(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年7月6日13時37分
瀬戸内海 大畠瀬戸東口屋代島北岸
2 船舶の要目
船種船名 |
油送船第十八日興丸 |
総トン数 |
498トン |
全長 |
56.52メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
3 事実の経過
第十八日興丸(以下「日興丸」という。)は、専らアセトアルデヒドの輸送に従事する船尾船橋型の油送船で、A受審人ほか3人が乗り組み、空倉のまま、船首1.4メートル船尾3.4メートルの喫水をもって、平成15年7月6日12時00分広島県大竹港を発し、大分県大分港に向かった。
A受審人は、大分港までの6時間半ほどの船橋当直を、自らと一等航海士とによる単独3時間の2直制とし、昼食をとったのち昇橋して同当直に就き、12時35分岩国港C灯浮標を右舷側に約400メートル離して航過したとき、ほぼ正船首方に見える大畠航路第5号灯浮標の西側に小型の反航船を認めたことから、同灯浮標の東側に向首して広島湾を大畠瀬戸に向けて南下した。
12時48分A受審人は、岩国港D灯浮標を右舷正横方1,450メートルに見て航過したころ、便意を催したものの、我慢しているうちに便意が薄らいだためそのまま南下を続けた。
ところで、A受審人は、胃腸があまり丈夫でなくこれまでも船橋当直中に便意を催すことがしばしばあり、船橋を離れてトイレに行くときは、船橋から機関室へブザーを1回鳴らせば機関当直者が昇橋することになっていたことから、同当直者を呼んで見張りを行わせるようにしていた。
やがてA受審人は、小型の反航船と航過し、13時15分大島大橋橋梁灯(C2灯)(以下「C2灯」という。)から036度(真方位、以下同じ。)4.3海里の地点で、針路を203度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、11.8ノットの対地速力で進行した。
13時17分少し過ぎA受審人は、大畠航路第5号灯浮標を右舷側に約100メートル離して航過し、左舷船首方に見える山口県屋代島の田ノ尻鼻に並航する辺りで大畠瀬戸の最狭部に向けて転針するつもりで続航するうち、同時20分半C2灯から040度3.2海里の地点に達したとき、一時薄らいでいた便意が次第に強くなりトイレへ行くため降橋することにしたが、機関室へブザーを1回鳴らしただけで、そのうちに当直中の機関長が昇橋するだろうと思い、同人の昇橋を待つことや休息中の乗組員を呼んで昇橋させることなく、船橋を無人としたまま降橋し、2段階下にあるトイレへ向かった。
そのころ機関室で作業中の機関長は、船橋から鳴らされたブザー音に気付かなかった。
A受審人は、いったん用便を済ませたのち船橋に戻る途中、再度便意を催してトイレへ戻り、更にしばらくの間船橋を無人とし、13時31分前示の予定転針地点に達したが、転針が行われないまま屋代島北岸に向首して進行した。
13時37分少し前A受審人は、2回目の用便を終えて昇橋したところ、目前に迫った屋代島北岸沿いの道路と護岸を視認して衝突の危険を感じ、直ちに機関を中立とし、次いで後進をかけたが効なく、13時37分C2灯から122度1,770メートルの地点において、日興丸は、原針路、ほぼ原速力のまま、屋代島北岸の大島町道平床岩磯線の護岸に衝突した。
当時、天候は曇で風力1の南東風が吹き、潮候は上げ潮の末期で、付近には微弱な北東流があった。
護岸衝突の結果、船首部に圧損、船首部船底外板に破口及び擦過傷を生じ、護岸擁壁ブロックを損傷したが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件護岸衝突は、大畠瀬戸に向け広島湾を南下中、船橋を無人とし、予定の転針が行われず、屋代島北岸に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、単独の船橋当直に就いて自動操舵で大畠瀬戸に向け広島湾を南下中、便意を催して船橋を離れる場合、他の乗組員を昇橋させて船橋が無人とならないようにするべき注意義務があった。しかし、同人は、機関室へブザーを鳴らしたからそのうちに当直中の機関長が昇橋するだろうと思い、船橋を無人とした職務上の過失により、予定の転針が行われず、屋代島北岸に向首進行して護岸衝突を招き、船首部に圧損、船首部船底外板に破口及び擦過傷を生じさせ、護岸擁壁ブロックを損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。