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 海難審判庁採決録 >  2003年度(平成15年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成15年那審第15号
件名

旅客船第十八あんえい号乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成15年10月30日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(坂爪 靖、小須田 敏、上原 直)

理事官
平良玄栄

受審人
A 職名:第十八あんえい号船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
両舷推進器翼及び舵板に曲損等

原因
狭い水路内で入航中の引船列と行き会う際、港内で待機しなかったこと

主文

 本件乗揚は、狭い水路内で入航中の引船列と行き会う状況となる際、引船列が同水路を通過し終わるまで港内で待機しなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年11月1日08時48分
 沖縄県竹富島竹富東港
 
2 船舶の要目
船種船名 旅客船第十八あんえい号
総トン数 19トン
全長 25.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 935キロワット

3 事実の経過
 第十八あんえい号(以下「あんえい号」という。)は、2機2軸の軽合金製旅客船で、姉妹船10隻とともに、沖縄県石垣港を基地として同県八重山列島諸港間の旅客輸送に従事していたところ、平成3年9月6日に一級小型船舶操縦士免許を取得し、それまで同港西方の竹富島竹富東港には幾度も入港しているA受審人ほか1人が乗り組み、同14年11月1日08時30分石垣港発第1便として同時40分竹富東港に到着し、同時45分石垣港向け竹富東港発第1便として旅客1人を乗せ、船首0.8メートル船尾1.6メートルの喫水をもって、同港を発航することになった。
 ところで、竹富東港は、竹富島北東岸に位置し、同港港口は、陸岸から052度(真方位、以下同じ。)方向に120メートル、そこから002度方向に190メートル延びる防波堤(南)と、同防波堤先端から316度530メートルのところを基点とし、そこから126度方向に420メートル、次いで113度方向に100メートル、105度方向に80メートル延びる防波堤(北)とに囲まれていた。また、同港北西部に、陸岸から60メートル隔てて052度方向に防波堤(北)北西端付近まで90メートル延びる防波堤(西)が備えられ、同港中央部には、陸岸から北東方に突出した長さ100メートル幅70メートルの岸壁が設けられていて旅客船などの係留地として使用されていた。
 竹富東港への出入口水路は、同港の東方に拡延するさんご礁帯の外縁から同港港口に向け、284度方向に同礁帯を開削した、防波堤(南)先端までの長さ630メートル、幅60メートル、水深3メートルの直線状の狭い水路で、同水路付近の航路標識としては、防波堤(北)先端から105度220メートルの、同水路北側境界線の少し外側でさんご礁帯南端に右舷標識の竹富東港第4号灯標(以下、灯標の名称については「竹富東港」の冠称を省略する。)、第4号灯標から118度360メートルの、同水路出入口付近でさんご礁帯北端に左舷標識の第1号灯標がそれぞれ設けられていた。
 発航するころ、A受審人は、狭い水路を入航中の長さ約50メートルの台船を曳航した引船(以下「引船列」という。)が第4号灯標に接近しているのを認め、このまま狭い水路に向かうと引船列と同水路内で行き会う状況となるので、いったん離岸して港内で様子を見ることにした。
 08時45分A受審人は、定刻どおり岸壁の北東角から南西方15メートルのところに船首付け係留した状態から離岸し、機関を適宜後進にかけ、岸壁延長線上で同北東角から40メートル離れたところに右舷船尾端が並び船首を南に向けたところで行きあしを止めて待機し、引船列の動静監視にあたった。
 A受審人は、狭い水路の右側端を西行している引船列は速力が約3ノットと遅く、そのころ風速毎秒10メートルほどの北風が連吹していて、引船列は右舷正横少し前から風を受けることになるから、同水路に向かって進行して同水路内で引船列に行き会うと、これが風により圧流され自船に接近してきたときなど大幅な動作をとらなければならず、浅礁に乗り揚げるおそれがあったが、狭い水路内で引船列と左舷を対してなんとか航過できるものと思い、引船列が同水路を通過し終わるまで港内で待機しないで、甲板員を操舵室での見張りに就け、自ら同室前部中央で手動操舵にあたり、08時46分少し過ぎ引船列が第4号灯標を通過するのを見て、機関を微速力前進にかけ、6.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、左転しながら防波堤(南)先端付近に向けて進行した。
 08時47分少し過ぎA受審人は、防波堤(南)先端を右舷側15メートルに航過したとき、針路を水路に沿う105度に定め、機関を半速力前進とし、10.0ノットの速力で水路の右側を続航した。
 あんえい号は、同じ針路、速力で進行中、08時48分少し前A受審人が左舷前方間近の引船列が速力を減じ、台船が風により圧流されて自船に接近する状況となったのを認め、同船を避けようと慌てて右舵10度を取ったところ、水路からわずかに外に出て、08時48分第4号灯標から247度140メートルの地点において、船首が130度を向いたとき、原速力のまま、浅礁に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力5の北風が吹き、視界は良好で、潮候は下げ潮の末期であった。
 乗揚の結果、両舷推進器翼及び舵板に曲損等を生じたが、救助船により引き下ろされ、のち修理された。 

(原因)
 本件乗揚は、沖縄県竹富島竹富東港において、さんご礁帯を開削した狭い水路内で入航中の引船列と行き会う状況となる際、引船列が同水路を通過し終わるまで港内で待機せず、同水路を進行中、風により圧流された引船列を避けようと右転し、同水路外に出たことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、沖縄県竹富島竹富東港において、発航するころ、さんご礁帯を開削した狭い水路を入航中の引船列を認め、これと同水路内で行き会う状況となる場合、引船列は速力が遅く、そのころ風速毎秒10メートルほどの北風が連吹していて、風により圧流され自船に接近してきたときなど大幅な動作をとらなければならず、浅礁に乗り揚げるおそれがあったから、同水路内で引船列と行き会うことのないよう、引船列が同水路を通過し終わるまで港内で待機すべき注意義務があった。しかるに、同人は、狭い水路内で引船列と左舷を対してなんとか航過できるものと思い、引船列が同水路を通過し終わるまで港内で待機しなかった職務上の過失により、狭い水路を進行中、風により圧流された引船列を避けようと右転し、同水路外に出て浅礁への乗揚を招き、あんえい号の両舷推進器翼及び舵板に曲損等を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって、主文のとおり裁決する。





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