(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年5月28日07時35分
唐津湾神集島南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船信洋丸 |
プレジャーボート(船名なし) |
総トン数 |
4.97トン |
|
登録長 |
11.01メートル |
全長 |
|
2.8メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
|
出力 |
180キロワット |
|
3 事実の経過
信洋丸は、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、一級小型船舶操縦士免許(平成元年8月17日取得)を有するA受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.35メートル船尾0.50メートルの喫水をもって、平成15年5月28日07時00分佐賀県浜崎漁港を発し、同県加唐島北西方沖合の漁場に向かった。
A受審人は、07時10分唐津港高島西防波堤灯台から108度(真方位、以下同じ。)2.7海里の地点で、針路を319度に定め、12.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
07時33分A受審人は、湊浜港1号防波堤灯台から121.5度1,600メートルの地点に達したとき、正船首740メートルのところに、319度方向に向首して錨泊中のプレジャーボート(船名なし)(以下「丸山号」という。)を視認することができたが、右舷船首前方に、ほぼ横向き状態の2人乗りの手漕ぎボートを視認し、同船以外に他船はいないものと思い、引き続き2人乗りの手漕ぎボートを注視していて、正船首方の見張りを十分に行わなかったので、丸山号を認めなかった。
その後、A受審人は、丸山号に向かって衝突のおそれがある態勢で接近したが、依然、正船首方の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、同船を避けないまま続航中、07時35分湊浜港1号防波堤灯台から107度880メートルの地点において、信洋丸は、同じ針路及び速力のまま、その船首が丸山号の船尾に真後ろから衝突した。
当時、天候は晴で風はなく、潮候は上げ潮の末期であった。
また、丸山号は、FRP製の手漕ぎボートで、B指定海難関係人が、唐津市相賀のドライブインマキノと称する貸しボート店から借り、1人で乗り組み、釣りの目的で、船首尾とも0.15メートルの喫水をもって、同日07時00分湊浜港1号防波堤灯台の南方800メートルばかりの相賀浜を発し、神集島南方の釣り場に向かった。
07時25分ごろB指定海難関係人は、水深17メートルばかりの前示衝突地点付近に至り、船首から先端にコンクリートブロックを結んだ錨索を約25メートル延出して錨泊し、標識を掲げないまま、釣りを始めた。
B指定海難関係人は、07時33分船首を319度に向け、船体中央部よりやや後方で、左舷側に釣り竿を出して釣りをしていたとき、正船尾740メートルのところに信洋丸が存在し、その後、自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近するのを認め得る状況であったが、釣りに熱中していて、後方の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、オールを漕いで信洋丸の進路線から外れるなど、衝突を避けるための措置をとらなかった。
丸山号は、B指定海難関係人が、07時35分わずか前機関音を聞き、船尾方から真っすぐに向かって来る信洋丸を認めたもののどうすることもできずに錨泊中、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、信洋丸は船首に軽微な擦過傷を生じ、丸山号は沈没したのち相賀浜に打ち上げられたが廃船処分され、B指定海難関係人が右膝打撲傷等を負った。
(原因の考察)
本件衝突は、錨泊して魚釣りをしている手漕ぎボートと漁場に向け航行中の漁船とが衝突したもので、漁船が、見張り不十分で、正船首方で錨泊している手漕ぎボートに気付かず同船を避けないまま進行したことが主たる原因となる。
また、手漕ぎボートが、見張り不十分で、衝突直前まで衝突のおそれがある態勢で接近する漁船に気付くのが遅れ、自船の存在を知らせることも、衝突を避けるための措置をとることができなかったことも一因である。
手漕ぎボートの乗組員が、衝突のおそれがある態勢で接近する他船を認めた際、余裕を持って自船の存在を知らせたり、自船を移動させて相手船の進路線から外れる措置がとれるよう、周囲の見張りを十分に行うことは、同員が海技免許や操縦免許を有していなかったとはいえ、海上においては必要なことである。
そして、法に規定されていないものの、手漕ぎボートが錨泊する際には、目立つ標識を掲げるなどして、付近を航行する他船から自船を発見されやすくすることが望ましい。
(原因)
本件衝突は、唐津湾神集島南方沖合において、漁場に向け航行中の信洋丸が、見張り不十分で、前路で錨泊中の丸山号を避けなかったことによって発生したが、丸山号が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人等の所為)
A受審人は、唐津湾神集島南方沖合において、漁場に向け航行する場合、正船首方で錨泊している丸山号を見落とすことのないよう、正船首方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、右舷船首前方の手漕ぎボートに気を取られ、正船首方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、正船首方で錨泊している丸山号に気付かず、同船を避けずに進行して衝突を招き、信洋丸の船首に軽微な擦過傷を生じさせ、丸山号を沈没させて廃船に至らしめ、B指定海難関係人に右膝打撲傷等を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、錨泊して釣りを行う際、後方の見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。