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平成14年神審第116号
件名

油送船第十幸丸沈没事件

事件区分
沈没事件
言渡年月日
平成15年10月1日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(竹内伸二、中井 勤、平野研一)

理事官
佐和 明

受審人
A 職名:第十幸丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
機関等に濡れ損を生じ、のち廃船
乗組員が溺死

原因
機関室の防水措置が十分でなかったこと、気象・海象に対する配慮不十分

主文

 本件沈没は、機関室の防水措置が十分でなかったばかりか、高波に対する配慮が不十分で、目的地への航行を中止しなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年9月17日07時45分
 大阪港大阪区舞洲沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 油送船第十幸丸
総トン数 19.74トン
全長 21.01メートル
4.50メートル
深さ 1.60メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 95キロワット

3 事実の経過
 第十幸丸(以下「幸丸」という。)は、平水区域を航行区域とする単底構造の平甲板型鋼製油送船で、船首側から順に船首空所、1番貨物油槽、2番貨物油槽(左及び右)、3番貨物油槽(左及び右)、機関室、燃料油槽及び船尾空所がそれぞれ配置され、機関室上方には操舵室と機関室囲壁があり、両舷ブルワークは船首部及び操舵室後方で高さ70センチメートル(以下「センチ」という。)、中央部では高さ30センチで、操舵室前壁の左右各舷甲板通路に、前部甲板上に上がった海水が船尾甲板に流れないよう、高さ35センチの遮水板が設置されていた。
 満載状態の幸丸は、中央部で喫水が1.50メートル、乾舷が10センチとなり、少し船尾トリムがあれば船尾甲板がほぼ水面と同位置となり、航海中、海水が甲板上に上がりやすいうえ、操舵室より後方には、長径5センチの楕円形または直径2.5センチの円形放水口が、左右各舷4箇所合計8箇所に設けられていたものの、いったん波浪が船尾甲板に打ち込むと、海水が船外に排出されにくく、しばらくの間船尾甲板に滞留した。
 また、船尾甲板にある左右2箇所の機関室入口に鋼鉄製防水扉(縦80センチ、横49.5センチ)が取り付けられていたが、両方の扉ともガスケットが脱落してなくなっていたうえ、左舷側扉のヒンジ2個のうち下方のヒンジが外れていて、扉を持ち上げた状態でハンドルを締め付けないと閉鎖することができなかった。
 平成11年6月7日交付の一級小型船舶操縦士免状を有するA受審人は、別の船長と交代で船長職をとり、主に大阪港内で燃料油等の運搬に従事し、週1回ほど同港を出て西宮方面に行くことがあり、ときどき打ち込んだ海水が船尾甲板に滞留するのを見て、船舶所有者に対し、放水口をもっと大きくするよう口頭で要求し、機関室入口の防水扉の不具合については、同室入口下端が甲板上30センチで、多少の波が打ち込んでも機関室に浸水することがなかったので、そのままにしていた。
 平成14年9月16日夕方A受審人は、大阪府堺市の自宅でテレビの天気予報を見て、荒天となる様子がなかったので、翌日に予定していた兵庫県尼崎西宮芦屋港への航海は支障ないと判断し、翌17日06時過ぎ大阪港大阪区大正内港の鶴町1丁目岸壁に係留中の幸丸に1人で乗り組み、重油64.1キロリットルを各貨物油槽にほぼ満載したほか、ドラム缶入り軽油1,200リットルと潤滑油600リットルとを操舵室前の甲板上に積載してロープで固縛するとともに各貨物油槽のハッチを閉鎖し、尼崎西宮芦屋港今津真砂町に向け出航することとしたが、風がほとんどなく、海面は静かで、沖に出てもそれほど波は高くないと判断し、機関室入口の左右防水扉を開けてロープで縛り、機関室の防水措置が不十分な状態のまま、船首1.2メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、06時20分同岸壁を発し、目的地に向かった。
 発航して数分後A受審人は、主機駆動発電機の異常に気付き、機関を止めてベルトの交換を行ったのち、協鉄輸送岸壁に寄せて乗組員Bを乗せ、07時00分同岸壁を発進し、その後同乗組員に手動で操舵させ、自身は操舵室右舷側で見張りにあたり、港大橋下を経て安治川航路を横切り、幅400ないし600メートルの舞洲(まいしま)、夢洲(ゆめしま)間の水路(以下「水路」という。)に向け港内を西行した。
 A受審人は、07時27分水路東端にあたる、大阪灯台から058度(真方位、以下同じ。)1.6海里の地点で、針路を284度に定めて機関を回転数毎分1,400の前進にかけ、7.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
 A受審人は、水路に少しさざ波があるものの甲板上に海水が上がることもないので機関室入口の左右防水扉を開けたまま水路に沿って航行し、07時36分大阪灯台から030度1.2海里の地点に達したとき、舞洲沖を東行中の引船が、波高約1メートルの波を右舷側に受け、波しぶきを高く上げながら水路に向け来航するのを見て、沖合の南西風により、水路の外に出ると更に波が高くなることを知り、このまま目的地に向かうことに不安を感じたが、高波に対して十分に配慮せず、甲板上に波が頻繁に打ち込むようになれば引き返せばよいと思い、速やかに目的地への航行を中止することなく、同じ針路、速力のまま続航した。
 07時38分A受審人は、大阪灯台から019度1.15海里の地点で、舞洲西端に達し、南西方からの波が次第に高くなったが、反転して水路内に戻らず、針路を目的地に向かう294度に転じるとともに、様子を見るため機関の回転数を毎分700に減じて約2ノットの速力とし、波浪を左舷船首に受け次第に速力を減じながら進行した。
 転針して間もなくA受審人は、波高約1メートルの高波が左舷側ブルワークを越えて前部甲板に打ち込み、操舵室前に置いてあった乗降用踏板が流されそうになったのを見て、操舵室から出て同板を確保しようとしたところ、操舵にあたっていたB乗組員から「大きい波が来る。危ない。」と告げられ、急いで操舵室に戻ったとき、波高1メートルを超える高波が船尾甲板に打ち込み、滞留した海水が機関室入口から同室に流入した。
 A受審人は、機関室への浸水を防ぐため、左右の防水扉を閉鎖しようとしたものの、船尾甲板に置いてあった係留索とオイルフェンスが滞留した海水に流されて同扉前に移動していたので閉鎖することができず、海水が機関室に流入し続けた。
 07時43分A受審人は、波が来る方向に船首を向けようと思い、操舵室に戻ってB乗組員に左舵一杯を令し、間もなく機関が停止したので事態を報告しようと携帯電話で会社に電話をかけたものの応答がなく、その間も高波が船尾甲板に打ち込んで機関室への浸水が続き、07時45分幸丸は、大阪灯台から011度1.2海里の、水深8メートルの地点において、南南西方を向首し停止した状態で、浮力を喪失して船尾から沈没した。
 当時、天候は曇で風力2の南西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期にあたり、波高は大阪港沖合の南西風により約1メートルとなっていた。
 沈没の結果、機関等に濡れ損を生じ、のちサルベージによって引き揚げられたが廃船となり、また、B乗組員(昭和15年2月6日生)が操舵室内に閉じ込められて溺死した。

(原因に対する考察)
 幸丸は、機関室入口に取り付けられた左右の防水扉のガスケットが脱落していたうえ、いずれの防水扉も閉鎖されず、機関室の防水措置が不十分な状態で出航した。本件発生時甲板上に打ち込んだ海水が船尾甲板に滞留したが、防水扉の防水が十分で、同扉が両方とも閉鎖されておれば機関室に浸水することはなく、沈没を避けることができたと考えられる。
 A受審人は、船尾甲板の放水口が小さく、同甲板に海水が滞留しがちであることを知っており、ほぼ満載状態で船尾トリムとなった幸丸の船尾甲板が水面とほぼ同じ高さにあり、舞洲沖では波高が約1メートルに達し、水路から出れば更に波が高くなり、高さ70センチのブルワークを越えて船尾甲板に打ち込み、開放された機関室入口から同室に浸水することが十分に予測できたのであるから、水路から外に出ないで目的地への航行を中止していれば機関室への浸水という事態に至らず、沈没を回避することができた。
 気象情報については、大阪管区気象台の気象資料によれば、当時大阪府全域に雷注意報が発表されていたものの、泉州地方を除く大阪府各地方に強風や波浪についての注意報・警報は発表されておらず、また、兵庫県南部で波高1ないし1.5メートルになるとの予報が神戸海洋気象台から発表されていたが、A受審人が、出航時に舞洲沖で荒天に遭遇することまで予測することは困難であったと認められ、出航時気象情報の収集が不十分であったとしても、このことを本件発生の原因とするのは相当でない。  

(原因)
 本件沈没は、大阪港において、燃料油等をほぼ満載して乾舷が著しく低い状態で、同港大正内港から尼崎西宮芦屋港に向け出航する際、機関室の防水措置が不十分であったばかりか、舞洲、夢洲間の水路を西行中、沖合の南西風により、水路の外に出ると更に波が高くなる状況下、高波に対する配慮が不十分で、目的地への航行を中止せず、高波が船尾甲板に打ち込んで機関室に浸水し、浮力を喪失したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、大阪港において、燃料油等をほぼ満載して乾舷が著しく低い状態で、夢洲、舞洲間の水路を尼崎西宮芦屋港に向け航行中、舞洲沖を東行する引船に波しぶきが上がっている状況を見て、沖合の南西風により、水路の外に出ると更に波が高くなることを知った場合、機関室の防水が十分でなかったうえ、放水口が小さい船尾甲板に海水が滞留しがちであったから、同甲板への海水打込みを避けるよう、速やかに反転して目的地への航行を中止すべき注意義務があった。しかし、同人は、甲板上に波が頻繁に打ち込むようになれば引き返せばよいと思い、速やかに目的地への航行を中止しなかった職務上の過失により、水路出口付近に至り、高波が船尾甲板に打ち込み、機関室に浸水して沈没を招き、機関等に濡れ損を生じさせて廃船に至らしめるとともに、操舵室で操舵にあたっていた乗組員を溺死させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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