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平成15年広審第95号
件名

引船第五寿丸沈没事件

事件区分
沈没事件
言渡年月日
平成15年12月18日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(西林 眞、道前洋志、佐野映一)

理事官
平井 透

受審人
A 職名:第五寿丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
機関室船底外板に破口、のち解撒処分、燃料油タンクのA重油により周辺の海面を汚染

原因
機関室船底内面に対する腐食状況の点検不十分

主文

 本件沈没は、機関室船底内面に対する腐食状況の点検が不十分で、異種金属接触腐食により船底外板に破口を生じたことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年9月14日18時30分
 山口県 岩国港
 
2 船舶の要目
船種船名 引船第五寿丸
総トン数 19トン
全長 13.44メートル
5.00メートル
深さ 2.10メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット

3 事実の経過
 第五寿丸(以下「寿丸」という。)は、平成5年8月に進水した鋼製引船兼作業船で、船体中央部やや船首寄りに操舵室を設け、その後方が機関室囲壁となっており、甲板下は船首から順に、空所、乗組員居室、機関室、燃料油タンク及び船尾倉庫などが配置されていた。
 機関室は、長さが5.5メートル、上甲板下の高さが約2メートルで、中央部に取り付けられたエンジンガーター上にクラッチ式逆転減速機(以下「減速機」という。)を連結した主機を据え付け、主機及び減速機の周囲には床板として、四隅をねじ止めされた縞鋼板が船底から約0.5メートルの高さに敷設されていた。また、同室船底は、単底構造で、厚さが8ミリメートル(以下「ミリ」という。)の鋼板を使用し、内面にはエポキシ系樹脂塗料が塗布され、船尾管から滴下した海水のほか、海水ポンプグランド部から漏洩した海水及び各機器等からの油類やごみなどがビルジとして滞留するようになっていた。
 A受審人は、昭和45年に専ら海洋土木工事業を営む有限会社Mに入社し、同49年10月に一級小型船舶操縦士免許を取得後は引船などの乗組員として作業に従事したのち、寿丸の建造当初から保船管理責任者となって自らが船長として乗り組み、請け負った工事現場に同社所有の杭打船やクレーン付台船を曳航するとともに、同現場でクレーンオペレータなどの作業にも当たるようにしており、寿丸の機関室ビルジについては、基地としている岡山県水島港に帰港した際、月1ないし2回ビルジを陸揚げ処理するようにし、工事が長期間に及ぶ場合には杭打船などの甲板上に用意したドラム缶へ移送、保管するようにしたものの、主機及び減速機下方の船底内面にはいつもビルジを残した状態であった。
 ところで、A受審人は、毎年1回寿丸を上架して船体及び機関の保守整備を行い、機関室などへの浸水に対する意識もあって、検査工事のときには外板の受検に合わせて機関室の床板を取り外し、船底内面の点検を行うようにしていたが、上架時に船外から見て船底部に異常がなく、同室の舷側や後部から覗いた範囲では内面塗装にも異常を認めなかったことから、まさか腐食で同室側から破口を生じることはあるまいと思い、平成11年9月の第2回定期検査後に航行区域をそれまでの沿海区域から限定沿海区域に変更して以降、入渠工事の際などに、完全にビルジを排除したうえ内面を掃除するなどして、同室船底内面に対する腐食状況を十分に点検していなかった。
 このため、A受審人は、寿丸の運航を続けるうち、機関室床板と機関や船体の隙間から船底に落下していた銅もしくはステンレス鋼製等の船底鋼板よりイオン化傾向が小さい金属性異物が、船体動揺などで船体中央付近に移動し、振動による擦れで経年劣化していた塗膜を損傷させ、いつしかビルジが滞留する状況下で船底鋼板と接触したため、減速機の左舷下方の位置となるフレーム番号7ないし8番のほぼ中間で、中心線から左舷方約250ミリの船底内面において局部的な異種金属接触腐食が生じ、次第に進行する状況となっていることに気付かなかった。
 こうして、寿丸は、A受審人ほか1人が乗り組み、山口県岩国港の埋立地護岸工事現場に杭打船1隻及びクレーン付台船1隻を僚船の引船兼作業船2隻とともに曳航する目的で、同14年9月3日07時00分水島港を発し、同日夕方岩国港の工事現場に到着したのち、錨泊した杭打船に係留された。
 A受審人は、同行した乗組員1人及び作業員4人のほか、他社の作業員3人を加えた9人で、杭打船を錨で移動させながらの試験杭打ちなどに取り掛かり、食事や就寝などはすべて同船の居住区で行い、作業や不測時の移動用として係留を続けていた寿丸については、機関室など船内を毎朝必ず点検するようにし、機関室のビルジ量に異常を認めないまま、同月12日に買い出しに出た作業員を出迎えるために運航したのち、船首1.0メートル船尾2.6メートルの喫水をもって、再び杭打船の左舷船尾に船首尾から各3本の係留索を取って左舷付けとし、翌13日の作業を終えたのち、2日間の休日を自宅で過ごすため、乗組員及び作業員全員とともに交通船に乗り、16時30分杭打船を離れた。
 寿丸は、燃料油約2キロリットルを保有し、無人のまま係留されている間に、機関室の前示船底内面に生じていた局部腐食がすり鉢状に進行して船底外板に破口を生じ、同室に海水が浸水し続け、同月14日18時30分岩黒山三角点から真方位099度2.2海里の地点において、係留索で支えられなくなって沈没するところを付近に錨泊していた作業船の監視員によって発見された。
 当時、天候は曇で風力1の北東風が吹き、海上には少し波があった。
 A受審人は、元請会社からの電話で寿丸が沈没したことを知らされ、急いで工事現場に戻ったところ、既に同社の手配で杭打船の周りにオイルフェンスが展張されているのを認め、岩国海上保安部及び同社などの関係者とともに事後の措置に当たった。
 寿丸は、燃料油タンクのA重油が浮遊して杭打船周辺の海面を汚染したが、オイルフェンスで港内への拡散が防止されたうえ、吸着材でほぼ回収される一方、来援した起重機船によって杭打船上に引き揚げられ、機関室船底外板の前示箇所に、内面が長径60ミリ短径40ミリばかりの、外面が長径25ミリ短径20ミリばかりのすり鉢状に進行した楕円形破口を生じていることが判明し、のち解撒処分された。 

(原因)
 本件沈没は、機関室船底内面に対する腐食状況の点検が不十分で、残留していた金属性異物によって船底内面に局部的な異種金属接触腐食が進行し、山口県岩国港において杭打船に無人で係留中、船底外板に破口を生じて機関室に浸水し続け、浮力を喪失したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、船体の保守管理に当たる場合、ここ数年間は機関室床板を取り外して船底内面の状態を確認していなかったのであるから、局部腐食が生じているのを見落とすことのないよう、入渠工事の際などに、完全にビルジを排除したうえ掃除するなどして、船底内面に対する腐食状況を十分に点検すべき注意義務があった。ところが、同人は、上架時に船外から見た船底部に異常がなく、機関室の舷側や後部から覗いた範囲では内面塗装にも異常を認めなかったことから、まさか腐食で同室側から破口を生じることはあるまいと思い、船底内面に対する腐食状況を十分に点検しなかった職務上の過失により、残留していた金属性異物によって同面に局部的な異種金属接触腐食が進行していることに気付かず、船底外板に破口を生じさせて機関室への浸水を招き、浮力を喪失して沈没させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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