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 海難審判庁採決録 >  2003年度(平成15年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成15年門審第69号
件名

漁船博栄丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成15年11月27日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(橋本 學、西村敏和、千葉 廣)

理事官
上中拓治

受審人
A 職名:博栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 

損害
船底に複数の破口及び亀裂、のち廃船処分

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件乗揚は、居眠り運航を防止する措置が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年5月20日03時30分
 長崎県豆酘漁港
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船博栄丸
総トン数 19トン
登録長 18.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 190

3 事実の経過
 博栄丸は、しいらづけ漁業に従事するFRP製漁船で、平成12年7月に交付された一級小型船舶操縦士免状を有するA受審人ほか8人が乗り組み、操業の目的で、船首0.7メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同13年5月20日03時20分長崎県豆酘漁港豆酘地区を発し、同港南方30海里付近の漁場へ向かった。
 ところで、当時、A受審人は、漁労長兼船長として連日03時ごろに出港し、夜明け前に漁場に到着して日没過ぎまで操業に従事したのち、23時ごろに帰港して水揚げ作業を行うという就業形態で出漁を繰り返していたのであるが、その間、睡眠を取ることができるのは水揚げ作業を終えてから翌日出港するまでの3時間ばかりであったうえ、既に操業が5日に渡って連続していたことから、極度に睡眠が不足して疲労が蓄積した状態であった。
 また、A受審人は、老眼のため、夜間には操舵用マグネットコンパスの東西南北を示す菱形の指標を識別できる程度の視力しかなく、同コンパスに表示されているアルファベット文字や度数を正確に読み取ることが難しい状態であったが、老眼鏡をかけると遠方を見通すことに支障を来すことから、港内では裸眼に頼った目視により、防波堤先端部に設置されている灯台などの顕著な物標を確認しながら操舵操船を行っていたものであった。
 さらに、A受審人は、1週間ばかり前に出漁した際、操舵スタンドの後方に立って1人で手動操舵に当っていたところ、長崎県豆酘港南防波堤灯台(以下、乗揚地点を表記する場合を除き「長崎県豆酘港」を省略する。)を替わして豆酘湾を南下中、前示した状態と同じく、極度の睡眠不足であったことなどに起因して、突然、強い睡魔に襲われ、数十秒間気を失ったように居眠りに陥り、気が付いたら反転して北上していたという事実があったことから、同じような状況の下、1人で出航操船に当たると、再び、突然にして居眠りに陥り、同様な事態を招くことが否めない状況であった。
 出航したとき、A受審人は、1週間ばかり前と同じく、極度に睡眠が不足した状態であったので、再び、突然にして居眠りに陥るおそれがあったが、操船に忙しい狭い港内で居眠りに陥ることはあるまいと思い、熟練した乗組員を呼んで補佐に当たらせるなどの居眠り運航を防止する措置を十分にとることなく、豆酘港の港界付近に達したならば交替するつもりで1人で出航操船に当たった。
 A受審人は、豆酘地区が、南に面して構築された豆酘港の港奥にあり、その内側から順に東西方向に築造された西防波堤、沖防波堤及び南防波堤が、それぞれ互いに少しずつ被さった地理的状況であるので、離桟してから西防波堤先端部に設置されている豆酘港西防波堤灯台をおおよその船首目標として低速力で航行し、同灯台を右舷側、沖防波堤西端を左舷側に見ながら大きくS字状に蛇行して通過したのち、一番外側の南防波堤先端部に設置されている南防波堤灯台を回り込むつもりで南東へ向首して徐々に増速していたところ、前示したとおり、極度に睡眠が不足していたことなどに起因して、突然、気を失ったように居眠りに陥り、03時27分半南方へ向首する予定の南防波堤灯台から092度(真方位、以下同じ。)100メートルの地点に達したが、このことに気付かなかった。
 A受審人は、数十秒経って覚醒したのち、03時28分南防波堤灯台から105度300メートルの地点に至ったとき、操舵用マグネットコンパスを確認して南方へ向首するSの指標に船首を向けたつもりであったが、老眼鏡をかけていなかったうえ、未だしっかりと周囲の状況を把握できない半覚醒状態であったので、同コンパスのSとEの指標を読み違えたまま、針路を085度に定め、機関を全速力前進よりやや減じた回転数毎分1,450にかけ、10.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、法定灯火を表示して、手動操舵によって進行した。 こうして、A受審人は、その後も、何らの明かりもない東方の陸岸へ向けて半覚醒状態で続航中、03時30分長崎県豆酘港南防波堤灯台から092度980メートルの地点において、博栄丸は、原針路、原速力のまま、陸岸の浅礁に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力2の南風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
 乗揚の結果、博栄丸は、船底に複数の破口及び亀裂を生じ、クレーン台船によって豆酘漁港に曳き付けられ、のち廃船処分された。 

(原因)
 本件乗揚は、夜間、長崎県豆酘漁港において、1人で出航操船中、居眠り運航を防止する措置が不十分で、陸岸の浅礁へ向首進行したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、長崎県豆酘漁港において、1人で出航操船に当たる場合、連日の操業によって極度に睡眠が不足した状態であったうえ、1週間ばかり前、同じ様な状態で操船していたとき、突然、気を失ったように居眠りに陥ったことがあったから、再び居眠り運航とならないよう、熟練した乗組員を呼んで補佐に当たらせるなどして居眠り運航を防止する措置を十分にとるべき注意義務があった。ところが、同受審人は、操船に忙しい狭い港内で居眠りに陥ることはあるまいと思い、居眠り運航を防止する措置を十分にとらなかった職務上の過失により、1週間前と同様、突然にして居眠りに陥り、南方へ向首する予定地点を通過して数十秒経って覚醒したのち、操舵用マグネットコンパスを確認してSの指標に船首を向けたつもりであったが、老眼鏡をかけていなかったうえ、未だ半覚醒状態であったので、同コンパスのSとEの指標を読み違えたまま、自船が陸岸に向首したことに気付くことなく進行して浅礁への乗揚げを招き、船底に複数の破口及び亀裂を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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