移動・転倒防止策をとっているので大丈夫と思い、終了作業に気を取られ、火気の取扱いを適切に行わなかった職務上の過失により、ストーブが作動している状態のままレッコボートを無人とし、網船に移乗して休息中、ストーブが船体動揺等で転倒して操舵室床面の木製グレーティングに着火し、同室の火災を招き、主機遠隔操縦装置、主機計器盤、主配電盤、無線機、魚群探知器及び操舵室内配線等の損傷と、消火用海水により機関室内の主発電機及び自動調整器の濡損とを生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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