(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年4月5日01時30分
鹿児島県上甑島南岸
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第三十八金比羅丸 |
総トン数 |
19トン |
登録長 |
19.52メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
190 |
3 事実の経過
第三十八金比羅丸は、大中型まき網漁業に付属運搬船として従事するFRP製漁船で、平成11年7月交付の一級小型船舶操縦士免状を有するA受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首1.00メートル船尾2.05メートルの喫水をもって、同15年4月4日17時00分鹿児島県串木野港を僚船5隻とともに発し、同県甑列島南方沖合の漁場に至って魚群探索を行った。
ところで、A受審人は、満月前後の5日間と荒天時の休漁日を休暇にあてて北浦町の自宅で過ごしており、4月3日から4日までが荒天による休漁日で、4日午後僚船の乗組員と貸切りバスで自宅から串木野港に戻り、出航準備を行って出航したものであった。また、A受審人は、平素発航時から漁場での魚群探索、漁獲物積込みまでの間単独で操船にあたり、漁場から帰途についたのち船橋当直を小型船舶操縦士免許を有する甲板員に行わせて休息していた。
こうしてA受審人は、発航時から単独で操船を続け、22時00分ごろ上甑島の南方沖合4海里付近で魚群探索を終えてソナーを収納し、集魚中の灯船の東方で操業開始まで漂泊待機しているうち、折からの北西風により沖に向かって圧流され、船体動揺が激しくなったことから、風上の上甑島南方沖合2海里付近の島陰まで微速力前進で潮昇りして再び漂泊し、灯船付近まで圧流されれば潮昇りすることを繰り返した。
翌5日00時27分A受審人は、里埼灯台から190度(真方位、以下同じ。)5.1海里の地点で灯船付近まで圧流されたので、前示島陰の漂泊開始地点まで潮昇りすることとし、針路を328度に定め、機関を回転数毎分450にかけ、3.5ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、自動操舵によって進行したところ、休暇明けで体が夜間操業に順応していなかったうえ、操業開始までの待機という刺激が乏しい状況が加わったこともあって眠気を催したが、日本茶やコーヒーを飲めば居眠りすることはあるまいと思い、休息中の甲板員を呼んで2人当直とするなど居眠り運航の防止措置をとらなかった。
A受審人は、日本茶等を飲んで操舵室後部の畳敷き前縁右舷側に腰掛けて右舷側の壁に寄りかかっているうち、いつしか居眠りに陥り、00時56分には漂泊開始予定地点を通過し、原針路、原速力で続航中、01時30分里埼灯台から236度3.4海里の地点において、第三十八金比羅丸は、上甑島南岸に乗り揚げた。
A受審人は、衝撃で目覚めて乗揚に気付き、事後の措置にあたった。
当時、天候は晴で風力4の北西風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
乗揚の結果、キールに亀裂を生じたが、僚船によって引き下ろされ、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、夜間、上甑島南方沖合において、操業開始まで待機のための潮昇り中、居眠り運航の防止措置が不十分で、上甑島南岸に向首、進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、上甑島南方沖合において、単独で船橋当直に就き、操業開始まで待機のための潮昇り中、眠気を催した場合、休暇明けで夜間操業に体が順応していなかったのであるから、休息中の甲板員を呼んで2人当直とするなど、居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、日本茶等を飲めば居眠りすることはあるまいと思い、居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥って漂泊開始予定地点を通過し、上甑島南岸に向首、進行して乗揚を招き、キールに亀裂を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。