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 海難審判庁採決録 >  2003年度(平成15年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成15年門審第97号
件名

プレジャーボート晴海丸乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成15年12月12日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(長谷川峯清)

副理事官
小俣幸伸

受審人
A 職名:晴海丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 

損害
左舷船首部外板に破口、その後萩港に引き付けられるまでの間に機関室右舷外板にも破口を生じ、廃船処理

原因
船位確認不十分

裁決主文

 本件乗揚は、船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年7月9日23時30分
 山口県羽島西岸
 
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート晴海丸
総トン数 1.5トン
登録長 7.85メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 40キロワット

3 事実の経過
 晴海丸は、船体後部に操舵場所のあるFRP製小型遊漁兼用船で、平成12年9月に四級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人が1人で乗り組み、友人1人を同乗させ、イカ釣り遊漁の目的で、船首0.3メートル船尾1.1メートルの喫水をもって、平成15年7月9日18時00分山口県萩港を発し、同県羽島の北西方沖合1.2海里にある羽島礁(ぐり)付近の釣場に向かい、同時30分に到着して遊漁を行ったのち、23時20分同釣場を発進し、法定灯火の白色全周灯と両色灯とを点灯して帰途に就いた。
 ところで、羽島は、無人で灯火の設備がなく、夜間、同島付近を通航する船舶は、法定灯火以外の見張りの妨げになる灯火を消灯し、同島の島影を目視するなり、GPSや魚群探知機の電源を入れてこれらを活用するなりして船位の確認を十分に行う必要があった。また、A受審人は、夜間、自ら操縦して前示釣場に出漁するのは初めてであったが、これまでに、自らの操縦で昼間2回、田坂船舶所有者の操縦で昼夜間何回も、羽島の西方を通航して出漁した経験があったので、同島に灯火設備のないことを知っていた。また、同人は、同釣場の位置をGPSと魚群探知機とによって確認したのちにこれらの電源を切り、投錨して遊漁を行っていた。
 こうして、A受審人は、発進時に、上方及び後方が開放された操舵場所の左舷側に設けられた舵輪の後ろに立ち、GPSと魚群探知機の電源を切ったまま、それまで点灯していた集魚灯の明るさに慣れた目を周囲の暗さに慣れさせるため、極微速力で、船首をおおよそ萩港に向けて進行した。
 23時22分A受審人は、虎ケ埼灯台から303度(真方位、以下同じ。)2.29海里の地点に達したとき、ようやく周囲の暗さに目が慣れ、針路目標とする萩港浜崎北防波堤灯台の灯光のほかに、萩市街地の明かり、並びにいか釣り漁船の集魚灯の明かりを左舷側の羽島東方沖合及びほぼ正船首方にそれぞれ認めるとともに、左舷前方に羽島の島影が見えるようになったことから、針路を同灯台に向く150度に定め、機関を全速力前進が回転数毎分3,400のところ3,000にかけ、9.8ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、折からの南南東の風を右舷船首から受けるとともに、北東向きの海潮流によって左方に3度圧流されながら、手動操舵によって進行した。
 23時24分半少し過ぎA受審人は、虎ケ埼灯台から298度1.90海里の地点に差し掛かったとき、同乗者に釣り上げたイカの整理作業を頼むこととし、船尾甲板の天幕下部の船体中心線に設けられた40ワットの作業灯を点じ、その後時々後ろを振り返って同作業を確認しているうちに、同作業灯が目と同じ高さであったため、暗さに慣れた目が眩惑され、左舷前方に接近する羽島の島影を十分に確認できない状況で続航した。
 23時26分半A受審人は、虎ケ埼灯台から293度1.64海里の地点に至り、萩港浜崎北防波堤灯台を151度に見るようになったとき、ほぼ正船首方の羽島西岸沖合で操業するいか釣り漁船を避けるため、少し左舵をとって同じ速力で進行した。
 23時28分わずか過ぎA受審人は、虎ケ埼灯台から290度1.40海里の地点に達し、針路を再び萩港浜崎北防波堤灯台に向く153度に転じたとき、このまま進行すると、折からの風と海潮流とによって左方に圧流され、羽島西岸に著しく接近して乗り揚げるおそれがある状況であったが、船首方に前示市街地の明かりなどが見えていたことから、引き続き同灯台に向けて続航すれば安全に帰航できるものと思い、見張りの妨げになる作業灯を消灯し、左舷船首方の羽島の島影の目視を続けるなり、GPSや魚群探知機の電源を入れてこれらを活用するなりして船位の確認を十分に行うことなく、この状況に気付かないまま、左方に3度圧流されながら続航中、23時30分虎ケ埼灯台から280度1.17海里の地点において、晴海丸は、原針路、原速力のまま、羽島西岸の岩礁に乗り揚げた。
 当時、天候は曇で風力3の南南東風が吹き、潮候は下げ潮の末期に当たり、視界は良好で、羽島付近には北東向きに微弱な海潮流があった。
 乗揚の結果、晴海丸は、左舷船首部外板に破口を生じ、翌日引き下ろされて萩港に引き付けられたが、この間に機関室右舷外板にも破口を生じ、経費の都合で修理が行われないまま廃船処理された。 

(原因)
 本件乗揚は、夜間、山口県萩港北西方沖合において、同港に向けて帰航中、船位の確認が不十分で、同県羽島の西岸に著しく接近したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、山口県萩港北西方沖合において、萩港浜崎北防波堤灯台の灯光を針路目標とし、同県羽島の島影を左舷前方に確認しながら、同港に向けて帰航する場合、羽島が無人で灯火の設備がないことを知っていたのであるから、同島西岸に著しく接近しないよう、見張りの妨げになる作業灯を消灯し、同島の島影の目視を続けるなり、GPSや魚群探知機を活用するなりして船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、ほぼ正船首方の羽島西岸沖合で操業するいか釣り漁船を避けるために左転したのち、船首方に針路目標の灯光のほかに、萩市街地の明かりなどが見えていたことから、引き続き同灯光に向けて進行すれば安全に帰航できるものと思い、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、羽島西岸に著しく接近して乗り揚げるおそれがある状況に気付かないまま続航して羽島西岸の岩礁への乗揚を招き、左舷船首部外板に破口を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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