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平成15年仙審第26号
件名

自動車運搬船ほうや丸漁船観音丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年12月5日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(勝又三郎、吉澤和彦、内山欽郎)

理事官
阿部房雄

受審人
A 職名:ほうや丸船長 海技免許:一級海技士(航海)
B 職名:ほうや丸二等航海士 海技免許:四級海技士(航海)
C 職名:観音丸船長 海技免許:六級海技士(航海)
指定海難関係人
D 職名:観音丸甲板員

損害
ほうや丸・・・左舷船尾部の甲板及び外板に凹損を伴う擦過傷
観音丸・・・船首部を圧壊

原因
ほうや丸・・・狭視界時の航法(信号、速力、見張り)不遵守
観音丸・・・狭視界時の航法(信号、速力、見張り)不遵

主文

 本件衝突は、ほうや丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、観音丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Cを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年4月13日02時51分
 福島県塩屋埼南東方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 自動車運搬船ほうや丸 漁船観音丸
総トン数 3,623トン 48トン
全長 114.813メートル 29.05メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 3,912キロワット 514キロワット

3 事実の経過
 ほうや丸は、船首船橋型の自動車運搬船で、A及びB両受審人ほか9人が乗り組み、車両652台を積載し、船首4.03メートル船尾5.65メートルの喫水をもって、平成15年4月12日14時30分京浜港川崎区を発し、宮城県仙台塩釜港に向かった。
 ところで、A受審人は、船橋当直を、00時から04時までと12時から16時までを二等航海士と甲板手1人、04時から08時までと16時から20時までを一等航海士と甲板手1人及び08時から12時までと20時から24時までを自らと甲板長及び甲板手1人で、状況により2人に任せてそれぞれ行う3直制とし、平素、打合せの際や機会ある毎に船橋当直者に対して、視程が2海里の視界制限状態になったときには速やかに報告すること、霧中信号を行うこと及び安全な速力で航行すること等を指示し、夜間は、命令簿に同旨のことを記載したうえ、同当直の各航海士及び各甲板手に署名させてその徹底を図っていた。
 A受審人は、出航操船に引き続き東京湾を南下したのち、船橋当直を一等航海士に引き継ぎ、20時00分昇橋して船橋当直に就き、航行中の動力船の灯火を表示し、21時00分同当直を甲板長と交替し、その際、視界が2海里に制限されたら報告すること、また、次直者に申し次ぐよう口頭で伝えたうえ、夜間命令簿に同旨の内容を記載して降橋し、自室で休息した。
 23時55分B受審人は、昇橋して夜間命令簿を読み、視程が2海里の視界制限状態になったらA受審人に報告すること等を記載されているのを確認して署名し、甲板長から船位、針路、速力、周囲の状況及び視界制限状態の際の船長報告等を引き継ぎ船橋当直を交替した。
 翌13日02時00分B受審人は、大津岬灯台から120度(真方位、以下同じ。)16.9海里の地点で、針路を006度に定め、機関の翼角を24.5度として全速力前進にかけ、16.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で自動操舵によって進行し、このころから霧のため視界が船首及び右舷各方が1.5海里に、左舷方が500メートルに狭められ、視界制限状態となったことを知ったが、断続的に視界が回復したりしていたことと、行き会い船が少なかったので自分で操船できるものと思い、A受審人にその旨を報告することも、霧中信号を行うことも更に安全な速力に減じて航行することもせず、全速力のまま続航した。
 自室で休息していたA受審人は、視界制限状態となった旨の報告を受けられなかったので、自ら操船指揮をとることができなかった。
 02時30分少し前B受審人は、塩屋埼灯台から147度12.3海里の地点に達したとき、船位が右偏していたので針路を000度に転じ、3海里レンジのレーダーを監視しながら進行し、同時46分半同灯台から131度8.9海里の地点に達したとき、レーダーで左舷船首37度1.5海里に東行する観音丸の映像を探知し、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況であることを知ったが、同船を視認してから避航しても大丈夫と思い、双眼鏡で同船を見つけることに気を取られ、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを停止することもなく、甲板手を手動操舵に就けて続航した。
 02時50分B受審人は、左舷船首37度500メートルに接近した観音丸の緑灯及び作業灯等を初認し、同時51分少し前短音を数回鳴らしながら右舵20度を令して回頭中、02時51分塩屋埼灯台から125度8.1海里の地点において、ほうや丸は、船首が020度を向いたとき、ほぼ原速力のまま、その左舷船尾部に、観音丸の船首が、後方から70度の角度で衝突した。
 当時、天候は霧で風力2の北北東風が吹き、視程は500メートルで、福島県浜通り地方には濃霧注意報が発令されていた。
 また、観音丸は、沖合底引網漁業に従事する軽合金製漁船で、C受審人及びD指定海難関係人ほか3人が乗り組み、操業の目的で、船首1.2メートル船尾2.5メートルの喫水をもって、同日01時50分福島県小名浜港を発し、同港東方約12海里沖合の漁場に向かった。
 C受審人は、出航に先立ちもや模様だったので視界が不良になることを予測し、航行中の動力船の灯火を表示したほか作業灯等を点灯し、出航操船に引き続き船橋当直に就き、02時00分ごろD指定海難関係人が出航の後片付けを終えて昇橋してきたのを確認し、同時03分番所灯台から189度1.1海里の地点で、針路を沖合に向く090度に定め、機関を回転数毎分350翼角15度の全速力前進にかけ、12.0ノットの速力で自動操舵として進行した。
 02時20分C受審人は、船橋当直をD指定海難関係人に引き継いだが、その際、観音丸に長期間乗船して船橋当直に慣れているので大丈夫と思い、霧により視界が狭められたときは報告するよう指示することなく、自室に入って休息した。
 D指定海難関係人は、交替後間もなく、レーダーで右舷船首10度4海里に船舶の映像を探知したのでしばらく監視していたところ、同航船だったので同監視を止め、その後いすに座って船橋当直に就き、レーダーによる見張りを行わずに続航していたところ、02時35分ごろ霧のため視程が500メートルと著しく狭められたが、趣味の鳩レースのことに気を奪われていてこのことに気付かず、C受審人から何の指示もなかったこともあって、視界制限状態になったことを同受審人に報告せず、同一針路、速力で進行した。
 C受審人は、D指定海難関係人から視界制限状態になっていることの報告を受けられなかったので、昇橋して操船指揮を執ることができず、霧中信号を行うことも、安全な速力に減じて航行することもできずに進行していたところ、02時46分半塩屋埼灯台から129度7.4海里の地点に達したとき、ほうや丸が右舷船首53度1.5海里となっていたものの、このことを知らないまま、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況であったが、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めることができずに続航した。
 一方、D指定海難関係人は、依然鳩レースのことに気を奪われてレーダー監視を行わず、霧で視界が著しく狭められていることをC受審人に報告しないまま進行中、観音丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 C受審人は、衝撃で衝突したことを知り、操舵室に行き、事後の措置にあたった。
 衝突の結果、ほうや丸は、左舷船尾部の甲板及び外板に凹損を伴う擦過傷を生じ、観音丸は、船首部を圧壊したが、のち修理された。 

(原因)
 本件衝突は、夜間、霧のため視界制限状態となった塩屋埼南東方沖合において、北上するほうや丸が、視界制限状態になった報告がなされなかったうえ、霧中信号を行うことも、安全な速力に減じて航行することもせず、レーダーにより左舷方に探知した観音丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったことと、東行する観音丸が、霧中信号を行うことも、安全な速力に減じて航行することもせず、レーダーによる見張り不十分で、ほうや丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったこととによって発生したものである。
 観音丸の運航が適切でなかったのは、船長が、無資格の船橋当直者に対し、視界制限状態となったときの報告について指示しなかったことと、無資格の船橋当直者が、視界制限状態になったことを船長に報告しなかったばかりか、レーダーによる見張りを十分に行わなかったこととによるものである。
 
(受審人等の所為)
 B受審人は、夜間、霧のため視界制限状態となった塩屋埼南東方沖合を北上中、レーダーにより探知した観音丸と著しく接近することを避けることができない状況であることを知った場合、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、必要に応じて行きあしを止めるべき注意義務があった。しかるに同人は、同船を視認してから避航しても大丈夫と思い、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかった職務上の過失により、全速力のまま進行して観音丸との衝突を招き、ほうや丸の左舷船尾部甲板及び外板に凹損を伴う擦過傷を生じさせ、観音丸の船首部を圧壊させるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C受審人は、夜間、漁場に向け東行する場合、船橋当直者が無資格であったから、霧により視界が制限される状態になったときは報告するよう指示すべき注意義務があった。しかるに同人は、船橋当直者が観音丸に長期間乗船して船橋当直に慣れているので大丈夫と思い、視界制限状態となったときは報告するよう指示しなかった職務上の過失により、全速力のまま進行して、ほうや丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 D指定海難関係人が、単独で船橋当直に就き、塩屋埼南東方沖合を東行中、霧で視界が制限された状態となった際、速やかにその旨を船長に報告しなかったことは、本件発生の原因となる。
 D指定海難関係人に対しては、本件後、深く反省したうえ、退職して乗船を取りやめた点に徴し、勧告しない
 A受審人の所為は本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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