(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年6月8日08時49分
山口県相島北東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船祥星丸 |
プレジャーボートボルボ |
総トン数 |
6.6トン |
|
全長 |
|
9.70メートル |
登録長 |
12.09メートル |
7.89メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
90 |
|
出力 |
|
110キロワット |
3 事実の経過
祥星丸は、一本つり漁業に従事するFRP製漁船で、平成2年1月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人が1人で乗り組み、めだい漁の目的で、船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同15年6月8日08時04分山口県宇田郷漁港を発し、同県萩港北西方にある相島の北方沖合約2海里の漁場に向かった。
ところで、A受審人は、機関を全速力前進にかけて航行すると船首が浮上し、船体の船尾寄りにある操舵室の中央に設備された舵輪の後方右舷側に設けたいすに腰掛けて操船に当たるときに、船体中心線から左舷側に約15度、右舷側に約10度の死角が生じるため、平素、舵輪の船首側わずか左の前面窓際に設置されたレーダーを1.5海里レンジとして監視に当たるとともに、約1海里航走するごとに船首を左右に振って同死角を補う見張りを行っていた。なお、同室天井に開口部が設けられていたが、操舵室の船首側直近に設備された煙突の排気が直接降りかかるため、頭部を同開口部から出して周囲の見張りに当たることをしなかった。
08時21分A受審人は、萩相島灯台から076度(真方位、以下同じ。)10.2海里の地点で、針路を267度に定め、機関を全速力前進にかけ、16.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、船首浮上による死角を補う見張りに当たりながら、自動操舵によって進行した。
08時43分A受審人は、萩相島灯台から061.5度4.55海里の地点に差し掛かったとき、正船首1.6海里のところにボルボを、更に同船の北西方約200メートルのところに操業中の漁船をそれぞれ認めることができる状況であったが、1.5海里レンジとしたレーダー画面の船首方の端に表示された映像を一瞥し、前路に他船がいることに気付いて船首方を見ていたところ、間もなく同漁船が死角から外れて右舷船首方に見え始めたことから、同映像がこの漁船のものであったと安心し、前路に同漁船以外に他船はいないと思い、引き続きレーダー画面の映像を再確認するなり、船首を大きく左右に振るなどして前路の見張りを十分に行うことなく、死角内に入っていたボルボに気付かないまま、同じ姿勢で続航した。
08時45分A受審人は、萩相島灯台から058.5度4.1海里の地点に達したとき、正船首1.05海里のところに、ボルボが船首方に繰り出した錨索、同船の操舵室の天井より高いところに錨泊中の船舶が表示する形象物のように見えるたも網及びボルボの移動模様などから、同船が錨泊していることを認めることができ、その後、同船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、依然、前路の見張り不十分で、このことに気付かず、同船を避けないまま、同じ針路、速力で進行した。
08時49分わずか前A受審人は、そろそろ船首を振って死角を補う見張りを行うこととし、舵輪に左手をかけ、同室右舷側の前面窓際に設けられた操舵切替スイッチに右手を伸ばしたとき、右舷船首至近にボルボの船体後部を初めて認め、衝突の危険を感じて咄嗟に機関回転数を減じて左舵一杯としたが及ばず、08時49分萩相島灯台から049度3.2海里の地点において、祥星丸は、船首が左方に振れて252度を向いたとき、原速力のまま、その船首がボルボの左舷船首部に後方から52度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の中央期にあたり、視界は良好であった。
また、ボルボは、船体中央に操舵室があるFRP製プレジャーボートで、昭和56年4月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したB受審人が1人で乗り組み、友人2人を同乗させ、遊漁の目的で、船首0.4メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成15年6月8日05時40分山口県玉江漁港を発し、同県虎ケ埼と大島の中間の海域で遊漁を行ったのち、相島北東方沖合に移動し、07時30分前示衝突地点に到着して投錨し、船首から合成繊維製の錨索を約100メートル繰り出し、錨泊中の船舶が表示する形象物の代わりとして、長さ3メートルの竹竿の先端に直径60センチメートルの金属環に網を取り付けたたも網を操舵室前部に立て、錨泊して遊漁を再開した。
ところで、B受審人は、発航前の点検不十分で、ボルボに装備された汽笛が錆びて固着し、作動不良で吹鳴できない状態になっていることに気付かないまま発航していた。
08時44分B受審人は、前示衝突地点で船首を200度に向けて錨泊し、同乗者2人が船尾甲板の右舷側で同舷正横を向き、自ら同甲板左舷側で同舷正横に向いて見張りに当たりながら遊漁を続けていたとき、左舷正横後23度1.35海里のところに、自船に向首して接近する祥星丸を初めて認めたが、この錨泊地点付近が良く魚の釣れる場所なので、同船もこの付近に来て遊漁を始めるものと思い、まだ遠かったこともあって、同船に対する動静監視を十分に行うことなく、同じ姿勢で遊漁を続けた。
08時45分B受審人は、前示衝突地点で、同方位1.05海里のところに、祥星丸が自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近したが、依然、祥星丸に対する動静監視不十分で、このことに気付かず、汽笛が作動不良で吹鳴できない状態になっていたものの、これに代えて有効な音響による信号を行うことができる他の手段により、同船に対して避航を促すための注意喚起信号を行うことも、直ちに機関を始動して移動の準備をするなど、祥星丸との衝突を避けるための措置もとらないまま、錨泊を続けた。
08時48分半B受審人は、方位が変わらないまま250メートルに接近した祥星丸を再び認め、衝突の危険を感じて同乗者とともに船尾端に移動し、同時49分わずか前至近に接近した祥星丸に大声を出して呼びかけたが、効なく、ボルボは、船首が200度に向いて錨泊したまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、祥星丸は、右舷船首に擦過傷を生じただけで修理は行われず、ボルボは、左舷側の船首部ハンドレールに曲損及びブルワークトップに亀裂等の損傷を生じたが、のち修理された。また、衝突時の衝撃でB受審人が全治4週間の外傷性頸椎症、背部・腰部各打撲傷、同乗者Cが同4週間の右頸肩部打撲傷及び同乗者Dが同3週間の腰部打撲傷を負った。
(原因)
本件衝突は、山口県相島北東方沖合において、漁場に向けて西行中の祥星丸が、見張り不十分で、前路で錨泊して遊漁中のボルボを避けなかったことによって発生したが、ボルボが、発航前の点検不十分で、汽笛が作動不良で吹鳴できない状態のまま発航したばかりか、動静監視不十分で、汽笛に代えて有効な音響による信号を行うことができる他の手段により、祥星丸に対して避航を促すための注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、山口県相島北東方沖合において、漁場に向けて西行する場合、機関を全速力前進にかけて航行すると、船首が浮上して死角が生じることを知っていたのであるから、操業あるいは遊漁を行っている他船を見落とさないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、1.5海里レンジとしたレーダー画面の船首方の端に表示された映像を一瞥し、前路に他船がいることに気付いて船首方を見ていたところ、間もなく操業中の漁船が死角から外れて右舷船首方に見え始めたことから、同映像がこの漁船のものであったと安心し、前路に同漁船以外に他船はいないと思い、引き続きレーダー画面の映像を再確認するなり、船首を大きく左右に振るなどして前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、死角内に入っていた前路で錨泊しているボルボに気付かず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、祥星丸の右舷船首に擦過傷を、ボルボの左舷側の船首部ハンドレールに曲損及びブルワークトップに亀裂等の損傷をそれぞれ生じさせ、B受審人が全治4週間の外傷性頸椎症、背部・腰部各打撲傷、C同乗者が同4週間の右頸肩部打撲傷及びD同乗者が同3週間の腰部打撲傷をそれぞれ負うに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、山口県相島北東方沖合において、錨泊して遊漁中、自船に向首して接近する祥星丸を認めた場合、衝突のおそれがあるかどうかが分かるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、錨泊地点付近が良く魚の釣れる場所なので、祥星丸もこの付近に来て遊漁を始めるものと思い、まだ遠かったこともあって、同船に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、祥星丸が自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、作動不良で吹鳴できない状態の汽笛に代えて有効な音響による信号を行うことができる他の手段により、祥星丸に対して避航を促すための注意喚起信号を行わず、直ちに機関を始動して移動の準備をするなど、同船との衝突を避けるための措置もとらずに錨泊を続け、前示の事態を招くに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。