日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2003年度(平成15年) > 遭難事件一覧 >  事件





平成15年那審第40号
件名

旅客船葉月丸遭難事件

事件区分
遭難事件
言渡年月日
平成15年12月18日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(小須田 敏、坂爪 靖、上原 直)

理事官
平良玄栄

受審人
A 職名:葉月丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
船体が大破して全損
乗客が左足部挫傷の負傷

原因
荒天措置不適切、発航を取り止めなかったこと

主文

 本件遭難は、荒天状態となることが予想される状況下、発航を取り止めなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年1月3日10時00分
 沖縄県与那国島久部良漁港沖
 
2 船舶の要目
船種船名 旅客船葉月丸
登録長 9.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 88キロワット

3 事実の経過
 葉月丸は、2機2軸を備えたFRP製双胴型旅客船で、平成元年6月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人が1人で乗り組み、客1人を乗せ、海底遺跡を観賞する目的で、船首0.40メートル船尾0.74メートルの喫水をもって、平成15年1月3日08時30分沖縄県与那国島久部良漁港内の係留地を発し、同島南岸沖に向かった。
 ところで、葉月丸は、平成10年にA受審人が自らの手で建造した限定沿海区域を航行区域とする最大とう載人員28人、幅2.83メートル、深さ0.90メートルの船体中央部船底に水中窓を有するグラスボートと称する旅客船で、船首から順に船首甲板、操舵室、オーニングを張った客室及び船尾甲板を設けていた。また、両舷の船首甲板は、甲板上高さ0.7メートルのブルワークでそれぞれ囲まれており、同甲板上の左舷側に直径14ミリメートルの合成繊維製錨索を結んだ5キログラムの三つめ錨を、右舷側に直径24ミリメートルの同製錨索を結んだ10キログラムの四つめ錨をそれぞれ置き、操舵室の船首側に設けたブルワークの中央部にクリートを備え、これに両錨索の他端を結んでいた。
 A受審人は、発航に際し、テレビ放送の天気予報を見て、先島諸島に強風及び波浪注意報がそれぞれ発表されており、寒冷前線の通過に伴って昼前から北風が強く吹き始めることも、また、久部良漁港沖において、北東方に流れる下げ潮の初期にあたることも知っており、強風によって生じる風浪と潮流とが相対すると波形が一段と急峻になるなど、荒天状態となることが十分に予想される状況であったが、葉月丸が復原性能に優れた双胴船であったことから、無難に航行することができるものと思い、既に風力6の北北西風が吹いていたものの、発航を取り止めなかった。
 こうして、A受審人は、09時10分折からの北北西風に対して島影となる与那国島南岸沖を航行して新川鼻沖に至り、しばらくの間海底遺跡の観賞を行ったのち、同時25分帰航の途に就き、同時49分わずか前西埼灯台から180度(真方位、以下同じ。)620メートルの地点で、針路を324度に定めたところ、右舷船首方から往航時より増勢した北寄りの風と高起した風浪を受け、縦揺れと上下揺れとが激しくなったことから、機関を半速力前進にかけて5.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で手動操舵により進行した。
 A受審人は、西埼西方沖に差し掛かるにつれ、強風による風浪と北東方に流れる潮流とにより一段と波形が急峻になるなど、荒天状態となった久部良漁港沖を続航中、波浪が船首部外板に激しく打ち付け、その衝撃で同外板に亀裂が生じるとともに両舷錨がブルワークを越えて海中に落下し、それに伴って両舷錨索が船尾方の水面下に向かって伸出する状況となったものの、大きな動揺を繰り返すなかでの操船に気をとられ、このことに気付かなかった。
 A受審人は、09時54分少し前西埼灯台から276度500メートルの地点に達したとき、突然左舷機が自停したため、針路を久部良漁港の港口付近に向かう055度に転じ、2.5ノットの速力となって続航し、10時00分西埼灯台から346度350メートルの地点において、右舷機も自停して航行不能に陥ったことを知ったものの、どうすることもできないまま漂流を始めた。
 葉月丸は、伸出した錨索が次々と左舷側の推進器翼及び推進器軸に絡まって左舷機が自停し、その後右舷側の推進器翼及び推進器軸にも絡まって右舷機も自停したため、航行不能に陥ったまま折からの風潮流により南東方に流され、10時20分西埼灯台から046度180メートルの地点において、与那国島西埼北岸の裾礁に乗り揚げた。
 当時、天候は曇で風力7の北北西風が吹き、潮候は下げ潮の初期で付近には波高3.5メートルの波浪が生じていた。
 A受審人は、乗り揚げたのち、寄せる波浪及び船体の動揺などを見計らって乗客ともども陸岸に避難し、後日自船の両舷錨索が推進器翼及び推進器軸に絡まっているのを認め、両舷機が次々と自停した理由を初めて知った。
 乗揚の結果、船体が大破して全損となり、乗客が葉月丸から避難するときに左足部挫傷を負った。 

(原因)
 本件遭難は、沖縄県与那国島久部良漁港沖において、荒天状態となることが予想される際、同漁港からの発航を取り止めなかったことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、沖縄県与那国島久部良漁港沖において、強風による風浪と潮流とが相対すると波形が一段と急峻になるなど、荒天状態となることが予想される場合、同漁港からの発航を取り止めるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、復原性能に優れた双胴船であることから、無難に航行することができるものと思い、発航を取り止めなかった職務上の過失により、荒天状態となった久部良漁港沖を航行中、波浪の衝撃で船首部外板に亀裂が生じるとともに船首甲板に置いていた両舷錨が海中に落下し、伸出した錨索が両舷推進器翼及び推進器軸に絡まって航行不能に陥り、折からの風潮流に流されて乗揚を招き、船体を大破させ、乗客が左足部挫傷を負うに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION