(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年1月4日05時00分
宮崎県北浦漁港北東方沖合シ碆
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第五十二大慶丸 |
総トン数 |
358トン |
全長 |
59.13メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
3 事実の経過
第五十二大慶丸(以下「大慶丸」という。)は、主として活魚運搬に従事する鋼製漁船で、A受審人ほか5人が乗り組み、空倉のまま、船首3.00メートル船尾4.00メートルの喫水をもって、平成15年1月4日00時00分愛媛県宇和島港を発し、宮崎県北浦漁港へ向かった。
ところで、A受審人は、前日3日08時05分宇和島港に入港した際、一旦、宿毛市の自宅に帰ったのであるが、同日00時から04時の船橋当直を終えて入港するまで、船務などに追われて睡眠を取ることができなかったうえ、宿毛市まで自ら車を運転して正午ごろ帰宅したものの、自宅においても、家族との団欒(だんらん)や所用などに時間を費やしたことから、引き続き十分な睡眠を取ることができず、疲労が蓄積した状態のまま、21時00分ごろ再び車を運転して宇和島港へ向かい、23時00分帰船して翌4日前示のとおり出航したものであった。
出航後、A受審人は、定められた当直時間割に従い、02時45分大分県鶴御埼東方で昇橋し、03時00分前直の一等航海士と交替して1人で船橋当直に当たり、北浦漁港入港前に次直の船長と交替する予定で日向灘を南下した。
04時21分半A受審人は、深島灯台から041度(真方位、以下同じ。)4.7海里の地点に達したとき、針路を240度に定め、9.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、いすに腰を掛けた姿勢で見張りを行い、法定灯火を表示して、自動操舵によって進行した。
しばらくして、A受審人は、丸一日睡眠を取っていなかったうえ、出航してからも寝付くことができなかったことなどに起因して、眠気を催すようになり、そのまま1人で当直を続けていると居眠りに陥るおそれがあったが、1時間ばかりすれば次直の船長が昇橋する予定であったことから、その程度の時間であれば、なんとか眠気を我慢できるものと思い、早めに船長に連絡して2人で当直するなどの居眠り運航を防止する措置を十分にとらなかったので、いつしか、いすに腰を掛けた姿勢のまま居眠りに陥った。
こうして、A受審人は、04時51分深島灯台から323度1.6海里の変針予定地点に至ったが、依然として、居眠りに陥ったまま、予定針路に転じることなく続航中、05時00分深島灯台から282度2.2海里の地点において、大慶丸は、原針路、原速力で、陸岸から約1海里沖合にあるシ碆の浅礁に乗り揚げ、船底を擦りながら同礁を乗り切った。
当時、天候は曇で風力4の北西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
A受審人は、船底を擦る衝撃で目覚め、GPS及びレーダーで船位を確認したところ、前示浅礁への乗り揚げの事実を知り、異常に気付いて昇橋した船長に状況を説明したのち、同人の指揮の下、浸水のないことを確認して北浦漁港へ入港した。
乗揚の結果、大慶丸は、左舷ビルジキール2箇所に曲損を生じたが、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、夜間、宮崎県北浦漁港北東方沖合において、同港へ向けて航行中、居眠り運航を防止する措置が不十分で、シ碆の浅礁へ向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、宮崎県北浦漁港北東方沖合において、1人で船橋当直に当たり、同港へ向けて航行中、眠気を催した場合、丸一日睡眠を取っていなかったことなどに起因して、1人で当直を続けていると居眠りに陥るおそれがあったから、居眠り運航とならないよう、早めに船長に連絡して2人で当直するなどして居眠り運航を防止する措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、1時間ばかりすれば船長が昇橋する予定であったので、その程度の時間であれば、なんとか眠気を我慢できるものと思い、居眠り運航を防止する措置を十分にとらなかった職務上の過失により、いつしか居眠りに陥り、予定針路に転じることなく、シ碆の浅礁へ向首進行して乗揚を招き、大慶丸の左舷ビルジキール2箇所に曲損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。