(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年12月28日02時50分
宮城県大須埼東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第六十八丸中丸 |
漁船第一明神丸 |
総トン数 |
66トン |
32トン |
全長 |
32.36メートル |
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登録長 |
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20.50メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
617キロワット |
346キロワット |
3 事実の経過
第六十八丸中丸(以下「丸中丸」という。)は、沖合底引き網漁業に従事する鋼製漁船で、A受審人ほか6人が乗り組み、操業の目的で、船首1.2メートル船尾4.2メートルの喫水をもって、平成14年12月26日20時00分宮城県女川港を発し、21時00分ごろ同県出島東方6海里沖合の漁場に至り、その後沖合に向けて操業を繰り返し、いか及びひげだらなど13トンを獲たところで操業を止め、翌27日22時20分北緯38度46分東経142度36分の地点を発進し、同港に向けて帰途に就いた。
翌々28日01時00分A受審人は、漁獲物を整理したのち、夕食を摂ってから昇橋し、漁ろう長から船橋当直を引き継ぎ、同人が船橋左舷側後部にある海図台の下に設けられたベッドに入るのを確認し、左舷側後方の窓をすこし開け、航行中の動力船が表示する灯火と後部甲板上に多数の作業灯を点灯して西行し始め、同時55分大須埼灯台から086度(真方位、以下同じ)14.2海里の地点で、針路を255度に定め、機関を回転数毎分780の全速力前進にかけ、10.7ノットの対地速力(以下「速力」という。)で自動操舵として進行した。
02時15分少し前A受審人は、大須埼灯台から091度10.7海里の地点に達したとき、レーダーで右舷船首18度6海里のところに第一明神丸(以下「明神丸」という。)を含む4隻の漁船の各映像を認め、それらの船舶をアルパで表示したところ、各船とも低速力で南下していることを確認し、同時34分少し前明神丸が右舷船首23度3海里に接近し、マスト灯と多数の作業灯を点灯しているのを初認して操業中の漁船と判断し、同時35分同灯台から096度7.3海里の地点に達したとき、明神丸の最接近距離が0.3海里とアルパに表示されたので、同船の船尾方向を替わすこととして265度に転じたところ、同船の方位が右舷船首13度2.7海里となり、しばらくしてその方位に変化のない態勢となって航行し始めたことに気付かないまま続航した。
02時37分ころA受審人は、漁獲物の整理に引き続き船橋当直に就いたうえ、前日昼間に底引き網を修理したことで休息がとれず、やや疲れを感じたので操舵室右舷側後部の折りたたみ式いすに腰掛けたところ、同室内が暖かくなっていたことも重なり、眠気を催してうとうとするようになったが、女川港が近いのでそれまで何とか頑張ろうと思い、休息中の甲板員を昇橋させて2人当直とするなど居眠り運航の防止措置をとることなく、同いすに腰掛けたまま同当直を続けるうち、いつしか居眠りに陥った。
02時44分半A受審人は、大須埼灯台から099度5.7海里の地点に達したとき、右舷船首13度1海里に明神丸の航海灯、緑、白2灯の全周灯及び作業灯12個を視認することができ、依然同船の方位が変わらず衝突のおそれがある態勢で接近していたが、居眠りしていたのでこのことに気付き得ず、その進路を避けることができないまま進行した。
こうして、A受審人は、居眠りを続けて続航中、02時50分大須埼灯台から102度4.7海里の地点において、丸中丸は、原針路、原速力のまま、その船首が明神丸の左舷側中央部に後方から85度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の西風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、付近海域には微弱な南流があった。
A受審人は、衝突の衝撃で目覚め、事後の措置にあたった。
また、明神丸は、底引き網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人及びC指定海難関係人ほか4人が乗り組み、操業の目的で、船首0.8メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、同月27日04時00分女川港を発し、金華山灯台の東方14海里付近の漁場に至って操業を始め、その後漁場を移動しながら操業を続け、いか及びかれいなど4.3トンを獲たところで漁場を変え、23時25分寺浜灯台から090度5.5海里の地点に至り、マスト灯、両舷灯、船尾灯及びトロールにより漁ろうに従事していることを示す緑、白全周灯等を表示したほか、作業灯12個を点灯し、5回目の操業を開始した。
B受審人は、水深130メートルのところを引くこととして投網し、続いて引綱を400メートル延出し、23時40分漁網が海底に達したので、針路を130メートル等深線に沿う180度に定めて自動操舵とし、機関回転数を調整し、折からの潮流に乗じて2.5ノットの対地速力でえい網を始めた。
翌28日01時00分B受審人は、大須埼灯台から052度5.9海里の地点に達したとき、C指定海難関係人が漁獲物の整理を終えて昇橋してきたので、同人に船橋当直を行わせることにしたが、同人が真面目で仕事を良く行うので同当直を任せても大丈夫と思い、周囲の見張りを十分に行い接近する他船があれば報告するよう指示することなく、04時に起こすこと、女川港への入港船に注意するよう指示し、操舵室後方の自室の寝台に入って休息した。
C指定海難関係人は、魚群探知器を監視しながら当直にあたり、水深130メートルのところをえい網するように言われていたので、水深が変わると自動操舵のまま適宜針路を調整しながらえい網を続け、02時44分半大須埼灯台から099度4.7海里の地点に達したとき、左舷船首82度1海里に丸中丸の白、緑2灯及び作業灯等を視認でき、その後その方位がほとんど変わらず、同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かずに続航した。
B受審人は、C指定海難関係人から報告を得られなかったので、警告信号を行うことも、更に間近になっても機関を停止して行きあしを止めるなど衝突を避けるための協力動作をとることもできず、明神丸は、原針路、原速力のまま進行中、前示のとおり衝突した。
B受審人は、衝突の衝撃で目覚め、自室の後方から甲板上に出たところ、明神丸が右舷側に大傾斜して上甲板が水没しかけていたので、無線電話を使用して丸中丸に連絡し、同船が接舷したので他の乗組員とともに移乗した。
衝突の結果、丸中丸は右舷船首外板に亀裂を伴う凹損及びバルバスバウに凹損を生じたが、のち修理され、明神丸は左舷中央部機関室横の水線下外板に破口を生じて浸水し、衝突地点付近に沈没して全損となり、乗組員全員は丸中丸に救助された。
(原因)
本件衝突は、宮城県大須埼東方沖合において、丸中丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、トロールにより漁ろうに従事している明神丸の進路を避けなかったことによって発生したが、明神丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
明神丸の運航が適切でなかったのは、船長が、無資格者に船橋当直を行わせるにあたって、周囲の見張りを十分に行い接近する他船があれば報告するよう指示しなかったことと、船橋当直者が、周囲の見張りを十分に行わなかったこととによるものである。
(受審人等の所為)
A受審人は、宮城県大須埼東方沖合において、単独で操船に当たり、女川港に向けて帰航中、眠気を催した場合、漁獲物の整理に引き続き船橋当直に就いたうえ、前日昼間に底引き網を修理したことで休息がとれず疲れを感じていたのであるから、居眠り運航とならないよう、休息中の甲板員を昇橋させて2人当直とするなど居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに同受審人は、女川港が近いのでそれまで何とか頑張ろうと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、間もなく居眠りに陥り、トロールにより漁ろうに従事中の明神丸が衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、その進路を避けないまま進行して同船との衝突を招き、丸中丸の右舷船首外板に亀裂を伴う凹損及びバルバスバウに凹損を生じさせ、明神丸の左舷中央部機関室横の水線下外板に破口を生じさせて浸水・沈没させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
B受審人は、宮城県大須埼東方沖合において、極低速力で南下しながらトロールによる漁ろうに従事中、C指定海難関係人に船橋当直を行わせる場合、周囲の見張りを十分に行い接近する他船があれば報告するよう指示すべき注意義務があった。しかるに同受審人は、同指定海難関係人が真面目で仕事を良く行うので同当直を任せても大丈夫と思い、周囲の見張りを十分に行い接近する他船があれば報告するよう指示しなかった職務上の過失により、接近する丸中丸の報告が得られず、同船との衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C指定海難関係人は、宮城県大須埼東方沖合において、トロールによる漁ろうに従事中、単独で船橋当直に就く際、周囲の見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
C指定海難関係人の所為に対しては、本件後、船橋当直中、周囲の見張りを十分に行い、避航の気配がないまま接近する他船があれば船長に報告している点に徴し、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。