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平成15年那審第26号
件名

旅客船うぷゆう乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成15年10月16日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(小須田 敏、坂爪 靖、上原 直)

理事官
平良玄栄

受審人
A 職名:うぷゆう船長 海技免許:五級海技士(航海)

損害
推進器翼、推進器軸及び舵柱を曲損

原因
操船不適切

主文

 本件乗揚は、転舵時機の選定が適切でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年10月12日19時20分
 沖縄県石垣港外
 
2 船舶の要目
船種船名 旅客船うぷゆう
総トン数 112トン
全長 28.60メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 2,206キロワット

3 事実の経過
 うぷゆうは、平成8年10月に大阪府大阪市の株式会社三保造船所で進水し、限定沿海区域を航行区域とする最大とう載人員200人、垂線間長24.62メートル、全幅7.53メートル、深さ2.58メートルの2機2軸を備えた軽合金製双胴船型高速旅客船で、昭和53年3月に五級海技士(航海)の免許を取得したA受審人ほか2人が乗り組み、旅客15人を乗せ、船首尾とも1.75メートルの喫水をもって、平成14年10月12日16時30分沖縄県宮古島平良港を発し、同県石垣島石垣港に向かった。
 ところで、うぷゆうは、平良港と同県伊良部島佐良浜漁港との間を一日11往復の定期航路に従事していたところ、チャーター便として臨時に運航することとなったもので、その船体構造は、上甲板上に船首から順に船首甲板、客室及び船尾甲板を設け、客室前部の上に操舵室を、客室及び船尾甲板の上に客席などをそれぞれ配しており、その旋回性能は、速力31.9ノット及び舵角35度における右旋回時の旋回縦距及び旋回横距が、それぞれ約140メートル及び約60メートル、並びに定常旋回径が船の長さの約5倍を有していた。
 また、石垣島南岸に位置する石垣港の東側には、同島南岸から竹富島東岸まで達する東ノ瀬と称する半月状の干出さんご礁帯が拡延しており、港界南東端付近にある同瀬の切れ間に、主に地元の漁船が利用する釜口と称する水深4ないし5メートル、長さ約2,000メートル、可航幅約50メートルの開発保全航路(以下「釜口水路」という。)が設けられていた。
 釜口水路は、南方に向いて開口した入口から350度(真方位、以下同じ。)の方向に約300メートル延びており、そこから西北西方に屈曲して登野城漁港及び石垣港内の公共岸壁などに通じているもので、同入口付近には、水路の左側端を示す石垣港登野城第1号灯標(以下、灯標の呼称については「石垣港」を略す。)と同右側端を示す登野城第2号灯標とがあり、前示の屈曲部付近には、登野城第3号及び同第4号灯標がそれぞれ敷設されていた。
 A受審人は、昭和59年にM株式会社に入社し、前示の定期航路に従事する高速旅客船及び自動車渡船の船長を歴任したのち、うぷゆうの初代船長として約2年間乗船し、その後総トン数19トンの高速旅客船ゆがふの船長として運航に携わっていたところ、平成13年の夏にうぷゆうの臨時船長として釜口水路を航行したことがあったため、発航の2日前にチャーター便の運航を指示されたもので、運航管理者から釜口水路の状況について改めて説明を受けるなど、同水路の状況を承知して発航したものであった。
 こうして、A受審人は、釜口水路から入航するつもりで石垣島東岸沖を南下し、19時06分半登野城第1号灯標から085度4.8海里の地点で、針路を同水路入口沖に向かう262度に定め、機関を半速力前進にかけて23.0ノットの対地速力で手動操舵により進行し、同時16分同灯標から120度750メートルの地点で、登野城第1号灯標に向首する300度に転じて続航した。
 転針したとき、A受審人は、釜口水路を航行する針路に転じる際、転舵時機を失すると、同水路の左側端に著しく接近するおそれがあることを知っていたが、うぷゆうの旋回縦距がやや大きいことなどを失念し、平素運航に携わっているゆがふの操船感覚で転舵すれば、同水路の左側端に著しく接近することはないものと思い、うぷゆうの旋回性能などを考慮して登野城第1号灯標からの距離をレーダーに設定するなど、同時機の選定を適切に行うことなく進行した。
 A受審人は、19時18分登野城第1号灯標から120度320メートルの地点で、釜口水路の航行に備えて7.0ノットに減じたものの、依然として転舵時機の選定を適切に行っていなかったので、その後同水路を無難に航行することができる同時機となったことに気付かないまま続航し、同時19分わずか過ぎ釜口水路の右側端を示す登野城第2号及び同第4号灯標を一線に認め、登野城第1号灯標まで90メートルとなったとき、ようやく舵角10度をとって右転を始めた。
 このため、うぷゆうは、右転しながら釜口水路内の左側端に著しく接近することとなり、19時20分登野城第1号灯標から345度90メートルの地点において、船首が345度に向いたとき、原速力のまま、同水路に沿って拡延する干出さんご礁帯に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力3の東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
 A受審人は、船体の衝撃で乗り揚げたことを知り、直ちに機関を停止して事後の措置に当たるとともに、19時50分来援した巡視船に旅客を移乗させて石垣港に向かわせ、20時30分自力で離礁し、そのまま石垣港に入港した。
 乗揚の結果、推進器翼、推進器軸及び舵柱に曲損を生じたが、のちいずれも修理された。 

(原因)
 本件乗揚は、夜間、沖縄県石垣島南岸沖を航行中、同島南岸にある釜口水路入口付近において、同水路を航行する針路に転じる際、転舵時機の選定が不適切で、釜口水路の側端に著しく接近したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、臨時船長として沖縄県石垣島南岸沖を航行中、同島南岸にある干出さんご礁域の切れ間に設けられた釜口水路入口付近において、同水路を航行する針路に転じる場合、転舵時機を失すると、釜口水路の左側端に著しく接近するおそれがあったから、旋回性能などを考慮して同時機を適切に選定すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、平素運航に携わっている船の操船感覚で転舵すれば、釜口水路の左側端に著しく接近することはないものと思い、転舵時機を適切に選定しなかった職務上の過失により、同時機を失し、同水路の左側端に著しく接近して干出さんご礁帯への乗揚を招き、推進器翼、推進器軸及び舵柱に曲損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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