(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年6月5日12時00分
福岡湾
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船大洋丸 |
プレジャーボートカイ |
総トン数 |
4.8トン |
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全長 |
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6.50メートル |
登録長 |
11.97メートル |
5.28メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
出力 |
316キロワット |
51キロワット |
3 事実の経過
大洋丸は、軽合金製漁船で、平成12年4月交付の一級小型船舶操縦士免状を有するA受審人が1人で乗り組み、操業中の僚船に砕氷200キログラムを届ける目的で、船首0.1メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成15年6月5日11時50分福岡県野北漁港を発し、矢戸鼻北方沖合に向かった。
ところで、大洋丸は、機関を回転数毎分1,900にかけて航走すると船首が浮上し、操舵室右舷側の操縦席に座った状態で正船首から左舷12度、右舷8度の間に死角(以下「船首死角」という。)が生じるので、A受審人は、平素、操舵室の天窓から顔を出すなり、船首を左右に振るなりして同死角を補う見張りを行っていた。
A受審人は、11時56分西浦岬灯台から231度(真方位、以下同じ。)3.5海里の地点で、針路を050度に定め、機関を回転数毎分1,900にかけて15.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)とし、手動操舵で進行した。
11時58分A受審人は、西浦岬灯台から231度3.0海里に達したとき、右舷船首6度940メートルのところにカイを視認できる状況であったが、周囲を一瞥しただけで、操業中の漁船数隻及び僚船を認めただけであったことから、休日にはプレジャーボートがいるものの平日でもあり、付近海域には他にプレジャーボートがいないものと思い、操舵室の天窓から顔を出すなりして船首死角を補う見張りを十分に行わなかったので、同死角内に入ったカイの存在に気付かず、針路を同船に向く056度に転じた。
A受審人は、その後、カイが錨泊中の船舶が表示する形象物を掲げていなかったものの、船首を風上に向けたまま移動しないことや、前方に張った錨索などから、錨泊中であることが分かり、同船に向首し衝突のおそれのある態勢で接近するのを認め得る状況であったが、依然、見張り不十分で、転舵するなどして同船を避けずに原針路、原速力で続航中、12時00分西浦岬灯台から230度2.5海里の地点において、大洋丸は、その左舷船首が、カイの左舷船首に、ほぼ平行に衝突し、同船を乗り切った。
当時、天候は晴で風力2の西南西風が吹き、潮候はほぼ高潮時で、視界は良好であった。
また、カイは、船外機を装備したFRP製プレジャーボートで、平成11年9月交付の四級小型船舶操縦士免状を有するB受審人が1人で乗り組み、妻を同乗させ、釣りの目的で、船首0.4メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、同15年6月5日09時30分福岡市西区名柄川の船溜まりを発し、福岡湾西部で釣りを行ったのち、矢戸鼻北方沖合の釣り場に向かった。
10時30分B受審人は、衝突地点付近に移動し、始動キーを差し込んだまま、船外機をチルトダウンの状態で停止し、重さ7キログラムの錨を水深20メートルの海底に投じ、直径14ミリメートルの合成繊維製錨索を船首から約35メートル伸出し、錨泊中の船舶が表示する形象物を掲げずに錨泊し、釣りを再開した。
11時58分B受審人は、釣果が悪くなったので、風圧を利用して船体を後方に数メートル移動させることとし、右舷船首クリートに係止した錨索を妻に延出させ、船首が236度を向いたとき、正船首940メートルのところに東行する大洋丸を初めて視認し、その動静監視を行ったところ、その後、自船に向首して衝突のおそれのある態勢で接近することを知った。
11時59分B受審人は、大洋丸が自船を避けずに同方位470メートルに接近するのを認め、電子ホーンにより短音を繰り返し吹鳴して注意喚起信号を行ったのち、大洋丸がなおも接近するのを認めたが、同信号に気付いて避航してくれるものと思い、直ちに船首にいる妻に指示して錨索を放し、機関を始動して移動するなど、衝突を避けるための措置をとらずに錨泊を続け、236度を向いたまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、大洋丸は、左舷船首船底外板に擦過傷を生じたが、のち、修理され、カイは船室等を圧壊し、廃船とされた。
(原因)
本件衝突は、矢戸鼻北方沖合において、東行中の大洋丸が、見張り不十分で、前路で錨泊中のカイを避けなかったことによって発生したが、カイが、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、矢戸鼻北方沖合において、船首死角のある状態で航行する場合、同死角があることを知っていたのであるから、錨泊中の他船を見落とさないよう、操舵室の天窓から顔を出すなりして、船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、周囲を一瞥しただけで、操業中の漁船数隻及び僚船を認めただけであったことから、休日にはプレジャーボートがいるものの平日でもあり、付近海域にはプレジャーボートがいないものと思い、船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、錨泊中のカイに気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、自船の左舷船首船底外板に擦過傷を、カイの船室等に圧壊を、それぞれ生じさせる至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、矢戸鼻北方沖合において、釣りのため錨泊中、注意喚起信号を吹鳴したのち、自船に向首し衝突のおそれのある態勢でなおも接近する大洋丸を認めた場合、直ちに錨索を放し、機関を始動して移動するなど衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、同信号に気付いて避航してくれるものと思い、衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、錨泊を続けて衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。