(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年2月9日00時00分
友ケ島水道
2 船舶の要目
船種船名 |
油送船第八めいこう丸 |
総トン数 |
197トン |
全長 |
46.46メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
514キロワット |
3 事実の経過
第八めいこう丸(以下「めいこう丸」という。)は、植物油などの輸送に従事する船尾船橋型油送船で、A受審人ほか2人が乗り組み、空倉のまま、船首1.3メートル船尾2.8メートルの喫水をもって、平成15年2月7日12時25分千葉県千葉港を発し、神戸港に向かった。
A受審人は、航海当直を自らが08時から14時及び20時から02時に、甲板長が14時から20時及び02時から08時にそれぞれ単独で就く6時間2直体制に定め、8日02時00分降橋したのち、自室に戻り、十分な睡眠をとっていたので、さほど疲労が蓄積する状況にはなかった。
A受審人は、同日19時30分和歌山県市江埼沖合で昇橋し、20時00分から当直に就いたところ、折から低気圧が前線を伴って中国・近畿地方北岸沿いを東進したことから、南西風が強まって時化(しけ)模様となり、船体が大きく動揺するなか、操舵を自動と手動に適宜切り換えながら操舵スタンドの後方に立ち、紀伊水道を北上し、田倉埼を航過したら加太瀬戸に向け転針する予定で進行した。
23時00分少し前A受審人は、下津沖ノ島灯台から279度(真方位、以下同じ。)0.7海里の地点に達したとき、針路を田倉埼から0.7海里離す355度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.6ノットの対地速力で続航した。
23時44分少し前A受審人は、寒冷前線の通過後、天候が回復して視界も良好となったので、自動操舵に切り換え、同時44分半田倉埼灯台から210度1.3海里の地点に至って、レーダーにより田倉埼との航過距離を確認し、視界が良好となったことで気が緩み、また、立った姿勢で当直を続けたことから疲労感を覚え、操舵スタンド前方のいすに腰掛けて北上を続けた。
A受審人は、いすに腰掛けて間もなく眠気を感じたが、もうすぐ狭水道である加太瀬戸に向け針路を変えるのでまさか居眠りすることはないものと思い、操舵室の外へ出て外気に当たるなり身体を動かすなりして眠気を払うなど、居眠り運航の防止措置をとることなく、いすに腰掛けたまま見張りを続けるうち、いつしか居眠りに陥った。
こうして、めいこう丸は、23時52分半予定転針地点を通過し、友ケ島水道地ノ島南岸に向かう針路のまま進行し、同時59分半過ぎふと目覚めたA受審人が、目前に迫った島影と白波に驚いて機関を中立とし、続いて緊急停止したが、効なく、翌9日00時00分田倉埼灯台から332度1.8海里の地点において、原針路、原速力のまま、地ノ島南岸の岩礁に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力3の北北西風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
乗揚の結果、船底外板に凹損及び破口を、ビルジキール及びシューピースに変形などをそれぞれ生じ、のち廃船処理された。
(原因)
本件乗揚は、夜間、紀伊水道田倉埼南西方沖合を北上中、居眠り運航の防止措置が不十分で、予定転針地点を通過し、友ケ島水道地ノ島南岸に向かう針路のまま進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、単独の航海当直に就き、紀伊水道田倉埼南西方沖合を北上中、いすに腰掛けて間もなく眠気を催した場合、居眠り運航とならないよう、操舵室の外へ出て外気に当たるなり身体を動かすなりして眠気を払うなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、もうすぐ狭水道である加太瀬戸に向け針路を変えるのでまさか居眠りすることはないものと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、いつしか居眠りに陥り、友ケ島水道地ノ島手前の予定転針地点に達したことに気付かず、地ノ島南岸に向かう針路のまま進行し、同島南岸岩礁への乗揚を招き、船底外板に凹損及び破口を、ビルジキール及びシューピースに変形などをそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。