(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年10月16日21時44分
岡山県宇野港 葛島西岸沖 飛州
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船久栄丸 |
総トン数 |
2.81トン |
全長 |
10.90メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
40 |
3 事実の経過
久栄丸は、建網漁に従事するFRP製漁船で、A受審人(昭和51年3月四級小型船舶操縦士免許取得)が妻を伴って乗り組み、操業の目的で、船首0.1メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、平成14年10月16日19時15分香川県香川郡直島町屏風港を発し、岡山県宇野港南方に位置する荒神島西岸沖の漁場に至り、同日昼間に仕掛けた建網を揚網し、続いて葛島西岸沖の宇野港口飛州灯台(以下「飛州灯台」という。)周辺に仕掛けた網を揚網するため移動することにした。
ところで、飛州灯台周辺水域は、葛島西岸から西方約280メートルにあたる宇野港域内に位置する東西方向約50メートル南北方向約100メートルの岩礁を含む険礁域を成し、同域南部岩礁上に飛州灯台が設置され、小魚などが険礁等に集まる格好の漁場でもあった。
A受審人は、約50年間も建網漁に従事し、その間度々同険礁域周辺にも建網を仕掛けるなどして操業を続けていたので、飛州灯台の周辺水域の水路事情に精通していた。当日も昼のうちに同灯台の西側から南側一帯にかけての険礁域から約20メートル沖に長さ約110メートルの建網を仕掛け、夜間の目印として同網西側端付近に乾電池2個入りの標識灯も投下した。
こうして、A受審人は、荒神島西岸沖での揚網後、21時30分飛州灯台から155度(真方位、以下同じ。)1,540メートルの地点で、針路を同灯台を船首目標とする335度に定め、機関を微速力前進にかけて3.5ノットの速力で手動操舵により進行した。
ところが、A受審人は、それまでの経験から夜間飛州灯台に近づくと早々に仕掛けた網の標識灯を視認することができたが、今回は同灯台に接近しても投下したはずの標識灯の灯火を視認することができず、何らかの理由による消灯とも考えて同標識灯を投下した同灯台西側険礁域に移動して探すこととしたが、険礁域に接近し過ぎないよう、同灯台の灯光などによって船位の確認を十分に行うことなく、標識灯等を探すことに気を取られ、同じ針路のままで進行中、21時44分飛州灯台から155度30メートルの地点において、久栄丸は、原針路、原速力のまま、同灯台の南側険礁に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力1の北西風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
乗揚の結果、久栄丸は、船尾船底外板に破口を伴った損傷を生じ、僚船の来援を得て離礁し、のち修理された。
なお、仕掛けた建網は、標識灯も含めて約7割相当が盗難かの理由で喪失していた。
(原因)
本件乗揚は、夜間、岡山県宇野港域付近において、飛州灯台周辺険礁域近くに仕掛けた建網を揚網する際、船位の確認が不十分で、飛州南側険礁域に向かって進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、飛州灯台周辺水域に仕掛けた建網を揚網する際、見当らない同網標識灯等を探す場合、同灯台周囲の険礁に接近し過ぎないよう、飛州灯台の灯光などによって船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、何らかの理由で消灯したのか見当らない標識灯等を探すことに気を取られ、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、飛州南側水域の険礁への乗揚を招き、船尾部船底外板に破口等の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。