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平成15年門審第105号
件名

漁船第十八幸恵丸プレジャーボート第二幸洋丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年12月16日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(西村敏和、小寺俊秋、千葉 廣)

理事官
半間俊士

受審人
A 職名:第十八幸恵丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:第二幸洋丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
幸恵丸・・・船首部に凹損
幸洋丸・・・船尾部に破口を生じて、浸水・転覆

原因
幸恵丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
幸洋丸・・・見張り不十分、注意喚起信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第十八幸恵丸が、見張り不十分で、錨泊中の第二幸洋丸を避けなかったことによって発生したが、第二幸洋丸が、見張り不十分で、注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年8月23日13時50分
 山口県六連島北方
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第十八幸恵丸 プレジャーボート第二幸洋丸
総トン数 14.0トン  
全長 19.80メートル 7.28メートル
登録長 16.68メートル 6.28メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 404キロワット 29キロワット

3 事実の経過
 第十八幸恵丸(以下「幸恵丸」という。)は、専らいか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、平成12年2月交付の一級小型船舶操縦士免状を有するA受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.6メートル船尾1.6メートルの喫水をもって、平成13年8月23日13時20分山口県下関漁港本港地区を発し、福岡県沖ノ島北東方約14海里の漁場に向かった。
 A受審人は、操舵装置の後方に立って手動操舵に当たり、浮上した船首やマストなどの構造物によって、正船首から左右にそれぞれ約3度の範囲で前方約1,000メートルまでが死角(以下「船首死角」という。)となり、船首方向の見通しが妨げられていたので、時折、操舵室両舷側の窓から顔を出して船首死角を補う見張りを行いながら操船し、小瀬戸を通過した後、六連島東方を北上した。
 A受審人は、関門航路を横断していたとき、西側の航路外を南下中の大型船に接近するおそれがあったので、13時44分六連島灯台から084度(真方位、以下同じ。)1,000メートルの地点で、大型船の進路を避けるために右転し、松瀬北灯浮標の南東方約900メートルのところで大型船の船尾方を替わし終えた。
 そして、A受審人は、定針方向となる松瀬北灯浮標の南方を一見して、同方向には他船を認めなかったことから、13時46分少し過ぎ六連島灯台から042度1,000メートルの地点において、針路を同灯浮標の南方約200メートルのところに向く309度に定め、機関回転数毎分1,400の全速力前進にかけ、10.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、自動操舵により進行した。
 A受審人は、操舵装置の後方に立って見張りを行いながら続航し、13時48分六連島灯台から012度1,130メートルの地点に差し掛かったとき、正船首600メートルのところに自船に船尾を向けた第二幸洋丸(以下「幸洋丸」という。)を視認でき、同船が移動しないことから、錨泊又は漂泊していることを認め得る状況で、その後、同船に向首したまま衝突のおそれのある態勢で接近したが、前路に他船はいないものと思い、操舵室両舷側の窓から顔を出すなどして船首死角を補う見張りを十分に行っていなかったので、同死角に入っていた幸洋丸に気付かず、同船を避けることなく進行した。
 こうして、A受審人は、錨泊中の幸洋丸に向首したまま続航し、13時49分六連島灯台から000度1,280メートルの地点に達したとき、幸洋丸が正船首300メートルとなったが、依然として、同船に気付かず、これを避けないまま進行中、13時50分六連島灯台から351度1,500メートルの地点において、幸恵丸は、原針路、原速力のまま、その船首が、幸洋丸の船尾左舷側に真後ろから衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の北西風が吹き、視界は良好で、潮候は下げ潮の初期であった。
 また、幸洋丸は、和船型のFRP製プレジャーボートで、平成9年6月交付の四級小型船舶操縦士免状を有するB受審人が1人で乗り組み、釣りの目的で、船首0.2メートル船尾0.4メートルの喫水をもって、平成13年8月23日07時00分下関漁港南風泊地区を発し、六連島北方の釣り場に向かい、同時15分六連島灯台から341度1,900メートルの地点において錨泊し、あじ釣りを始めた。
 B受審人は、午前中は思ったほど釣果が上がらなかったので、12時30分揚錨して釣り場の移動を開始し、同時35分水深約20メートルの前示衝突地点において、重さ約6キログラムの錨を入れ、直径15ミリメートルの錨索を約40メートル出して船首に止め、蓄電池の充電のため、機関を回転数毎分500の中立運転として、黒色球形形象物を掲げずに、折からの微弱な北西風を受け、船首をほぼ北西方を向けて錨泊し、あじ釣りを再開した。
 B受審人は、操縦席後部で物入れの上に右舷側を向いて腰を掛け、竿釣りを行っていたところ、13時48分船首が309度を向いていたとき、正船尾600メートルのところに幸恵丸を視認し得る状況となり、その後、自船に向首したまま衝突のおそれのある態勢で接近したが、午前中とは打って変わって釣果が上がっていたことから、釣りに熱中するあまり、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かなかった。
 こうして、B受審人は、右舷側を向いたまま釣りを続け、13時49分幸恵丸が自船に向首したまま正船尾300メートルのところに接近したが、依然として、同船の接近に気付かず、電気ホーンにより避航を促すための注意喚起信号を行うことも、中立運転中の機関を使用して移動するなどの衝突を避けるための措置をとることもせずに錨泊中、同時50分わずか前、船尾方に機関音を聞いて至近に迫った幸恵丸を視認したものの、衝突を避けるための措置をとることができず、危険を感じて海中に飛び込み、幸洋丸は、船首が309度を向いていたとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、幸恵丸は、船首部に凹損を生じ、幸洋丸は、船尾部に破口を生じて浸水・転覆したが、B受審人は幸恵丸に無事収容され、のちいずれも修理された。 

(原因)
 本件衝突は、山口県六連島北方において、漁場に向かう第十八幸恵丸が、見張り不十分で、前路で錨泊中の第二幸洋丸を避けなかったことによって発生したが、第二幸洋丸が、見張り不十分で、電気ホーンによる注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、山口県六連島北方において、同県下関漁港から福岡県沖ノ島沖合の漁場に向かう場合、浮上した船首やマストなどの構造物によって船首方向に死角が生じていたのであるから、前路に存在する他船を見落とすことのないよう、操舵室両舷側の窓から顔を出すなどして、船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、定針するに当たり、一見して定針方向には他船を認めなかったことから、前路に他船はいないものと思い、船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、船首死角に入っていた錨泊中の第二幸洋丸に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、第十八幸恵丸の船首部に凹損を生じさせ、第二幸洋丸の船尾部に破口を生じさせて浸水・転覆させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、山口県六連島北方において、錨泊して釣りを行う場合、接近する他船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、釣果が上がっていたことから、釣りに熱中するあまり、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、右舷側を向いたまま釣りを続け、自船の船尾方向から接近する第十八幸恵丸に気付かず、電気ホーンにより避航を促すための注意喚起信号を行うことも、中立運転中の機関を使用して移動するなどの衝突を避けるための措置をとることもせずに錨泊を続けて衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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