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平成15年門審第93号
件名

漁船麻美丸漁船幸生丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年12月12日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(橋本 學、長浜義昭、小寺俊秋)

理事官
島 友二郎

受審人
A 職名:麻美丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:幸生丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 

損害
麻美丸・・・球状船首左舷側及び左舷船首ブルワークを損傷
幸生丸・・・右舷中央部及び船橋を損傷、船長が約2週間の入院及び約1箇月の通院加療を要する鼻骨骨折

原因
幸生丸・・・見張り不十分、追越しの航法(船間距離)不遵守(主因)
麻美丸・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、麻美丸を追い越す幸生丸が、見張り不十分で、麻美丸の進路を避けなかったことによって発生したが、麻美丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年3月9日10時30分
 愛媛県佐田岬北西方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船麻美丸 漁船幸生丸
総トン数 2.7トン 2.3トン
登録長 8.30メートル 8.85メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 70 50

3 事実の経過
 麻美丸は、音響信号装置を装備していないFRP製漁船で、平成11年1月に交付された二級小型船舶操縦士免状を有するA受審人が1人で乗り組み、たちうお曳縄漁の目的で、船首0.3メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、同15年3月9日06時10分大分県下浦漁港を発し、愛媛県佐田岬北西方沖合7海里付近の漁場へ向かった。
 07時20分A受審人は、漁場に到着してスパンカーを展張したのち、8キログラムの底錘を取り付けた約200メートルのワイヤー製幹縄に、80本の針を結んだ約240メートルの枝縄を繋ぎ、その枝縄を魚群がいる層と同じ高さとなるように調節して船尾から流し、北西方向へ約1.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で曳きながら操業を始めた。
 A受審人は、投縄、曳縄、揚縄の計1時間ばかりの時間を要する一連の作業を1回の操業として数え、これを南東方向への潮のぼり(曳縄仕掛けを揚縄してから投縄地点へ戻ることをいう。)を挟んで2回行ったのち、10時25分佐田岬灯台から304.5度(真方位、以下同じ。)4.5海里の地点で、3回目の操業に備えた潮のぼりのため、針路を115度に定め、7.0ノットの速力で、手動操舵によって進行した。
 そして、10時28分A受審人は、佐田岬灯台から305度4.1海里の地点に達したとき、左舷船尾51度240メートルのところに、幸生丸を視認することができ、その後、同船が自船を追い越す態勢で接近する状況となったが、投縄予定地点を決めるため、前方の佐田岬灯台や高島などを注視して山だてを行うことに気を取られ、後方の見張りを十分に行わなかったので、幸生丸の接近に気付かなかった。
 こうして、10時29分半A受審人は、幸生丸が、同じ方位のまま60メートルのところまで接近して、衝突のおそれがある状況となったが、依然として、後方の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、機関を使用して行きあしを停止するなどの衝突を避けるための協力動作をとることなく進行中、10時30分佐田岬灯台から306度3.9海里の地点において、麻美丸は、原針路、原速力で、その左舷船首部に、幸生丸の右舷中央部が後方から18度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力4の北風が吹き、視界は良好であった。
 また、幸生丸は、麻美丸と同じく、たちうお曳縄漁業に従事するFRP製漁船で、平成11年1月に交付された一級小型船舶操縦士免状を有するB受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.5メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、同15年3月9日06時00分下浦漁港を発し、佐田岬北西方沖合7海里付近の漁場へ向かった。
 B受審人は、07時00分ごろ漁場に到着して麻美丸と同じ漁業形態で3回操業を行ったのち、10時15分佐田岬灯台から309度6.4海里の地点で、4回目の操業に備えた潮のぼりのため、針路を133度に定め、10.0ノットの速力で、遠隔操縦用コントローラーを用いた手動操舵によって進行した。
 そして、10時28分B受審人は、佐田岬灯台から307度4.3海里の地点に達したとき、右舷船首33度240メートルのところに、麻美丸を視認することができ、その後、同船を追い越す態勢で接近する状況となったが、GPSを監視して投縄地点を確かめることや魚群探知機を使用して魚群を探すことなどに気を取られ、見張りを十分に行わなかったので、右舷前方の麻美丸の存在に気付かず、同船を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかる針路とすることなく続航した。
 こうして、10時29分半B受審人は、麻美丸との方位が変わらないまま60メートルのところまで接近して、衝突のおそれがある状況となったが、依然として、見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、同船の進路を避けることなく進行中、投縄予定地点に到達したことを確認して機関を微速力前進に減じるとともに右舵一杯を取った瞬間、幸生丸は、右舷至近に接近していた麻美丸と、ほぼ原針路、原速力で、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、麻美丸は球状船首左舷側及び左舷船首ブルワークに、幸生丸は右舷中央部及び船橋にそれぞれ損傷を生じたが、のち、いずれも修理された。また、B受審人が、約2週間の入院並びに約1箇月の通院加療を要する鼻骨骨折などの傷を負った。 

(原因)
 本件衝突は、佐田岬北西方沖合において、麻美丸を追い越す幸生丸が、見張り不十分で、麻美丸の進路を避けなかったことによって発生したが、麻美丸が、後方の見張り不十分で、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 B受審人は、佐田岬北西方沖合において、たちうお曳縄漁業に従事中、投縄予定地点へ向けて潮のぼりをする場合、付近で操業中の他船を見落とすことがないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、GPSを監視して投縄予定地点を確かめることや魚群探知機を使用して魚群を探すことなどに気を取られ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、右舷前方の麻美丸の存在に気付かず、同船を追い越す態勢のまま、その進路を避けることなく進行して衝突を招き、自船の右舷中央部及び船橋に、麻美丸の球状船首左舷側及び左舷船首ブルワークにそれぞれ損傷を生じさせるとともに、同人が、約2週間の入院並びに約1箇月の通院加療を要する傷を負うに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は、佐田岬北西方沖合において、たちうお曳縄漁業に従事中、投縄予定地点へ向けて潮のぼりをする場合、自船を追い越す態勢で接近する他船を見落とすことがないよう、後方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前方の佐田岬灯台や高島などを注視して山だてを行うことに気を取られ、後方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、幸生丸が、後方から衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かず、衝突を避けるための協力動作をとることなく進行して衝突を招き、前示の損傷などを生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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