(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年6月17日13時55分
長崎県池島南西方ミゼリ
2 船舶の要目
船種船名 |
旅客船第十有明丸 |
総トン数 |
722トン |
全長 |
57.02メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,912キロワット |
3 事実の経過
第十有明丸(以下「有明丸」という。)は、2機2軸の可変ピッチプロペラを装備した鋼製の旅客船兼自動車渡船で、A受審人ほか7人が乗り組み、中間検査を受ける目的で、船首2.2メートル船尾2.5メートルの喫水をもって、平成15年6月17日07時55分熊本県長洲港を発し、佐世保港に向かった。
ところで、A受審人は、佐世保港へ回航するのは初めてであり、当初の航海計画では、長崎県大蟇島の西方を北上することとしていた。
A受審人は、12時00分長崎県樺島南方で船橋当直を引き継ぎ、一等航海士Uを舵輪につけて手動操舵で進行し、同時10分ごろ有明海で若干の遅れを生じていたので、航海時間を短縮するため、池島と大蟇島の東側にある小蟇島との間を通過することとし、海図第203号で付近の水路調査を行い、ミゼリの存在を知った。そして、同時50分ごろ伊王島西方沖合に達し、U一等航海士に針路を池島の東端に向けるよう指示して北上を開始するとともに、同航海士に対し、同島まで4海里となった地点で、針路を池島と小蟇島とのほぼ中央に向く334度(真方位、以下同じ。)とするよう指示した。
U一等航海士は、13時36分大蟇島大瀬灯台から135度5.2海里の地点で、池島までの距離が4海里となったことをレーダーにより確認し、A受審人にその旨を報告して了解を得、針路を池島と小蟇島とのほぼ中央に向く334度に定め、12.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、舵輪の後方に立ち、手動操舵のまま、保針に専念して続航した。
A受審人は、定針後、船橋左舷側のいすに腰を掛けたまま、前方の池島と小蟇島とを見て、ほぼ両島の中央に向く針路で北上していることを認めて大丈夫と思い、レーダーを有効に活用するなどして船位の確認を十分に行わず、折からの潮流により左方に3度圧流されていることに気付かないまま、ミゼリに著しく接近する針路で進行した。
有明丸は、同じ針路及び速力で続航中、13時55分大蟇島大瀬灯台から105度2.0海里のミゼリに乗り揚げた。
当時、天候は雨で風力2の南東風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
乗揚の結果、船底全般に破口を伴う凹損及び推進器翼に曲損を生じたが、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、池島南西方沖合を北上する際、船位の確認が不十分で、ミゼリに著しく接近したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、池島南西方沖合を北上する場合、ミゼリの存在を知っていたのであるから、それに著しく接近しないよう、レーダーを有効に活用するなどして、船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、池島と小蟇島とのほぼ中央に向く針路で北上しているので大丈夫と思い、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、折からの潮流により左方に圧流されていることに気付かないまま進行し、ミゼリに著しく接近して乗揚を招き、船底全般に破口を伴う凹損及び推進器翼に曲損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して、同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。