(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年7月31日21時10分
山口県油谷湾
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船海寿丸 |
漁船栄漁丸 |
総トン数 |
12トン |
2.92トン |
登録長 |
14.97メートル |
9.38メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
150 |
15 |
3 事実の経過
海寿丸は、敷網漁業に従事するFRP製漁船で、平成14年3月交付の一級小型船舶操縦士免状を有するA受審人ほか3人が乗り組み、操業の目的で、船首0.20メートル船尾2.30メートルの喫水をもって、平成15年7月31日19時30分山口県久原漁港を発し、油谷湾の漁場に向かった。
A受審人は、久原漁港を出て間もなく、操舵室左舷側に設置した魚群探索用ソナー及び魚群探知機により魚群の探索を始め、同漁港の西南西方約2,200メートルのところでいわしの魚影を探知したので、20時10分粟野港沖防波堤灯台(以下「沖防波堤灯台」という。)から010度(真方位、以下同じ。)2,500メートルの地点で錨泊し、水中集魚灯を点灯して集魚を始めたものの、思いのほかいわしの集まりが良くなかったので、同時20分同地点での集魚を止め、揚錨して魚群の探索を再開し、油谷湾北部を西行して湾口付近に向かった。
ところで、A受審人は、長年、油谷湾において敷網漁業などに従事していたので、夜間、湾内で操業する小型機船底びき網漁船の多くが、トロールにより漁ろうに従事していることを示す緑色、白色両全周灯(以下「トロール従事船の灯火」という。)のうち、緑色全周灯だけを表示して操業していることを知っていた。
A受審人は、操舵室右舷側でいすに腰を掛けて手動操舵に当たり、左舷前部に設置したレーダーを作動し、白色全周灯及び両舷灯を表示して蛇行しながら綿密に魚群の探索を行い、舟瀬の西南西方約800メートルの地点に差し掛かったとき、油谷湾口で多数のいか釣り漁船が操業していたので、左転して湾口付近を南下した後、魚群の探索を行いながら湾中央部を東行したが、魚影を探知することができなかったので、元の集魚地点に戻ることにした。
21時08分A受審人は、沖防波堤灯台から298度2,050メートルの地点において、針路を058度に定め、機関回転数毎分1,300の12.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、魚群の探索を続けながら元の集魚地点に向けて手動操舵により進行した。
定針したとき、A受審人は、正船首740メートルのところに栄漁丸の緑、緑2灯を視認でき、同船が移動しないことから、漂泊又は錨泊してトロールにより漁ろうに従事していることを認め得る状況で、その後、同船に向首して衝突のおそれのある態勢で接近したが、左舷側を向いてソナー及び魚群探知機を見ながら魚群を探索することに気を取られ、船首方の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、栄漁丸を避けることなく続航した。
こうして、A受審人は、魚群の探索を続けながら進行し、21時09分沖防波堤灯台から308度1,890メートルの地点に達したとき、前路で漂泊して漁ろうに従事中の栄漁丸に370メートルまで接近したが、依然として、同船に気付かず、これを避けないまま続航中、21時10分わずか前、船首方至近に栄漁丸の緑灯を視認したが、どうすることもできず、21時10分沖防波堤灯台から319度1,800メートルの地点において、海寿丸は、原針路、原速力のまま、その船首が、栄漁丸の右舷船首に後方から80度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力3の北東風が吹き、視界は良好で、潮候は上げ潮の中央期であった。
また、栄漁丸は、小型機船底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、平成14年3月交付の一級小型船舶操縦士免状を有するB受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.40メートル船尾0.90メートルの喫水をもって、同日18時30分山口県久津漁港を発し、油谷湾の漁場に向かった。
18時40分ごろB受審人は、江島の南西方約500メートルのところで操業準備に取り掛かり、網口にけたを取り付けた長さ約10メートルの網を入れ、直径17ミリメートルのまた綱及び直径18ミリメートルのひき綱を順次繰り出し、船尾から網の後端までの長さを約250メートルとして、操舵室上部のマストにトロール従事船の灯火のうちの緑色全周灯を、同室前部のマストに両色灯をそれぞれ表示し、2.0ノットの速力で、えびの漁獲を目的としてえい網を開始した。
B受審人は、操舵室後方に立って手動操舵に当たり、油谷湾北部を20メートル等深線に沿って西方にえい網し、舟瀬の東南東方約400メートルの地点に達したところで、反転してしばらく東方にえい網した後、右転して沖防波堤灯台に向け、湾中央部を南東方にえい網を続けた。
B受審人は、約2時間えい網した後、20時50分前示衝突地点において、周囲に操業漁船などがいないことを確認したうえで、機関を中立運転として漂泊し、各灯火を表示したまま、船首を南東方に向けて揚網作業に取り掛かった。
B受審人は、左舷中央部に設置した揚網用ローラを使用して左舷船尾からひき綱を巻き、ひき綱約200メートルの巻込みを終えた後、網を左舷側から揚収するため、2本のまた綱を左舷船首尾から交互に巻き始め、左舷側の甲板上を移動しながら巻込みを行っていたところ、21時08分船首が138度に向いていたとき、右舷船尾80度740メートルのところに海寿丸の白、緑、紅3灯を視認し得る状況となり、その後、自船に向首したまま衝突のおそれのある態勢で接近したが、揚網作業に気を取られ、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かなかった。
こうして、B受審人は、左舷船首部で左舷側を向いてまた綱の巻込みを行っていたところ、21時09分海寿丸が自船に向首したまま370メートルのところに接近したが、依然として、同船の接近に気付かず、避航を促すための有効な音響による注意喚起信号を行わないまま揚網作業を続行中、また綱の巻込みを終えて網口のけたを左舷船首に引き寄せ、同時10分わずか前、けた石の取り込みを終えたとき、機関音を聞いて右舷側を振り返り、海寿丸の船首部を視認したが、どうすることもできず、栄漁丸は、船首が138度を向いていたとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、海寿丸は、船首部及び左舷船尾部に擦過傷などを、栄漁丸は、右舷船首部に破口をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件衝突は、夜間、山口県油谷湾において、海寿丸が、見張り不十分で、漂泊して漁ろうに従事している栄漁丸を避けなかったことによって発生したが、栄漁丸が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、山口県油谷湾において、魚群の探索を行う場合、前路の他船を見落とすことのないよう、船首方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、左舷側を向いてソナー及び魚群探知機を見ながら魚群を探索することに気を取られ、船首方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で漂泊してトロールにより漁ろうに従事している栄漁丸に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、海寿丸の船首部及び左舷船尾部に擦過傷などを、栄漁丸の右舷船首部に破口をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、山口県油谷湾において、トロールにより漁ろうに従事中、漂泊して揚網作業を行う場合、接近する他船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、揚網作業に気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、自船に向けて接近する海寿丸に気付かず、避航を促すための有効な音響による注意喚起信号を行うことなく揚網作業を続けて衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。