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平成15年神審第71号
件名

貨物船第五拾五宝来丸漁船正和丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年12月18日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(竹内伸二)

副理事官
蓮池 力

受審人
A 職名:第五拾五宝来丸機関長 海技免許:五級海技士(航海)
B 職名:正和丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
宝来丸・・・損傷ない
正和丸・・・左舷船尾ブルワーク等破損、漁網引揚げローラー等に損傷

原因
宝来丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
正和丸・・・見張り不十分、注意喚起信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は、第五拾五宝来丸が、見張り不十分で、錨泊中の正和丸を避けなかったことによって発生したが、正和丸が、見張り不十分で、注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年2月17日13時33分
 淡路島南西岸潮埼沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第五拾五宝来丸 漁船正和丸
総トン数 496トン 3.1トン
全長 65.50メートル 11.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット  
漁船法馬力数   60

3 事実の経過
 第五拾五宝来丸(以下「宝来丸」という。)は、前部甲板上に全旋回式ジブクレーンを装備した船尾船橋型の砂利石材運搬船で、船長K及びA受審人ほか3人が乗り組み、空倉で、船首0.8メートル船尾3.2メートルの喫水をもって、平成15年2月17日11時30分和歌山県和歌山下津港を発し、兵庫県家島港に向かった。
 ところで、宝来丸は、出航時、貨物倉のハッチを開けた状態でクレーン先端を船橋前の甲板上に下ろしていたものの、船尾トリムが大きく、操舵室中央から前方を見たとき、クレーンのガントリーフレームや機械室などのため、正船首方向の左右各4度ばかりの範囲に死角があって船首方向の見通しが困難であった。
 出航操船を終えたあとK船長は、A受審人が船橋当直に就く予定であったが、同人が昼食を終えて昇橋するまでの間、一等航海士に船橋当直を命じて降橋した。
 12時00分A受審人は、沖ノ島南方約3海里のところで昇橋し、一等航海士と交替して単独の船橋当直に就き、その後淡路島南岸と沼島との中間に向かう針路で自動操舵により紀伊水道を西行した。
 A受審人は、操舵室右舷寄りに置いてある椅子に腰掛け、レーダーを3海里レンジで使用していたものの視界が良いので専ら肉眼で見張りを行い、13時06分半沼島灯台から307度(真方位、以下同じ。)1.8海里の地点で、針路を258度に定め、自動操舵のまま、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で進行した。
 13時22分A受審人は、沼島灯台から278度3.9海里の地点で、潮埼南方沖合の予定転針地点まで約1海里となったとき、同地点付近に2そう引きで操業中の漁船群を認めたので椅子から下り、操舵室内を左右に移動して漁船群の動向に留意しながら続航した。
 やがてA受審人は、自動操舵から手動遠隔操舵に切り換えて前示漁船群を避け、13時26分半予定転針地点の少し手前にあたる、大磯埼灯台から095度4.7海里の地点に達したとき、転針方向の右舷船首49度1.1海里のところに、所定の形象物を表示していないものの、折からの南東方に流れる潮流と北北西風とを受けてほぼ風上に向いたまま移動しない状況から錨泊中と分かる正和丸を認めることができたが、付近の操業漁船の動きに気を奪われて同船に気付かないまま、針路を大鳴門橋西方に向首する307度に転じたところ、正和丸に向首する状況となり、その後衝突のおそれがある態勢で同船に接近した。
 転針後A受審人は、操舵室前部中央に立って前方を見ていたが、前路をいちべつしただけで船首方向に他船はいないものと思い、見張り位置を移動してクレーンのガントリーフレームなどによる死角を補う見張りを十分に行わなかったので、正和丸に気付かず、同船を避けることなく進行中、13時33分宝来丸は、大磯埼灯台から085度3.8海里の地点において、原針路、原速力のまま、その船首が、正和丸の左舷船尾に後方から40度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の北北西風が吹き、潮候は下げ潮の末期にあたり、弱い南東流があった。
 A受審人は、軽い衝撃を感じたあと正和丸が右舷側至近を通過するのを認めて同船と衝突したことを知り、直ちに減速するとともに旋回して同船付近に停船し、異常を感じて昇橋したK船長とともに事後の措置にあたった。
 また、正和丸は、主に一本釣り漁業に従事する、汽笛信号装置のないFRP製漁船で、B受審人と同人の父の2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.4メートル船尾0.9メートルの喫水をもって、同日06時ころ兵庫県福良港を発し、同港沖合の漁場に向かった。
 B受審人は、昭和51年7月に一級小型船舶操縦士の免許を取得し、長年鳴門海峡で操業に従事していたので同海峡通航船舶の航行経路を知っており、平成15年2月17日06時半ころから大鳴門橋南東方でキスの流し網漁を行ってキス約12キログラムを漁獲したあと、メバルの一本釣りをするため潮埼西方に移動し、11時30分平素見かける通航船舶の航行経路より少し陸岸寄りにあたる、潮埼から約1,200メートル沖合の水深約18メートルの前示衝突地点で、船首から重量約15キログラムの錨を投下して、直径約10ミリメートルの化学繊維製アンカーロープを約20尋延ばすとともに、右舷側にも同重量の錨を投下してアンカーロープを約15尋延ばして機関を止め、錨泊中の船舶が掲げる法定形象物を表示しないまま、甲板上に立てた長さ約5メートルの竿に、漁業協同組合で取り決めた赤旗を掲げ、錨泊してメバルの一本釣りを始めた。
 B受審人は、船首甲板左舷側に置いた椅子に船尾を向いて腰掛け、船体ほぼ中央にある機関室囲壁前の父が釣り上げたメバルの空気抜きや、まき餌のイカナゴを入れた容器を海中に投入する作業をしていた。
 13時26分半B受審人は、前示衝突地点で347度に向首して錨泊していたとき、右舷船尾40度1.1海里のところに、西行する宝来丸を視認することができ、その後同船が自船に向首し衝突のおそれがある態勢で接近したが、折から次々に釣り上げられたメバルの空気抜きやまき餌投入作業に気を奪われ、見張りを十分に行わず、宝来丸の接近に気付かなかった。
 その後B受審人は、宝来丸が自船を避ける様子がないまま、間近に近づいたが、依然見張り不十分で、同船に気付かず、備付けのホイッスルを鳴らして注意喚起信号を行うことも、アンカーロープを調節するなどして衝突を避けるための措置をとることもしないままメバル釣りの作業を続けていたとき、13時33分わずか前ふと船尾方を見て至近に迫った宝来丸を認め、衝突は避けられないと判断して父とともに右舷側に移動したとき、正和丸は、347度に向首したまま錨泊中、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、宝来丸には損傷がなく、正和丸は左舷船尾ブルワーク等が破損するとともに漁網引揚げローラー等に損傷を生じたが、のち修理された。 

(原因)
 本件衝突は、淡路島南西岸潮埼沖合において、宝来丸が、見張り不十分で、錨泊中の正和丸を避けなかったことによって発生したが、正和丸が、見張り不十分で、注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、淡路島南西岸潮埼沖合を西行中、前路の見張りにあたる場合、クレーンのガントリーフレームなどのため船首方向の見通しが困難であったから、前路で錨泊中の正和丸を見落とさないよう、見張り位置を移動するなどして船首方向の死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、操舵室中央から前路をいちべつしただけで船首方向に他船はいないものと思い、見張り位置を移動するなどして船首方向の死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、錨泊中の正和丸に気付かず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、同船の左舷船尾ブルワーク等を破損させるとともに漁網引揚げローラー等に損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、淡路島南西岸潮埼沖合において、錨泊してメバルの一本釣りに従事する場合、自船に向首して接近する宝来丸を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、折から次々に釣り上げられたメバルの空気抜きやまき餌投入作業に気を奪われ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、宝来丸の接近に気付かず、注意喚起信号を行うことも、アンカーロープを調節するなどして衝突を避けるための措置をとることもしないまま、メバル釣りの作業を続けて同船との衝突を招き、正和丸に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図
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