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平成15年函審第49号
件名

漁船第十八美香丸漁船博栄丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年12月10日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(野村昌志、岸 良彬、黒岩 貢)

理事官
千手末年

受審人
A 職名:第十八美香丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:博栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
美香丸・・・船首部外板に擦過傷
博栄丸・・・左舷中央部外板に破口、のち廃船、船長が左下腿開放骨折、のち同下腿切断の負傷

原因
美香丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
博栄丸・・・音響による注意喚起信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第十八美香丸が、見張り不十分で、停留中の博栄丸を避けなかったことによって発生したが、博栄丸が、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年5月18日04時30分
 北海道宇登呂漁港北方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第十八美香丸 漁船博栄丸
総トン数 4.89トン 1.32トン
登録長 9.98メートル 5.79メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
漁船法馬力数 110 30

3 事実の経過
 第十八美香丸(以下「美香丸」という。)は、刺網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人(昭和50年4月一級小型船舶操縦士免許取得)が単独で乗り組み、ほっけ底刺網漁の目的で、船首0.4メートル船尾2.6メートルの喫水をもって、平成14年5月18日03時40分北海道宇登呂漁港を発し、同時55分同港西方3海里ばかりの漁場に至って投網を開始した。
 ところで、美香丸は、7ノット以上の速力(対地速力、以下同じ。)で航走すると船首が浮上し、操舵位置に立つと、正船首の左右それぞれ約5度にわたり死角となるので、平素、A受審人は船首を左右に振るなどして死角を補う見張りを行っていた。
 A受審人は、04時10分宇登呂港北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から257度(真方位、以下同じ。)3.2海里の地点で投網を終え、後日揚網することとして帰途に就いた。
 04時24分少し前A受審人は、北防波堤灯台から301度1,700メートルの地点に達したとき、針路を100度に定めて自動操舵とし、12.5ノットの速力で進行した。
 04時25分A受審人は、北防波堤灯台から308.5度1,260メートルの地点において、針路を宇登呂漁港の入口に向く128度に転じ、7.0ノットの速力に減じて船首方に死角が生じた状態で操舵位置に立ち、自動操舵のまま続航した。
 針路を転じたときA受審人は、正船首1,080メートルのところに、船首を北方に向けて停留中の博栄丸を認めることができ、その後同船に衝突のおそれがある態勢で接近したが、前路に危険となる他船はいないものと思い、船首を左右に振るなどして船首方の死角を補う見張りを十分に行わなかったので、博栄丸に気付かず、同船を避けることなく進行中、04時30分北防波堤灯台から313度180メートルの地点において、美香丸は、原針路、原速力のままその船首部が博栄丸の左舷中央部に前方から52度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の東風が吹き、潮候は上げ潮の末期にあたり、視界は良好で、日出時刻は03時51分であった。
 また、博栄丸は、刺網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人(昭和50年4月一級小型船舶操縦士免許取得)が単独で乗り組み、かれい底刺網漁の目的で、船首0.15メートル船尾0.20メートルの喫水をもって、同日04時10分宇登呂漁港を発し、同港沖の漁場に向かった。
 ところで、博栄丸の刺網漁は、長さ150メートルの網を用い、投網は約3分で済むが、揚網は1時間半ほどかけてほぼ停留状態で行うものであった。
 04時13分B受審人は、衝突地点付近の漁場に至り、船外機を停止してチルトアップとし、漁ろうに従事していることを示す形象物を掲げないまま、停留状態で前日に設置していた刺網の揚網を開始した。
 04時24分少し前B受審人は、船首が000度を向いていたとき、左舷船首60度1,500メートルのところを東航する美香丸を初認し、同船の様子を見ていたところ、同時25分左舷船首52度1,080メートルとなった美香丸が右転して自船に向首し、その後衝突のおそれがある態勢で接近するのを認めた。
 B受審人は、美香丸に避航の気配が認められず、自船を避けないまま接近したが、美香丸が自船の漁模様を見るため来航するのであり、そのうち避けてくれるものと思い、美香丸に対して有効な音響による注意喚起信号を行わず、更に接近しても機関を使用するなどして衝突を避けるための措置をとることなく停留中、04時29分半至近に迫った同船にようやく衝突の危険を感じ、避航を促すため美香丸に向けてボンデンを振り回すなどしたが効なく、博栄丸は、000度を向首したまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、美香丸は、船首部外板に擦過傷を生じ、博栄丸は、左舷中央部外板に破口を生じて水船となり、宇登呂漁港に引き付けられたがのち廃船となった。またB受審人は、左下腿開放骨折を負い、のち回復不能により同下腿が切断された。 

(原因)
 本件衝突は、北海道宇登呂漁港沖合において、美香丸が、見張り不十分で、停留中の博栄丸を避けなかったことによって発生したが、博栄丸が、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、北海道宇登呂漁港沖合において、同港に向け帰航する場合、船首方に死角が生じた状態であったから、前路で停留中の博栄丸を見落とすことのないよう、船首を左右に振るなどして死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、前路に危険となる他船はいないものと思い、死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で停留中の博栄丸に気付かず、同船を避けずに進行して衝突を招き、美香丸の船首部外板に擦過傷を、博栄丸の左舷中央部外板に破口をそれぞれ生じさせ、B受審人に左下腿開放骨折を負わせたばかりか、同下腿を切断する事態を招くに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、北海道宇登呂漁港沖合において、停留中、自船に向首接近する美香丸を視認し、同船が自船を避けないまま接近するのを認めた場合、機関を使用するなどして衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。ところが、同人は、美香丸が自船の漁模様を見るため来航するのであり、そのうち避けてくれるものと思い、衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、美香丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自らも負傷し、左下腿を切断する事態を招くに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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