日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2003年度(平成15年) > 転覆事件一覧 >  事件





平成15年函審第29号
件名

漁船第二十五大隆丸転覆事件

事件区分
転覆事件
言渡年月日
平成15年10月28日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(野村昌志、岸 良彬、黒岩 貢)

理事官
千手末年

受審人
A 職名:第二十五大隆丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
操舵室などが損壊、主機及び電気機器を濡損

原因
推進器翼点検口蓋の締め付け状態の確認不十分

主文

 本件転覆は、発航にあたり、推進器翼点検口蓋の締め付け状態の確認が不十分で、同口から浸水したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年3月24日06時57分
 北海道八雲漁港東方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十五大隆丸
総トン数 6.6トン
全長 16.20メートル
全幅 3.77メートル
深さ 1.37メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 90

3 事実の経過
 第二十五大隆丸(以下「大隆丸」という。)は、昭和61年9月に進水した、ほたて貝養殖漁業に従事する一層甲板型のFRP製漁船で、A受審人(平成2年9月一級小型船舶操縦士免許取得)ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.6メートル船尾1.7メートルの喫水をもって、平成15年3月24日03時00分北海道八雲漁港を発し、同港東方沖合のほたて貝養殖漁場に向かった。
 大隆丸は、船首部に操舵室を、中央より少し後方に機関室囲いをそれぞれ有し、操舵室と機関室囲いの間が前部甲板に、機関室囲い後方が後部甲板になり、後部甲板前部の船体中心線から40センチメートル(以下「センチ」という。)左舷寄りに伸縮アーム付きのクレーン1台が設置され、同甲板下は船首方から順に倉庫、舵機庫となっており、甲板機械などの油圧管及びキャブタイヤコードの導管として径10センチ長さ1.8メートルの塩化ビニール管(以下「塩ビ管」という。)が、右舷側甲板下面に沿って機関室から舵機庫まで貫通していた。
 また、推進器翼の真上に当たる舵機庫内船首寄りの船底には、同翼が絡索した際の絡索除去作業等のため、径20センチの推進器翼点検口(以下「点検口」という。)が設けられ、同口枠に等間隔に取り付けられた8個のバタフライナット付き起倒式ボルトが、点検口蓋の外周に備わったU字形の鍔を締め付けて水密を保つようになっており、更に同口開放時に他所への浸水を防ぐため点検口の周囲には船底から高さ42センチまで立ち上がった縦35センチ横53センチのコーミングが施されていた。
 ところで大隆丸においては、かつて点検口蓋が水圧や振動によりバタフライナットに緩みが生じて外れたことがあり、そのときは空倉で喫水が浅く、海水がコーミング内に滞留したのみであったが、漁獲物を大量に積載して喫水が増大すると点検口から浸水した海水がコーミングを越え、舵機庫次いで前示の塩ビ管から機関室に流れ込むおそれがあった。
 A受審人は、発航にあたり、点検口蓋を締め付けているバタフライナットにいつしか緩みを生じ、海水がコーミング内に滞留している状況となっていたが、前回の推進器翼絡索除去作業後に同口を閉鎖して半月しか経っていなかったことから、短期間に点検口蓋が緩むことはないものと思い、同口蓋の締め付け状態の確認を十分に行わなかったので、このことに気付かなかった。
 03時30分A受審人は、八雲港東防波堤灯台(以下「東防波堤灯台」という。)から081度(真方位、以下同じ。)3.8海里の漁場に至り、ほたて貝をいつもより多目に積み込んだことから、間もなく喫水線が点検口のコーミング上端を越えるようになり、同口から浸水した海水がコーミングから溢れて舵機庫全域に及び、次いで塩ビ管を伝わって機関室に流れ込み始めたことに気付かないまま、ほたて貝約5トンを12個のもっこに入れて前部甲板上に、漁場に設置していたフロート40個計約150キログラムを1個のもっこに入れて後部甲板上にそれぞれ積載し、06時30分同漁場を発進して帰途に就いた。
 06時39分A受審人は、東防波堤灯台から068度2.6海里の地点に達したとき、針路を242度に定め、10.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で手動操舵により進行した。
 06時43分A受審人は、同針路同速力で続航中、クラッチの油圧低下警報音を聞いて機関室に赴いたところ、同室床に浸水を認めたことから、点検口蓋が外れて浸水したものと推察し、06時45分操舵室に戻って無線で僚船に救助を要請するとともに、針路を250度に転じ、5.0ノットの速力に減じて自動操舵としたのち、舵機庫内の状況を確かめるためクレーンを使用して倉口の蓋に積み上げていたフロートを移動させ、同口蓋を開放したところ、海水が満杯となっているのを認め、このころからクレーンに荷重を掛けたためか、左舷に傾斜し始めながら進行した。
 A受審人は、機関室の排水と前部甲板上のほたて貝の投棄を試みたが、既にビルジポンプやクレーン等が作動せず、海水が甲板上を洗うようになるとともに機関の回転が徐々に低下し、06時55分1ノットほどの速力となったとき、来援した僚船に2人の乗組員と移乗した。
 大隆丸は、乗組員が離船して間もなく、主機が自停し、06時57分東防波堤灯台から073度1,500メートルの地点において、船首を西方に向け、復原力を喪失して左舷側に転覆した。
 当時、天候は晴で風力2の西風が吹き、潮候は下げ潮の初期にあたり、海上は平穏であった。
 転覆の結果、大隆丸は、操舵室などが損壊し、主機及び電気機器が濡損となったが、八雲漁港に引き付けられ、のち修理された。 

(原因)
 本件転覆は、北海道八雲漁港において、発航にあたり、推進器翼点検口蓋の締め付け状態の確認が不十分で、漁場でほたて貝を積載するにつれ、締め付けに緩みが生じていた同口から海水が舵機庫及び機関室に浸水し、帰航中、復原力を喪失したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、北海道八雲漁港において、漁場に向け発航する場合、漁獲物を積載して喫水が増大すると推進器翼点検口から浸水した海水がコーミングを越え、舵機庫及び機関室に流れ込むおそれがあったから、同口蓋の締め付け状態の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、推進器翼絡索除去作業後に点検口を閉鎖して半月しか経っていないことから、短期間に緩むことはないものと思い、同口蓋の締め付け状態の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、いつしか締め付けに緩みが生じていたことに気付かず、漁場でほたて貝を積載するにつれ、点検口から浸水した海水が舵機庫及び機関室に流れ込み、帰航中、復原力を喪失して転覆を招き、大隆丸の操舵室などを損壊させたほか主機及び電気機器に濡損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION