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平成15年長審第41号
件名

旅客船ふえにっくす定置網衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年12月11日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(原 清澄、清重隆彦、寺戸和夫)

理事官
向山裕則

受審人
A 職名:ふえにっくす船長 海技免許:四級海技士(航海)
指定海難関係人
B 職名:ふえにっくす機関長

損害
右舷推進器翼を曲損、定置網の索及び網を切断

原因
船位確認不十分

主文

 本件定置網衝突は、船位の確認が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年11月27日17時54分
 長崎県有川湾
 
2 船舶の要目
船種船名 旅客船ふえにっくす
総トン数 68トン
登録長 25.81メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,471キロワット

3 事実の経過
 ふえにっくすは、航行区域を限定沿海区域とし、長崎県佐世保港と同県有川港間の航路に1日1往復就航する、2機2軸の旅客定員を140人とした軽合金製旅客船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか1人が乗り組み、乗客1人を乗せ、船首0.62メートル船尾0.95メートルの喫水をもって、平成14年11月27日16時30分佐世保港を発し、有川港に向かった。
 ところで、有川港に至る有川湾内には有川漁業団と称する営利団体が管理運営する定置網が12か統あり、そのうちの4か統が長崎県から許可された大型定置網、他の8か統が有川漁業協同組合から借り受けた小型定置網で、有川湾の東側に位置する野首埼北方沖合に大型定置網(以下「野首埼網」という。)が2か統、継子瀬北東方沖合に大型定置網(以下「継子瀬網」という。)が2か統それぞれ設置されており、野首埼網の西側及び継子瀬網の北東側には小型標識灯(以下「標識灯」という。)がそれぞれ1個ずつ設置され、小型定置網の標識灯も含めて一定幅の水域を挟んでその東側に3個、西側に3個の標識灯が北東若しくは南西方向に並び、これらの各標識灯によって挟まれた水域が有川港に至る航行路となっていた。また、継子瀬網は沖合に向かって順に継子一号及び継子二号と名付けられ、継子瀬の沖合350メートルのところに継子一号が、継子一号の沖合350メートルのところに継子二号が設置されており、同二号の北東側から約25メートル離して標識灯が設置され、野首埼網西側の標識灯と対をなし、これらの標識灯の間が航行路の出入口であることを表示していた。
 そこで、A受審人は、標識灯が、電源が衰耗して見えにくくなったり、突然消灯することもあったことから、歴代の船長がGPSプロッターに測定した定置網の位置を入力し、その位置が変更されれば、その都度修正して再入力し、安全運航に利用していたのを引き継ぎ、自船の航跡も10航海分ほどは消さずにGPSプロッターに保存して航行時の参考とし、また、港内を航行する際には他の2人の乗組員を昇橋させ、周囲の見張りに当たらせていた。
 発航後、A受審人は、単独で船橋当直に当たって航行を続け、17時36分ころ右舷方に平島東端を航過したとき、GPSプロッターが作動していないことに気付き、休息中のレーダー免許を受有するB指定海難関係人をレーダーの監視に、及び一等機関士に肉眼による見張りを行わせるため昇橋を命じた。
 17時40分ころB指定海難関係人と一等機関士が昇橋してそれぞれの職務に就き、同時48分半A受審人は、継子瀬灯台から061度(真方位、以下同じ。)2.70海里の地点に達したとき、針路を249度に定め、機関を港内全速力前進にかけて26.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし、手動操舵により進行した。
 その後、A受審人は、B指定海難関係人には転針目標としていた野首埼網の外縁を探知するよう、一等機関士には同網の位置を示す標識灯を探すように指示し、自らは時々見張りを行いながら、操舵に当たって続航した。
 B指定海難関係人は、A受審人の指示を受けて野首埼網の外縁を探知するため、レーダーレンジを0.5海里レンジとしたまま、同外縁を捉えることに専念した。
 17時51分A受審人は、継子瀬灯台から056度1.65海里の地点に至って野首埼のほぼ真北を航行する状況となったとき、B指定海難関係人が、折からの波浪の影響などのためか、野首埼網の外縁を的確に探知できなかったが、同人に対しては目視により転針目標とする標識灯を探すように指示しただけで、そのうち転針目標とした標識灯が見えてくるだろうと思い、周囲の状況を的確に把握できるよう、速力を減じるとか、一旦機関を停止するなどしたうえ、レーダーのレンジを切り替えるなどして、固定物標により船位を確認することなく進行した。
 17時52分わずか前A受審人は、継子瀬灯台から053度1.35海里の転針予定地点に達したものの、依然として船位の確認を行っていなかったので、このことに気付かず続航し、同時52分継子瀬灯台から052度1.25海里の地点に至り、継子二号を左舷船首15度1,530メートルに見る状況となったとき、一等機関士から左舷前方に標識灯が見える旨の報告を受けた際、それが継子二号の沖合に設置された標識灯であることに気付かないまま、野首埼網西方の平素から転針目標としていた標識灯と思い込み、徐々に左転を始めた。
 ふえにっくすは、A受審人が転針目標とした標識灯を取り違えたまま左転中、17時54分わずか前前路に定置網の俵状をした浮きを視認し、目標とする標識灯を見誤ったことに初めて気付き、直ちに機関を中立としたが、及ばず、17時54分継子瀬灯台から047度800メートルの地点において、残速力が約12.5ノットとなったとき、継子二号に衝突した。
 当時、天候は曇で風力4の北西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。また、日没は17時16分で、月齢は22日であった。
 衝突の結果、右舷推進器翼を曲損し、継子二号の索及び網を切断したが、のちいずれも修理された。 

(原因)
 本件定置網衝突は、夜間、長崎県中通島の有川湾内を有川港に向かって航行する際、船位の確認が不十分で、定置網に向けて転針進行したことによって発生したものである。
 
(受審人等の所為)
 A受審人は、夜間、長崎県中通島の有川湾内を有川港に向けて航行する場合、付近海域には多数の定置網が設置されており、同網の位置を入力したGPSプロッターが故障していたのであるから、周囲の状況を的確に把握できるよう、速力を減じるか、一旦機関を停止したうえ、レーダーのレンジを切り替えるなどして、固定物標により船位を確認すべき注意義務があった。しかるに、同人は、転針目標とした標識灯がそのうち見えてくるものと思い、船位を確認しなかった職務上の過失により、速力を減じることも、一旦機関を停止することもなく航行を続け、周囲の状況を把握しないまま、たまたま認めた標識灯を転針目標とした標識灯と思い込み、転針進行して定置網との衝突を招き、右舷推進器翼を曲損し、定置網の索及び網を切断するに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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