(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年3月11日15時15分
父島列島兄島
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第八興勇丸 |
総トン数 |
4.9トン |
全長 |
13.9メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
213キロワット |
3 事実の経過
第八興勇丸(以下「興勇丸」という。)は、一本つり漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人(平成11年3月4日一級小型船舶操縦士免状取得)ほか1人が乗り組み、めかじきはえなわ漁の目的で、船首0.3メートル船尾1.1メートルの喫水をもって、平成14年3月11日04時30分父島列島父島の二見漁港を発し、同島東方10海里付近の漁場に向かった。
ところで、興勇丸は、毎日04時00分ごろ二見漁港を発航し、操業を終えて15時30分ごろ同港に帰航する航海を1週間ばかり続けており、乗組員の疲労がやや蓄積していた。
興勇丸は、船長が往航時に船橋当直を行い、その間、A受審人が操舵室前部の囲壁内で休息し、06時00分漁場に到着して2人で操業を行い、80キログラムの漁獲を得て操業を終え、14時15分二見港丸山灯台(以下「丸山灯台」という。)から105度(真方位、以下同じ。)10.8海里の地点を発進し、帰途についた。
14時25分A受審人は、船長から単独で船橋当直を引き継ぎ、丸山灯台から103.5度8.7海里の地点において、針路を296度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.5ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
A受審人は、操舵室左舷側のいすに背をもたせかけて座わり、父島北岸と兄島南岸との間にある兄島瀬戸の東口に近づいたところで、手動操舵に切り替え、立って操舵に当たる予定でいたところ、14時52分ごろ同東口の3海里ばかりまで近づいたとき、操業の疲れもあって眠気を感じるようになったが、まさか居眠りすることはあるまいと思い、居眠り運航とならないよう、操舵室から外へ出て外気に当たるなり、船長に報告して船橋当直を交代してもらうなど、居眠り運航の防止措置をとらなかった。
こうして、興勇丸は、A受審人がやがて居眠りに陥り、兄島瀬戸の東口予定転針地点を通過し、兄島南岸に向首する針路のまま続航中、15時15分丸山灯台から018度1.9海里の地点において、原針路、原速力のまま乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力2の西風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
乗揚の結果、左舷機関室船底外板に破口を伴う凹傷を、魚群探知器及びプロペラに曲損をそれぞれ生じたが、僚船により二見漁港に引きつけられ、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、父島列島父島東方沖合の漁場から兄島瀬戸の東口に向かって西行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、兄島南岸に向首する針路のまま進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、単独で船橋当直に当たり、父島列島父島東方沖合の漁場から兄島瀬戸の東口に向かって西行中、操業の疲れもあって眠気を感じた場合、居眠り運航とならないよう、操舵室から外へ出て外気に当たるなり、船長に報告して船橋当直を交代してもらうなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、まさか居眠りすることはあるまいと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥り、予定転針地点を通過し、兄島南岸に向首する針路のまま進行して乗揚を招き、船首下部外板に破口を伴う凹傷などを生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。