(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年7月24日13時00分
グアム島南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第八登喜丸 |
総トン数 |
19.96トン |
登録長 |
14.94メートル |
幅 |
3.67メートル |
深さ |
1.50メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
190 |
3 事実の経過
第八登喜丸(以下「登喜丸」という。)は、昭和54年5月に進水し、船体中央部からやや後方に操舵室を設けたまぐろ延縄漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が同52年4月1日に一級小型船舶操縦士免許を取得し、まぐろ延縄漁船に乗船して船長職などを執ったあと平成9年11月に中古の登喜丸を購入後船長として乗り組み、沖縄県那覇港を基地として同漁業に従事したのち、同11年5月末からアメリカ合衆国グアム島アプラ港に基地を移し、同港南方沖合で1航海約30日の操業を周年行っていたところ、同人が有資格者の機関長を乗せないまま、インドネシア人7人と乗り組み、操業の目的で、船首1.0メートル船尾1.6メートルの喫水をもって、同14年7月1日10時00分(日本標準時、以下同じ。)同港を発し、同港南南西方約680海里沖合の漁場に向かった。
同月6日06時00分A受審人は、北緯3度00分東経140度20分の地点に至り、1回目の操業を開始した。そして、自らが操業全般の指揮を執り、インドネシア人乗組員3人を一組として06時00分ごろから13時00分ごろまで船尾甲板で投縄作業を行わせ、その後2時間半ほど漂泊して待機し、15時半ごろから乗組員全員で前部甲板で揚縄作業にかかり、翌日03時00分ごろまで同作業を行い、その後次の投縄まで漁場移動時の船橋当直者を除いて乗組員全員が休息するという操業形態を連日繰り返していた。また、A受審人は、漁場移動時や投縄時は自らが船橋当直を行い、インドネシア人乗組員のうち1人を適宜操舵室での見張り員に配置し、漁場往復航の船橋当直には同乗組員7人全員を単独2時間交替で当たらせ、見張りだけに専念させて他船などが接近するようであれば自らに知らせるようにしていた。
越えて同月24日A受審人は、06時00分北緯2度59.0分東経145度24.5分の地点で14回目の操業を開始し、操舵室で操業の指揮を執り、インドネシア人乗組員3人を船尾甲板での作業配置に就かせて投縄にかかり、針路を090度(真方位、以下同じ。)に定めて自動操舵とし、8.5ノットの対地速力で進行した。
ところで、A受審人は、漁場ではほとんど毎日流木を見かけ、僚船の間でも流木注意報を出して注意を呼びかけていたので、投縄開始時、船尾甲板で投縄作業に当たる乗組員3人に同作業の合間に前方にも目をやり流木に注意するよう指示し、操舵室に見張り員1人を配置して自らが船橋当直に当たった。
A受審人は、投縄が始まって間もなく、前方に流木などを見かけなかったので、少しの間休息することとしたが、何かあれば見張り員が知らせてくれるものと思い、前方の見張りを十分に行わないで、操舵室後部のベッドで休息した。
12時59分半A受審人は、船首方130メートルのところに、直径約1メートル長さ約10メートルの枝がついた流木を視認できる状況であったが、依然見張り不十分のまま、休息をとっていて、この状況に気付かず、同流木を避けないまま続航中、船首が波で浮上したとき同流木が船底に潜り込むかして、13時00分北緯2度59分東経146度24分の地点において、登喜丸は、原針路、原速力のまま、その右舷中央部船底に同流木が衝突した。
当時、天候は小雨で風力3の東風が吹き、視程は約5海里で、海上にはやや波があった。
A受審人は、突然船底に衝撃を感じ、直ちに操舵室から出てみると、船尾甲板で乗組員が船尾後方を指さして騒いでいるので、船尾部に赴き同方向を見たとき、近くに浮いている直径約1メートル長さ約10メートルの流木を認めたのでその直後に機関を中立にした。そして、船首部に行き異常のないことを確かめたあと、機関室内のビルジ警報装置のアラームが鳴っていたので、同室内の点検を行ったところ、右舷側補機付近の船底に破口を生じて多量の海水が浸入し、同室が船底から約25センチメートルも浸水しているのを認めた。そこで、急いで排水ポンプのほか魚倉用の排水ポンプも使用して排水に努めたが発電機が水没して排水不能となり、浸水量が多く沈没の危険を感じ、イーパブ(衛星非常用位置指示無線標識)を手動で操作したあと、同日17時00分ごろ救命筏で乗組員全員退船し、付近の僚船に無事救助されたが、登喜丸はその後沈没して全損となった。
(原因)
本件流木衝突は、グアム島南方沖合において、まぐろ延縄漁業に従事中、見張り不十分で、流木を避けなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、グアム島南方沖合において、まぐろ延縄漁業に従事する場合、漁場ではほとんど毎日流木を見かけ、僚船の間でも流木注意報を出して注意を呼びかけていたのであるから、流木を見落とすことのないよう、前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、投縄を開始したころ、前方に流木などを見かけず、操舵室に見張り員1人を配置しているので、何かあれば同人が知らせてくれるものと思い、前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、操舵室後部のベッドで休息していて前方の流木に気付かず、これを避けずに進行して衝突を招き、登喜丸の右舷中央部船底に破口を生じて浸水させ、同船を沈没させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。