日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2003年度(平成15年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成15年仙審第25号
件名

油送船佐平丸貨物船大東丸衝突事件
二審請求者〔理事官 熊谷孝徳〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年12月2日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(吉澤和彦、勝又三郎、内山欽郎)

理事官
熊谷孝徳

受審人
A 職名:佐平丸船長 海技免許:三級海技士(航海)
C 職名:大東丸船長 海技免許:五級海技士(航海)
指定海難関係人
B 職名:佐平丸甲板長

損害
佐平丸・・・球状船首部に亀裂を伴う凹損及び船首ブルワークを圧壊
大東丸・・・右舷側後部外板水線付近に破口を伴う凹損を生じ、船倉に浸水して傾斜

原因
佐平丸・・・狭視界時の航法(信号、速力、見張り)不遵守
大東丸・・・狭視界時の航法(信号、速力、見張り)不遵守

主文

 本件衝突は、佐平丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、大東丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
 受審人Cを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年5月24日03時43分
 岩手県久慈港東方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 油送船佐平丸 貨物船大東丸
総トン数 749トン 497トン
全長 74.08メートル 74.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,471キロワット 735キロワット

3 事実の経過
 佐平丸は、主に重油輸送に従事する船尾船橋型鋼製油送船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか4人が乗り組み、A重油2,000キロリットルを積載し、船首3.75メートル船尾5.25メートルの喫水をもって、平成14年5月23日14時18分宮城県仙台塩釜港仙台区を発し、青森県八戸港に向かった。
 ところで、A受審人は、船橋当直を、00時から04時までと12時から16時までをB指定海難関係人、04時から08時までと16時から20時までを一等航海士及び08時から12時までと20時から24時までを自らが行う単独3直制とし、平素から船橋当直者に対して、港域外においては、当直中に視程が2海里以下になったときには速やかに報告すること、霧中信号を行うこと及び減速することなどをミーティングの折りに周知させるとともに、航海の都度、命令簿にも当直中の注意事項のひとつとしてその旨を記載するなどして指導を行っていた。
 翌24日00時05分A受審人は、ケ埼(とどがさき)灯台から047度(真方位、以下同じ。)3.1海里の地点に至ったとき、針路を347度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、所定の灯火を表示して自動操舵により進行した。
 定針後まもなくA受審人は、B指定海難関係人に当直を引き継ぎ、命令簿の当直中の注意事項に留意するよう告げて降橋し、自室に退いて休息した。
 B指定海難関係人は、甲種甲板部航海当直部員の認定を受けており、16キロメートルレンジとしたレーダーを監視しながら当直に当たっていたところ、02時ころ岩手県小本漁港東方沖合に至ったとき、視程が約0.5海里の視界制限状態となったが、レーダー画面に他船の映像を認めなかったことから、このまま単独で操船を続けても大丈夫と思い、A受審人に報告することなく、霧中信号を行うことも、安全な速力に減じることもなく続航した。
 03時ころB指定海難関係人は、岩手県黒埼の東方沖合に至ったとき、視界がいったん回復し、まもなく再び視界制限状態となったが、依然レーダーに他船の映像を認めなかったのでそのまま操船を続けた。
 03時19分B指定海難関係人は、久慈牛島灯台から143度9.4海里の地点に至ったとき、左舷船首8度8.0海里のところに大東丸の映像を探知し、その後手動操舵としてレーダーのレンジを8キロメートルに切り替え、同船の映像にカーソルを当てて動静を監視していたところ、同映像がカーソル線上からあまり離れずに接近してくるのを認めたので、03時30分久慈牛島灯台から137度7.7海里の地点に至って同船との船間距離が約4海里となったとき、航過距離を広げるつもりで、23度右転し、針路を010度とした。
 B指定海難関係人は、転針した直後いったん左方に大きく移動した大東丸の映像にカーソルを当てて監視を続けたところ、同映像がカーソル線上からほとんど離れずに接近してくる状況であることを認め、03時37分久慈牛島灯台から128度7.0海里の地点に至ったとき、相手船が左舷船首35度船間距離1.5海里となり、その後も方位がほとんど変わらず、同船と著しく接近することが避けられない状況となっていたが、そのうち相手船が避けるものと思い、A受審人に報告して操船の指揮を仰がなかった。
 佐平丸は、船長の操船指揮が得られなかったので、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを停止する措置もとられないまま進行した。
 03時43分少し前B指定海難関係人は、レーダーから目を離し、前路を注視していたところ、左舷前方至近に大東丸の緑灯を認め、急いで右舵をとり、続いて機関を後進に操作したが及ばず、03時43分久慈牛島灯台から120度6.6海里の地点において、040度を向いた佐平丸の船首が、ほぼ原速力のまま、大東丸の右舷後部に後方から70度の角度で衝突した。
 当時、天候は霧で風力2の西風が吹き、潮候は下げ潮の初期で、視程は300メートルであった。
 A受審人は、機関音の変化と衝突の衝撃で目覚め、急ぎ昇橋して事後の措置にあたった。
 また、大東丸は、本邦各港間において水酸化アルミニウム等の輸送に従事する船尾船橋型鋼製貨物船で、C受審人ほか4人が乗り組み、空倉のまま、船首2.1メートル船尾3.8メートルの喫水をもって、同月23日15時15分北海道苫小牧港を発し、福島県小名浜港に向かった。
 大東丸では、船橋当直を一等航海士、C受審人及び次席一等航海士による4時間3直の輪番制としており、翌24日00時45分当直の一等航海士は、鮫角灯台から016度11.5海里の地点で、針路を160度に定め、機関を全速力前進にかけ、12.5ノットの速力で、所定の灯火を表示して自動操舵により進行した。
 03時20分C受審人は、久慈牛島灯台から094度3.0海里の地点で昇橋し、一等航海士と当直を交代したとき前方に反航船が存在する旨の引き継ぎを受け、同時25分同灯台から109度3.5海里の地点で、6海里レンジとしたレーダー画面でほぼ正船首5.7海里のところに佐平丸の映像を確認し、相手船との航過距離を広げるため転針することとしたが、右方は陸岸が近いことから左転することに決め、自動操舵の針路設定ダイヤルにより10度左転して150度の針路とし、このころ既に視界制限状態となっていたが、霧中信号を行うことも、安全な速力に減じることもしないまま続航した。
 C受審人は、その後ほぼ4分間隔で10度づつの左転を繰り返したが、相手船のレーダー映像が自船に向けて接近する状況はあまり変わらず、03時37分久慈牛島灯台から121度5.7海里の地点に至ったとき、同映像が右舷船首44度船間距離1.5海里となり、その後も方位がほとんど変わらず、同船と著しく接近することが避けられない状況となっていたが、就寝中の乗組員に気兼ねして機関の使用を躊躇し、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを停止することなく進行した。
 03時41分C受審人は、5回目の左転を行い、続いて機関をようやく半速力に減じたのち、レーダーから目を離して前路を注視していたところ、右舷前方至近に佐平丸の船体を認めたが、どうすることもできず、110度の針路、約10ノットの速力で前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、佐平丸は球状船首部に亀裂を伴う凹損を生じたほか船首ブルワークを圧壊し、大東丸は右舷側後部外板水線付近に破口を伴う凹損を生じ、船倉に浸水して傾斜したが、排水措置により沈没を免れて久慈港に入港し、のち両船とも修理された。 

(原因)
 本件衝突は、霧で視界が制限された岩手県久慈港沖合において、北上する佐平丸が、視界不良となった際、船橋当直者の報告がなされなかったうえ、霧中信号を行うことも、安全な速力に減じることもせず、レーダーにより前方に探知した大東丸と著しく接近することを避けることができない状況となったとき、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったことと、南下する大東丸が、霧中信号を行うことも、安全な速力に減じることもせず、レーダーにより前方に探知した佐平丸と著しく接近することを避けることができない状況となったとき、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったこととによって発生したものである。
 
(受審人等の所為)
 C受審人は、霧で視界が制限された岩手県久慈港沖合を南下中、レーダーにより前方に探知した佐平丸と著しく接近することを避けることができない状況となったことを認めた場合、針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、必要に応じて行きあしを止めるべき注意義務があった。しかるに同人は、乗組員に気兼ねして機関を使用することに躊躇し、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかった職務上の過失により、そのまま進行して佐平丸との衝突を招き、大東丸の右舷側後部外板に破口を伴う凹損を生じさせ、佐平丸の球状船首部に亀裂を伴う凹損を生じさせたほか船首ブルワークを圧壊させるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、単独で船橋当直に就き、岩手県沖合を北上中、霧で視界が制限された状態となった際、速やかにその旨を船長に報告しなかったことは本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、本件後、当直中に視界制限状態となったときには速やかに船長に報告するよう努めている点に徴し、勧告しない。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:20KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION