(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年4月5日00時00分
鹿児島県口永良部島
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第十一福栄丸 |
総トン数 |
79.36トン |
全長 |
31.15メートル |
登録長 |
27.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
345キロワット |
3 事実の経過
第十一福栄丸は、近海かつお・まぐろ漁に従事するFRP製漁船で、船長H及びA受審人ほか14人が乗り組み、かつお一本釣り漁の目的で、船首1.0メートル船尾2.5メートルの喫水をもって、平成13年3月28日21時35分宮崎県外浦漁港を発し、29日鹿児島湾で活き餌の積込みを行い、30日宮崎県東方沖合で以前投入していた標識を回収した後、鹿児島県吐
喇群島(とからぐんとう)に向かい、31日20時25分小宝島南方に到着し、4月1日05時40分宝島南東方約15海里の漁場において操業を開始した。
ところで、A受審人は、約1週間の予定で吐
喇群島周辺海域に出漁し、漁ろう長として操業全般の指揮を執り、毎日05時ごろから操業を始め、かつおの群れに付いている海鳥を探して漁場を転々と移動しながら夕刻まで操業を続け、夜間は漂泊して休息をとっており、漁場の移動及び操業中は上部操舵室で自らが操船していた。
A受審人は、2日に宝島及び小宝島東方約10海里で、3日は両島西北西方約17海里の横ガン曽根でそれぞれ操業し、4日は、05時05分に発進して06時30分から横ガン曽根で、11時30分から臥蛇島西方約35海里の沖臥蛇堆付近でそれぞれ操業した後、13時15分からかつおの群れを探しながら東方に移動して、17時00分から小臥蛇島南西方で操業し、19時20分かつお約5トンを漁獲したところで活き餌を使い果たして全ての操業を終え、漁獲物の整理・格納作業に取り掛かった。
19時45分A受審人は、同作業を終え、臥蛇島灯台から117度(真方位、以下同じ。)5.8海里の地点を発進して、外浦漁港に向けて帰途に就き、法定の灯火を表示し、GPSプロッタに口永良部島西北西方約2海里の地点を通過予定地点として入力して、針路を同地点に向く033度に定め、機関を回転数毎分700の全速力前進にかけ、10.6ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、自動操舵によって進行した。
A受審人は、船橋当直を2人当直の2時間交替5直制とし、船橋当直に不慣れな甲板員を自分と同直に入れて船橋当直業務を指導していた。
A受審人は、20時00分作業を終えて昇橋した乗組員と船橋当直を交替し、操舵室左舷後部の寝台で約2時間仮眠をとった後、22時00分野埼灯台から217度21.0海里の地点において、甲板員とともに船橋当直に就き、同甲板員を右舷側で見張りに当たらせ、前直から引き続き033度の針路及び10.6ノットの速力で自動操舵によって続航し、微弱な海流により右方に2度圧流されて035度の実航針路で吐
喇海峡を北上した。
A受審人は、いすに腰を掛けることなく、時折、操舵室左舷側にあるレーダーや操舵室後部の無線室にあるGPSプロッタにより、船位及び周囲の状況を確認しながら船橋当直を行っていたところ、連日の操業で疲労が蓄積した状態であり、入直前の仮眠時間が約2時間しかとれなかったことから、23時00分を過ぎたころから眠気を催すようになったが、次直の船橋当直者を早めに昇橋させて交替するなど、居眠り運航の防止措置をとることなく、操舵室内を移動したりして眠気を我慢しながら船橋当直を続けた。
23時25分A受審人は、野埼灯台から223度6.2海里の地点に差し掛かったとき、ほぼ正船首約3海里に反航船の灯火を視認したので、同船と左舷を対して通過するため、自動操舵装置の針路設定つまみを10度右に回し、針路を口永良部島西端にある野埼灯台に向く043度に転じ、045度の実航針路で自動操舵によって進行した。
A受審人は、反航船がいたことで一時的に眠気が払拭されたものの、しばらくして同船と左舷を対して無難に通過できる態勢となったことで気が緩み、強い眠気を催して居眠りに陥るおそれがあったが、反航船が通過した後に口永良部島西方に向けて転針することにしており、また、間もなく5日00時00分からの船橋当直者が昇橋してくるので、それまでは何とか眠気を我慢できるものと思い、依然として、次直の船橋当直者を早めに昇橋させて交替するなど、居眠り運航の防止措置をとらないまま船橋当直を続けた。
ところが、A受審人は、反航船が通過した直後に転針しようとしてレーダー映像を見ていたところ、23時35分野埼灯台から223度4.4海里の地点に達したとき、反航船が左舷側を通過したのを認めたものの、立ったままレーダーに覆い被さるようにして居眠りに陥り、口永良部島西方に向けて転針することができずに続航し、一方で、甲板員も、操舵室右舷側で台に腰を掛けて見張りを行っているうち、居眠りに陥り、A受審人を起こすことも、次直の船橋当直者を起こしに行くこともできなかった。
こうして、A受審人は、23時55分野埼灯台から216度1.0海里の、口永良部島西端まで約1,600メートルの地点に至ってもなお居眠りを続け、同島西方に向けて転針できないまま同島西端に向く針路で進行中、5日00時00分野埼灯台から175度200メートルの地点において、第十一福栄丸は、原針路、原速力のまま、口永良部島西端の岩場に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力2の東風が吹き、吐
喇海峡では約0.5ノットの東流があり、視界は良好であった。
乗揚の結果、第十一福栄丸は、船底外板に損傷を生じ、離礁作業を待つうち、波浪により船体が大破し、のち廃船とされた。
(原因)
本件乗揚は、夜間、鹿児島県吐
喇群島周辺海域でのかつお一本釣り漁を終えて帰航中、居眠り運航の防止措置が不十分で、同県口永良部島西端に向けて進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、鹿児島県吐
喇群島周辺海域でのかつお一本釣り漁を終えて帰航中、眠気を催した場合、連日の操業で疲労が蓄積していたのであるから、居眠りに陥らないよう、次直の船橋当直者と早めに交替するなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、反航船が通過した直後に口永良部島西方に向けて転針することにしており、また、間もなく次直の船橋当直者が昇橋してくるので、それまでは何とか眠気を我慢できるものと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、反航船と左舷を対して無難に通過できる態勢となったことで気が緩み、立ったままレーダーに覆い被さるようにして居眠りに陥り、口永良部島西方に向けて転針しないまま同島西端に向く針路で進行して乗揚を招き、船底外板に損傷を生じ、離礁作業を待つうち、波浪により船体を大破させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。