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 海難審判庁採決録 >  2003年度(平成15年) > 沈没事件一覧 >  事件





平成15年横審第32号
件名

貨物船千葉航運丸11沈没事件

事件区分
沈没事件
言渡年月日
平成15年10月30日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(稲木秀邦、阿部能正、吉川 進)

理事官
中谷啓二、井上 卓

受審人
A 職名:千葉航運丸11船長 海技免許:六級海技士(航海)(旧就業範囲)

損害
船体は引揚げ後、修理費との関係で解撤

原因
バラストタンク船底弁の開閉動作の確認不十分、同タンクに係る作業方法不適切

主文

 本件沈没は、船首バラストタンクの船底弁を修理した際、同弁の開閉動作の確認が十分でなかったばかりか、同タンクに注水してトリム調整する際、作業方法が不適切で、船首バラストタンクの水位を目視で確かめる目的で、同タンクのマンホールを開放し、同タンクに浸入した海水がマンホールを越えて船倉内に流入したことによって発生したものである。
 受審人Aの六級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年12月4日03時00分
 千葉港千葉区第2区
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船千葉航運丸11
総トン数 151トン
全長 37.25メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 294キロワット

3 事実の経過
 千葉航運丸11(以下「航運丸」という。)は、平成4年5月に建造された船尾船橋型の鋼製貨物船で、千葉港で鋼材を積荷し、東京湾内の各地に揚荷したあとは、同港千葉区第2区の蘇我岸壁に係留していた。
 船体構造は、船首から順に、上甲板下にフォアピークタンク、倉庫、その下部を船首バラストタンク(以下「バラストタンク」という。)、船体中央部を船倉とし、また、船体後部に船橋楼、同楼上甲板に乗組員居住区、その下に機関室、同室前部両舷に燃料タンク、同室後部両舷に1番清水タンク、船尾部に船尾バラストタンク及び最船尾部両舷に2番清水タンクとなっていた。
 倉庫は、船首尾線の縦隔壁で仕切られているが、同隔壁、倉庫と船倉間の隔壁にはそれぞれ開放された交通口があり、また、船底からの高さ1.8メートルのところにあるバラストタンクタンクトップと倉庫間の仕切板にあたる倉庫床面には、長径450ミリメートル(以下「ミリ」という。)短径350ミリの水密蓋により閉鎖されたマンホールが両舷に各1個あった。
 バラストタンクへのバラスト水の注排水は、機関室のバラストポンプに接続される配管によるほか、通常、同タンク船底に設置された呼び径100ミリの船底弁(以下「自然注排水弁」という。)を上甲板上の同弁のハンドル車の操作で、貨物を積むなどして船首が下がったときに同弁を開けると、海水が自然に同タンクに入り、空船のときに同弁を開けると同タンク内の海水が自然に排出されるようになっていた。
 ハンドル車は、上甲板上のバルブスタンドにおいて、開度指示板及び弁の開度位置を指示するインジケータ(以下「インジケータ」という。)が取り付けられたうえ、タンク内の自然注排水弁操作延長棒(以下「延長棒」という。)に接続され、延長棒の先端が、船底弁スピンドルに連結されていた。
 延長棒は、タンク下端において二股フォークになっており、自然注排水弁スピンドルの頭部にナット止めされた平板鉄板の孔に、フォーク先端が差し込まれていた。
 ところで、開度指示板は、縦長にくり貫かれた案内孔を、ハンドル車の軸と逆ねじで組まれたインジケータが上下に動くようになっており、上下動の範囲をずれるとインジケータが案内孔の上下端に当たって、ハンドル車の開閉を制限するおそれがあった。
 A受審人は、上甲板上から自然注排水弁を操作するときに同弁スピンドルに取り付けられた平板鉄板の孔から、延長棒の二股先端部が抜けることがあったので、平成14年11月入渠した際、先端の爪部分を長くすることとした。
 船渠臨時工員は、修理に当たり、A受審人から延長棒の二股先端部が平板鉄板両端の孔から抜ける旨の説明を受け、上甲板からの延長棒の先端部を切断し、新しいものに切り替え後、同人に開閉動作の確認を行うよう告げた。
 A受審人は、バラストタンクの自然注排水弁を修理した後、他の作業の忙しさに紛れたかして、同弁の開閉動作の確認を十分に行わなかったため、上甲板上のバルブスタンドでハンドル車を閉め切る位置まで回しても、同弁が約7ミリ空く(すく)ことに気付かなかった。
 航運丸は、11月9日出渠し、バラストタンクの自然注排水弁が半開となって積荷後は同タンクが注水され、空船になると排水される状況で運航され、9航海行ったのち、同月29日12時10分積荷待機の目的で、蘇我岸壁に係留した。
 越えて12月3日14時20分休暇から帰船したA受審人は、先の入渠工事以来、空船時に船尾トリムが大きくなりすぎてトリム調整に不具合が生じ、等喫水にするために、バラストタンクに海水を注水して調整することとしたが、同タンク内の水位を目視で確かめながらトリム調整した方がよいと思い、海水が船倉内に流入する事態を招かないよう、空船時に測深管で計測しながらバラストポンプを使用して注水するなり、満船時に測深管で計測しながら自然注排水弁を使用して注水するなど、作業方法を適切に行わなかったので、揚荷中は忙しく開放する時間がとれないことから、15時00分その準備として通常閉鎖してある同タンクの左舷側マンホール蓋を開放した。
 こうして、航運丸は、17時00分千葉港千葉区第2区の生浜岸壁へシフトし、同時30分鋼材の積荷を開始して、積荷が終了するころには、船首喫水が増し、バラストタンクタンクトップが水線下となり、18時00分鋼材252トンを積み、船首2.2メートル船尾2.5メートルの喫水をもって、揚地の着桟時間調整のため、同時30分蘇我岸壁に係留以降も、同タンクの自然注排水弁が、上甲板上からは完全に閉鎖されず、半開状態であったため、徐々に海水が同タンクに浸入し、やがて海水が、開放されたマンホールを越えて船倉に流入した。
 翌4日02時00分就寝中のA受審人は、鋼材がすれる音で目覚め、船体が右に傾ぎ(かしぎ)、船首トリムとなった船体が異常に沈下していることに気付いたが、どうすることもできず、03時00分千葉港市原防波堤灯台から真方位077度5,200メートルの前示係留地点で沈没した。
 当時、天候は晴で風力2の北風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
 沈没の結果、航運丸は、引き揚げられたが、修理費との関係で解撤された。 

(原因)
 本件沈没は、入渠してバラストタンクの自然注排水弁を修理した際、同弁の開閉動作の確認が十分でなかったばかりか、出渠して海水バラストによるトリム調整に不具合が生じ、バラストタンクに海水を注水してトリム調整する際、作業方法が不適切で、同タンクの水位を目視で確かめる目的で、同タンクのマンホールを開放し、千葉港千葉区第2区の蘇我岸壁に係留中、同タンクに浸入した海水が、マンホールを越えて船倉内に流入し、浮力を喪失したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、千葉港千葉区第2区にある蘇我岸壁において、海水バラストによるトリム調整に不具合が生じ、バラストタンクに海水を注水して調整をする場合、海水が船倉内に流入する事態を招かないよう、空船時に測深管で計測しながらバラストポンプを使用して注水するなり、満船時に測深管で計測しながら自然注排水弁を使用して注水するなど、作業方法を適切に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、同タンク内の海水の水位を目視で確かめながらトリム調整した方がよいと思い、作業方法を適切に行わなかった職務上の過失により、同タンクのマンホールを開放し、半開状態の同弁から同タンクに浸入した海水が、マンホールを越えて船倉内に流入し、浮力を喪失させて沈没させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の六級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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