(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年5月14日02時30分
沖縄県辺戸岬北西岸
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船のり丸 |
総トン数 |
7.9トン |
登録長 |
13.05メートル |
幅 |
3.16メートル |
深さ |
1.06メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
367キロワット |
3 事実の経過
のり丸は、昭和60年7月に進水し、船体後部に操舵室を設けたレーダーを備えない、そでいか旗流し漁業に従事するFRP製漁船で、平成5年9月29日に一級小型船舶操縦士免許を取得したA受審人が同11年10月に中古ののり丸を購入後船長として乗り組み、沖縄県運天漁港を基地として沖縄島東方沖合の漁場で、しけの日を除き、1航海が4ないし5日の操業を周年行っていたところ、同人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.6メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同15年5月6日15時00分同漁港を発し、同島北端辺戸岬東南東方約48海里の漁場に向かった。
23時45分ごろA受審人は、漁場に至り、漂泊して仮眠し、翌7日04時00分ごろ起床して漁具の準備をし、06時00分ごろから19時30分ごろまで操業を行い、その後潮上りしながら漁具の整理などを済ませ21時30分ごろ機関を停止して漂泊し、22時00分ごろから翌日04時00分ごろまで休息した。その後付近漁場を移動しながら連日同じ操業形態を繰り返したものの、予定していた4日間の操業では、漁獲が少なかったのでその後も操業を続け、そでいか約400キログラムを獲たところで漁を終え、同月13日19時30分辺戸岬東方約49海里の、北緯26度54分東経129度10分の地点を発進して帰途についた。
発進したとき、A受審人は、針路を268度(真方位、以下同じ。)に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて6.9ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
その後、A受審人は、操舵室右舷側のいすに腰掛け、肉眼による見張りを行いながら、ときどきGPSも見て操舵操船に当たった。そして、このまま続航すると運天漁港への入港予定時刻が翌日05時00分ごろとなるので、辺戸岬の手前約20海里の地点で漂泊し、2時間ほど仮眠をとったのち同漁港に向けるつもりで進行し、22時54分GPSを見て同岬に25.0海里まで近づいたのを認めた。
そのころ、A受審人は、天気がよく、海上も穏やかで付近に他船を見かけなかったことから気が緩んだうえ、7日間の連続操業による疲れから眠気を催すようになったが、漂泊予定地点まではあと少しだから大丈夫だと思い、手動操舵に切り換えて立った姿勢で操舵を行ったり、外気に当たったりするなどの居眠り運航の防止措置をとらないで、いすに腰掛けて続航するうち、間もなく居眠りに陥った。
23時36分A受審人は、辺戸岬の手前20.0海里で、辺戸岬灯台から088度21.0海里の漂泊予定地点に達したものの、居眠りをしていてこのことに気付かず、辺戸岬北西岸に向かって進行し、翌14日02時30分辺戸岬灯台から065度1,800メートルの地点において、のり丸は、原針路、原速力のまま、同岬北西岸に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力2の南風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
乗揚の結果、舵を脱落したほか、船首から船尾に至る右舷側船底外板に亀裂、破口及び推進器翼に曲損等を生じ、離礁できずに全損となった。
(原因)
本件乗揚は、夜間、沖縄県辺戸岬東方沖合を漁場から同岬手前の漂泊予定地点に向けて航行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、同岬北西岸に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、沖縄県辺戸岬東方沖合を漁場から同岬手前の漂泊予定地点に向けて航行する場合、気の緩みと連続操業による疲れとから眠気を催した場合、居眠り運航とならないよう、手動操舵に切り換えて立った姿勢で操舵を行ったり、外気に当たったりするなどの居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、漂泊予定地点まではあと少しだから大丈夫だと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥り、漂泊予定地点に達したことに気付かず、辺戸岬北西岸に向首進行して乗揚を招き、のり丸の舵を脱落したほか、船首から船尾に至る右舷側船底外板に亀裂、破口及び推進器翼に曲損等を生じさせ、同船を全損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。