(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年3月8日12時15分
瀬戸内海東部 日生港
2 船舶の要目
船種船名 |
作業船光洋丸 |
総トン数 |
90トン |
全長 |
22.46メートル |
幅 |
9.00メートル |
深さ |
2.60メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
661キロワット |
3 事実の経過
光洋丸は、鋼製揚錨船兼作業船で、A受審人ほか1人が乗り組み、築造予定の護岸軟弱地盤改良のための杭打工事に従事する総トン数1,894トン全長55メートル幅25メートルの非自航式杭打船第7光号(以下「杭打船」という。)に随行して転錨等の作業(以下「錨作業」という。)にあたる目的で、船首1.2メートル船尾2.5メートルの喫水をもって、平成15年3月4日01時00分神戸港を発し、08時ころ岡山県日生港に寄港したのち、正午前同港から南方2海里に位置する頭島漁港南東方の築造予定の護岸工事現場に至った。
ところで、上記護岸工事現場は、頭島漁港港口から東方に向かって護岸が築造中で、同港口から約500メートル付近にあたる長さ約150メートルの軟弱地盤区間の工事を残し、その東西方向にあたる部分は既に完成した状態であった。同残工事区間については、先ず軟弱地盤改良のための杭打工事が、同月4日から同15日までの工期で、頭島港東防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)の東方450メートルの既築西側護岸東端から同東側既築護岸西端までの約150メートルの未完成部分のうち、同西側護岸端から長さ103メートル幅15メートルの範囲に、作業員10人が乗り組む杭打船によって杭打ちを施すものであった。そして、錨船として光洋丸及び係留索搬送にあたるチャッチャ船(伝馬船の一種で総トン数5トン)が杭打船に随行していた。
A受審人は、光洋丸を運航して予定工事現場で引船に曳航されてきた杭打船に合流し、同船がほぼ北に向首し築造予定の護岸線に対してほぼ直角の状態に停船したところでその船固めを行うこととし、杭打船の船尾両舷から各錨を沖側に向かってハの字状に及び左舷船首錨を左舷前方護岸近くにそれぞれ搬出投錨し、一方チャッチャ船によって杭打船の船首両舷から係留索を東西既護岸端上に取り付けたアイピースにそれぞれクロス状態に搬送係留して、築造予定の護岸線から約50メートル沖に船固めを済ませた。
その後、杭打船は、船固めした錨索及び係留索をそれぞれ伸縮して適宜杭打ポイントに移動しながら工事を続けた。その間に右舷船首係留索を係止した東側既護岸端上の取り付けアイピースが取り外れて、同索を同付近陸岸の岩に取り直して作業を続けた。しかし、係留索が再三同岩から外れて作業に支障を来していたことから、越えて8日11時30分A受審人は、作業関係者らと協議して右舷船首係留索を錨泊に切り換えることにした。
こうして、11時45分A受審人は、光洋丸の船首部に杭打船の右舷船首錨を吊り、船首1.2メートル船尾2.5メートルの喫水をもって、杭打作業長の要請もあって東側既護岸基部にできるだけ近いところに投錨する目的で、杭打船を発進し、12時13分少し前防波堤灯台から125度(真方位、以下同じ。)600メートルの地点で、針路を030度に定め、機関を極微速力前進にかけて約1ノットの速力で進行した。
ところが、12時14分半A受審人は、防波堤灯台から118度600メートルの地点に達したころ、作動中の測深器が使用不能になるほど浅い水域に達して推進器排出流も泥混じりの濁った状況となったことから、極めて水深の浅い水域に達したことを知ったが、できるだけ陸岸に近いところに投錨したい余りに、機関を極低速力にすれば例え底触しても損傷までには至らないと思い、それ以上の陸岸への接近を避けるなど可航水域に対する配慮を十分に行うことなく、機関を減速して同じ針路で続航し、12時15分防波堤灯台から117度600メートルの地点において、光洋丸は、その右舷船首部を護岸30メートル沖の浅礁に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力1の北西風が吹き、潮候は上げ潮の末期で潮候が約1メートルであった。
乗揚の結果、推進器翼を損傷し、右舷側船首船底外板に凹損を生じ、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、岡山県頭島港護岸築造工事現場において、海底軟弱地盤改良工事に従事する杭打船の一部船首係留索を錨泊に切り換える際、可航水域に対する配慮が不十分で、錨船を使用してできるだけ陸岸に近い地点に投錨しようと更なる陸岸への接近を試み、浅礁に向かって進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、岡山県頭島港護岸築造工事現場において、海底軟弱地盤改良工事に従事する杭打船の一部船首係留索を錨泊に切り換える際、錨船を使用してできるだけ陸岸に近い地点に投錨しようとする場合、陸岸に近づくに伴って作動中の測深器が使用不能状態になるほど浅い水域に達して推進器排出流も泥混じりの濁った状況となったから、それ以上の陸岸への接近を避けるなど可航水域に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、機関を使って極めて低速力にすることによって例え底触しても船底等の損傷までには至らないと思い、更なる陸岸への接近を避けるなど可航水域に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により、陸岸への接近を試みて、浅礁への乗揚を招き、推進器翼損傷及び船首船底外板に凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。