(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年2月25日06時37分
神戸港第3区
2 船舶の要目
船種船名 |
旅客船クィーンダイヤモンド |
押船第二こくど丸 |
総トン数 |
9,022トン |
153トン |
全長 |
150.87メートル |
28.02メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
17,652キロワット |
1,471キロワット |
3 事実の経過
(1)クィーンダイヤモンド
クィーンダイヤモンド(以下「ク号」という。)は、多層甲板型で船橋が船首部にある鋼製フェリーボートで、船首と船尾にそれぞれ1機のスラスターを備え、942人の旅客定員、乗用車50台貨物自動車105台の車両輸送能力を持ち、航海速力は23ノットで、神戸港と大分港、今治港及び松山港間を運航していた。同号の推進系は2機2軸の可変ピッチプロペラで、船尾中央に1舵を備え、旋回試験における縦距は約570メートル、横距は約300メートルであった。ク号の最短停止に係る試験では、24ノットで航走中に両舷翼角を後進20度として停止するまでの距離は約800メートル、所要時間は2分17秒であり、同試験記録の上では14ノットからの停止するまでの距離と所要時間はそれぞれ260メートル、1分29秒であった。
(2)第二こくど丸
第二こくど丸(以下「こくど丸」という。)は、専ら神戸空港島埋立工事に従事する船首船橋型の押船で、その推進系は2機2軸の固定ピッチプロペラで、舵はそれぞれのプロペラを覆うように設置されたコルトラダーが2基設置されており、海上試運転時の旋回径は50メートルであった。
(3)ク号に係る安全対策
ク号を所有・運航する株式会社Dは、運航管理規程、運航基準、乗組員職務分掌等を定めており、神戸港周辺海域及び港内航行に関しては、運航基準で特定航法と入出港配置を定め、船長が船舶を指揮すること、港内原速を12ノットとすることなどを明記していた。
また、同社運航管理者が、月に1回程度実施される訪船指導や年4回程度開催される研修会において、乗組員に対して関係法令及び運航管理規程の遵守などについて指導を行っていた。
(4)こくど丸に係る安全対策
こくど丸を管理するA企業体(以下「A」という。)は、ポートアイランド沖海上工事連絡協議会に属しており、同協議会は、こくど丸を含む工事作業船と一般船舶の安全確保を図るために、ポートアイランド沖海上工事工事作業船運航管理規程を定めていた。同規程では、各共同企業体の運航管理者は、工事作業船に各種安全対策を徹底させ、安全教育・訓練を実施すること、また作業船航行時の注意事項として、作業船運航ルートを策定し、大型船の情報を把握すること、大型船との横切り・見合い関係を発生させないこと、操舵員のほかに見張員を配置することなどを規定していた。
Aは、同運航管理規程に基づき、同A独自の運航管理規程を作成し、さらに安全対策の徹底を図るために、訪船指導と船舶安全会議を行っていた。
(5)本件発生に至る経緯
ク号は、A受審人ほか33人が乗り組み、車両12台と旅客7人を載せ、港則法に定める小型船及び雑種船以外の船舶(以下「大型船」という。)を示す国際信号旗数字旗1を掲げて、船首4.3メートル船尾4.7メートルの喫水をもって、平成15年2月25日06時29分、出船で着いていた神戸港六甲アイランドフェリーふ頭を離岸し、今治港に向かった。
A受審人は、船橋において、前面中央レピーターの傍に立ち、離岸直後に三等航海士と交代した二等航海士、操舵手及び見張員を指揮して港内操船に当たった。
06時31分A受審人は、六甲フェリーターミナル東端角をかわしたとき、左舷船首25度1.7海里ほどのところに港則法に定める総トン数500トン以下の小型船とわかる独航のこくど丸を初めて認め、その動静監視を開始したが、同船は港外に出港するものと判断して、徐々に増速しながら船首を港口に向けつつ進行した。
06時33分A受審人は、神戸港第7防波堤東灯台(以下「東灯台」という。)から355度(真方位、以下同じ。)1,770メートルの地点に至って針路を160度に定めたとき、左舷船首33度1.2海里にこくど丸が右舷を見せて西行するのを知ったが、可変ピッチプロペラの両舷翼角を25度とするよう設定し、そのとき13ノットであった速力(対地速力、以下同じ。)を更に増速しながら続航した。
06時34分A受審人は、東灯台から000.5度1,330メートルの地点にてク号の速力が15ノットになったとき、左舷船首33度1,520メートルにこくど丸が避航の様子を見せないまま航行するのを見て同船と著しく接近する危険を感じ、注意を喚起するつもりで汽笛で長音1回を吹鳴するとともに、両舷翼角を0度とした。
その後、06時35分少し前A受審人は、東灯台から008度990メートルの地点に進出したとき、依然として、こくど丸が避航の様子を見せなかったものの、船橋内での指示・報告のやりとりが聞こえなくなるものと思い、警告信号を行わず、いずれ同船が自船を避けるものと考え、直ちに両舷翼角を後進20度として行き足を止めるなど衝突を避けるための協力動作をちゅうちょしたまま惰力で進行した。
06時35分半A受審人は、東灯台から027度630メートルの地点に達して速力が14ノットとなったとき、こくど丸が自船の長い船体のいずれかの部分に衝突するおそれを感じ、右舷前方に第7防波堤及び六甲アイランド東縁が近かったので、右舵をとらなかったものの、両舷翼角を後進20度とした。
06時37分わずか前右舷船首至近でこくど丸が激左転しながら減速したあと、06時37分東灯台から049度510メートルの地点において、原針路のまま速力が2ノットとなったク号の船首部が、同じく速力が2ノットとなったこくど丸の船尾部に平行に衝突した。
当時、天候は曇で風力2の東風が吹き、潮候は上げ潮の末期で、日出は06時34分であった。
また、こくど丸は、B受審人ほか5人が乗り組み、船首2.6メートル船尾3.3メートルの喫水をもって、同日06時25分尼崎西宮芦屋港第2区にて連結して錨泊していたバージから離れ、神戸空港島埋立工事現場に待機している別のバージと連結して作業にあたるため、独航にて同現場に向かった。
B受審人は、他の乗組員に朝食をとらせるため、操舵室にて単独で手動操舵に当たって徐々に増速しながら進行した。
06時31分B受審人は、東灯台から077度1.2海里の地点にて、針路を267度に定め、機関を全速力前進にかけ、10ノットの速力としたとき、六甲フェリーターミナル東端角の東方沖をク号が低速で右転しながら港外に向かいつつあるのを初めて認め、同船の数字旗1を認めなかったものの、その船型から大型船であることを知ったが、自船がク号の前路を無難に航過できると考えて続航した。
ところで、B受審人は、自船が神戸港内では小型船であるという認識を持ち、大型船の進路を避けなければならないことを知っていた。
06時34分B受審人は、東灯台から073度1,280メートルの地点に達したとき、右舷船首41度1,520メートルのところに増速中のク号が自船の進路と交差する態勢で進行しており、その後、衝突のおそれのある態勢で接近することを認め得る状況であったが、ク号の注意喚起信号を聞き漏らしたうえ、左舷方の西宮防波堤外側を同防波堤沿いに入港してくる小型船の動静に気をとられ、ク号の動静監視を十分に行わないまま進行した。
06時35分半B受審人は、東灯台から065度830メートルの地点に至り、針路を自船の前路に向けたままのク号の船首が右舷船首28度500メートルとなったとき、なおも動静監視を十分に行っていなかったので、依然として衝突のおそれのある態勢で接近することに気付かず、同号の進路を避けないで続航した。
06時37分わずか前B受審人は、ふと右舷前方を見たとき、船首の右舷至近に迫ったク号の左舷船首を認めたので、両舷のコルトラダーを同時に左舵一杯とするとともに一時左舷機を停止するなどしたが、効なく、06時37分船首が160度に向いて速力が2ノットとなったとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、ク号は船首部に擦過傷を、こくど丸は左舷コルトラダーと船尾甲板上のトーイングビームに凹損をそれぞれ生じたが、いずれものち修理された。
(原因)
本件衝突は、神戸港第3区において、小型船であるこくど丸が、神戸空港島埋立工事現場向け西行中、動静監視不十分で、南下中の大型船であるク号の進路を避けなかったことによって発生したが、ク号が警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作が遅れたことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、神戸港第3区において、大型船であるク号と進路が交差することを認めた場合、同船との衝突のおそれの有無を確認できるよう、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、左舷方の西宮防波堤外側を同防波堤沿いに入港してくる小型船の動静に気をとられ、ク号に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、ク号と衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、早期に転舵をしたり減速をしたりするなどク号の進路を避けないまま進行し、同船との衝突を招き、こくど丸の左舷コルトラダーなどに凹損を、ク号の船首部に擦過傷を、それぞれ生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、神戸港第3区において、小型船であるこくど丸に対して注意喚起信号を行ったのちに、同船が大型船である自船の進路を避けずに接近するのを認めた場合、こくど丸に対して警告信号を行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、船橋内での指示・報告のやりとりが聞こえなくなるものと思い、警告信号を行わなかった職務上の過失により、こくど丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。