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平成15年門審第76号
件名

貨物船第五早矢丸漁船第三香川丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年11月26日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(長浜義昭、安藤周二、千葉 廣)

理事官
黒田敏幸

受審人
A 職名:第五早矢丸機関長 海技免許:五級海技士(航海)
B 職名:第三香川丸船長 海技免許:五級海技士(航海)

損害
早矢丸・・・球状船首に破口及び凹損
香川丸・・・右舷前部外板に破口を生じて沈没、船長ほか1人が頚椎捻挫等の負傷

原因
早矢丸・・・居眠り運航防止措置不十分、船員の常務(避航動作)不履行(主因)
香川丸・・・注意喚起信号不履行(一因)

主文

 本件衝突は、第五早矢丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、錨泊中の第三香川丸を避けなかったことによって発生したが、第三香川丸が、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年8月18日08時05分
 大分県臼杵湾
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第五早矢丸 漁船第三香川丸
総トン数 495トン 199トン
全長 70.50メートル 49.65メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 735キロワット

3 事実の経過
 第五早矢丸(以下「早矢丸」という。)は、船尾船橋型の砂利運搬船で、船長O、A受審人ほか2人が乗り組み、空倉のまま、船首0.6メートル船尾3.2メートルの喫水をもって、平成14年8月17日20時00分兵庫県家島港を発し、大分県津久見港に向かった。
 ところで、O船長は、出港前に3日間の休暇を乗組員全員に与えたうえで、船橋当直を、出港時から順次、自らを含めて乗組員全員による単独の2時間交替4直制とし、非直者を休息させていた。
 こうしてA受審人は、24時00分船橋当直を終えて休息し、翌18日06時00分愛媛県襖鼻灯台の北西5海里付近で昇橋して再び船橋当直につき、07時35分半関埼灯台から081度(真方位、以下同じ。)4.8海里の地点で、速吸瀬戸を通過し終え、臼杵湾を横切って津久見湾に向くよう、針路を202度に定め、折からの南南東流によって3度ほど左方に圧流されながら、機関を全速力前進にかけ、13.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、自動操舵により進行した。
 07時50分A受審人は、関埼灯台から121度4.3海里の地点に達したとき、操舵室中央に置かれたいすに腰掛けて見張りを行っていたところ、気の緩みから眠気を催したが、十分な睡眠をとっていたうえ、10分ほどすると当直交代なので、まさかそれまでの間に居眠りすることはあるまいと思い、次直の次席一等航海士を早めに呼んで2人当直とするなど、居眠り運航の防止措置を十分にとらなかったので、その後、いつしか居眠りに陥った。
 A受審人は、08時03分少し前関埼灯台から150度5.6海里の地点で、左舷船首1度1,000メートルに第三香川丸(以下「香川丸」という。)を視認できる状況で、その後、黒球を掲げて錨泊中の同船にほぼ向首し、衝突のおそれがある態勢で接近したものの、依然、居眠りしていて、同船を避けることも、定時を過ぎて昇橋しない次直者に昇橋を促すこともできないまま続航中、08時05分わずか前、ふと目覚めて、船首至近に同船を初めて認めたものの、何もすることができず、08時05分関埼灯台から154度5.9海里の地点において、早矢丸は、原針路、原速力のまま、その船首が、香川丸の右舷前部に前方から67度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の北北西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、付近海域には約0.9ノットの南南東流があった。
 O船長は、自室で衝撃を感じて直ちに昇橋し、衝突を知って事後の措置にあたった。
 また、香川丸は、船尾船橋型の活魚運搬船で、B受審人ほか3人が乗り組み、ハマチ及びシマアジの活魚22.4トンを積載し、船首尾3.35メートルの等喫水をもって、同月17日12時15分大分県入津漁港を発し、台風13号を避けるために瀬戸内海を経由して神奈川県三崎港に向かった。
 B受審人は、伊予灘の海水温度が高くて活魚運搬に支障をきたすので、臼杵湾で台風通過を待って四国沖を経由することとし、17時00分ごろ反転し、20時30分衝突地点付近に右舷錨を投じて錨鎖5節を伸出し、黒球を掲げ、機関を停止して錨泊を開始した。
 B受審人は、錨泊開始時から自らを含む乗組員全員による単独の3時間交代4直の船橋当直体制とし、06時00分昇橋して船橋当直に就いていたところ、08時03分少し前、船首が315度を向いて右舷船首63度1,000メートルのところに南下する早矢丸を視認できる状況で、その後、ほぼ自船に向首し衝突のおそれのある態勢で接近したものの、操舵室のいすに腰掛けて活魚の衰弱模様や今後の航海計画などに思いをめぐらしていて、このことに気付かなかった。
 B受審人は、08時04分右舷船首61度500メートルに早矢丸をようやく視認し、ほぼ自船に向首し衝突のおそれのある態勢で接近していることを知ったが、そのうち錨泊中の自船を早矢丸が避けるものと思い、汽笛による注意喚起信号を行わず、船首を315度に向けて錨泊中、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、早矢丸は球状船首に破口及び凹損を生じたが、のち、修理され、香川丸は右舷前部外板に破口を生じて沈没し、B受審人ほか1人が頚椎捻挫等の負傷を負った。 

(原因)
 本件衝突は、臼杵湾において、津久見湾に向け南下中の早矢丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、錨泊中の香川丸を避けなかったことによって発生したが、香川丸が、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、臼杵湾において、単独で船橋当直中、気の緩みから眠気を催した場合、次直者を早めに呼んで2人当直とするなど居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、10分ほどすると当直交代なので、まさかそれまでの間に居眠りすることはあるまいと思い、居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により、いすに腰掛けたまま居眠りに陥り、錨泊中の香川丸を避けずに進行して衝突を招き、早矢丸の球状船首に破口及び凹損を生じさせ、香川丸の右舷前部外板に破口を生じて沈没させ、香川丸の乗組員2人に頚椎捻挫等の負傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、臼杵湾において、船橋当直中、ほぼ自船に向首し衝突のおそれのある態勢で接近する早矢丸を認めた場合、汽笛による注意喚起信号を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、そのうち錨泊中の自船を早矢丸が避けるものと思い、注意喚起信号を行わなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、前示の損傷等を生じさせ、負傷させるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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