(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年2月28日11時20分
北海道木直漁港
2 船舶の要目
船種船名 |
起重機船第五新高丸 |
総トン数 |
654.54トン |
登録長 |
44.20メートル |
幅 |
16.00メートル |
深さ |
3.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
882キロワット |
3 事実の経過
第五新高丸(以下「新高丸」という。)は、2機2軸を備え、船首に設置された起重機と船尾船橋とによる受風面積の大きな鋼製起重機船で、平成15年2月下旬から北海道木直漁港の東防波堤の消波ブロック据付工事に従事しており、A受審人ほか7人が乗り組み、重量20トンの消波ブロック16個を積み、同ブロック据付工事の目的で、船首尾とも2.5メートルの喫水をもって、28日09時40分木直漁港を発し、木直港東防波堤灯台(以下「東防波堤灯台」という。)から東方60メートルの同漁港東防波堤沖側の工事現場に向かった。
ところで、木直漁港は、東側の船揚場北端から西北西方向に延び先端に東防波堤灯台が設置された東防波堤と、同灯台南西方の岸壁北端から東方向に延び、同灯台南東方90メートルの地点を東端とする北防波堤とにより西方に開く港口を形成し、同灯台の北西方140メートルに昆布養殖場の東部北端を示す標識と、同灯台の西方125メートルに東部南端を示す標識(以下「南標識」という。)が設置されていた。このため、北方から同漁港に向かう船舶は、東防波堤先端付近で大きく左回頭しなければならず、西寄りの強風下に入航する際は、風圧流に配慮し、南標識に寄せて風下側に十分な操船水域を確保する必要があった。
A受審人は、10時10分工事現場に至り、船首を東防波堤に向けて船固めを行ったのち消波ブロック10個を据付けたところ、西寄りの風浪が強くなり作業が困難になったことから、10時50分作業を中止し、船尾錨を巻き揚げて工事現場から離れ、11時17分ごろ漁港内の係留地に向け帰途についた。
11時18分少し過ぎA受審人は、東防波堤灯台から034度(真方位、以下同じ。)130メートル(以下、船位については船橋位置を基準とする。)の地点に達したとき、針路を漁港西側の荷捌場北側に向く235度に定め、両舷機を微速力前進にかけて4.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で手動操舵により進行した。
A受審人は、東防波堤先端近くで左転すると、折からの強い西風を右舷側から受けて船体が風下に圧流され同防波堤に接近するおそれがあったが、風下に圧流されることはないものと思い、南標識に寄せて風下側に十分な操船水域を確保することなく、11時19分少し過ぎ東防波堤灯台から324度46メートルの地点で、左舵一杯にとり、左舷機を半速力後進として左転を開始したところ、船体が風下に圧流され、東防波堤に接近したがどうすることもできず、11時20分新高丸は、東防波堤灯台から279度41メートルの地点において、船首が144度を向いたとき、約3ノットの速力で、左舷船首部が同灯台から231度20メートルの同防波堤周辺の消波ブロックに乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力5の西風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
乗揚の結果、新高丸は、左舷前部船底外板に凹損等を生じた。
(原因)
本件乗揚は、北海道木直漁港において、強い西風の吹く状況下、大きく左回頭して入航する際、風圧流に対する配慮が不十分で、東防波堤に向けて圧流されたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、北海道木直漁港において、強い西風の吹く状況下、大きく左回頭して入航する場合、船体の受風面積が大きいから、強風により圧流されて東防波堤に接近しないよう、風下側に十分な操船水域を確保すべき注意義務があった。ところが、同受審人は、風下に圧流されることはないものと思い、風下側に十分な操船水域を確保しなかった職務上の過失により、風下に圧流されて同防波堤に接近し、東防波堤の消波ブロックに乗り揚げる事態を招き、左舷前部船底外板に凹損等を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。