日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2003年度(平成15年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成15年門審第73号
件名

漁船第三正和丸漁船金龍丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年11月11日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(小寺俊秋、長浜義昭、橋本 學)

理事官
尾崎安則

受審人
A 職名:第三正和丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:金龍丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 

損害
正和丸・・・左舷船首部外板に破口と魚倉に亀裂
金龍丸・・・船首部を圧壊

原因
金龍丸・・・見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
正和丸・・・警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、金龍丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る第三正和丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第三正和丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年5月28日05時15分
 山口県見島西方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三正和丸 漁船金龍丸
総トン数 19トン 9.92トン
全長 23.03メートル  
登録長 18.18メートル 13.37メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 160 90

3 事実の経過
 第三正和丸(以下「正和丸」という。)は、小型いかつり漁業に従事するFRP製漁船で、平成14年5月交付の一級小型船舶操縦士免状を有するA受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.5メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同15年5月26日14時00分山口県特牛港を発し、同県見島西方沖合の漁場に至り、同月28日早朝イカ240キログラムを獲て操業を終え、同漁場を発進して水揚げ港である同県湊漁港へ向かった。
 04時00分A受審人は、漁場を発進すると同時に、見島北灯台から285度(真方位、以下同じ。)20.8海里の地点で、航海灯を表示して単独での船橋当直に就き、湊漁港に直行する143度に針路を定め、機関を回転数毎分1,600の全速力前進にかけ、9.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、自動操舵により進行した。
 05時10分少し前A受審人は、見島北灯台から258度14.2海里の地点に達したとき、左舷船首24度1.5海里のところに、3海里レンジとしていたレーダーで金龍丸の映像を初めて認め、操舵室前面の窓越しに目視でも確認したので、その動静を監視しながら続航したところ、その後方位が変わらず、衝突のおそれのある態勢で接近するのを認めたが、前路を右方に横切る金龍丸がいずれ自船の進路を避けるものと思い、警告信号を行わなかった。
 A受審人は、05時14分半わずか前金龍丸が、避航する気配のないまま300メートルのところまで接近したが、依然同船が避航動作をとることを期待し、右転したり減速したりするなど、衝突を避けるための協力動作をとらずに進行中、同時15分少し前間近に迫った同船との衝突の危険を感じ、右舵一杯としたものの及ばず、05時15分見島北灯台から255度13.9海里の地点において、正和丸は、船首が191度を向いたとき、原速力のまま、その左舷船首と金龍丸の船首とが、後方から85度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力3の東風が吹き、日出時刻は05時06分で、視界は良好であった。
 また、金龍丸は、主として一本つり漁業に従事するレーダーを装備していないFRP製漁船で、平成11年8月交付の一級小型船舶操縦士免状を有するB受審人が単独で乗り組み、操業の目的で、船首0.58メートル船尾1.55メートルの喫水をもって、同15年5月28日03時40分見島本村漁港を発し、同島西方沖合約20海里の漁場へ向かった。
 ところで、B受審人は、GPSが操舵位置から左斜め下方となる操舵室前面の棚に設置してあって、航海灯を表示して発航したのち、前日27日と同じ漁場で操業する予定としていたので、GPSに前日の航跡と自船の位置等(以下「自航マーク」という。)とを表示させ、見島南西端沖合から266度となる同航跡に沿って、時々、GPSの画面をのぞき込みながら西行した。
 04時57分半少し過ぎB受審人は、見島北灯台から252度11.3海里の地点で、左舷船首方に前路を右方に横切る態勢で北上する貨物船を認めたので、同船の船尾をかわすため、針路を256度に定め、機関を回転数毎分1,500にかけ、9.5ノットの速力で、自動操舵により進行した。
 貨物船を避航し終えたB受審人は、05時06分少し過ぎ見島北灯台から235度12.6海里の地点に達したとき、航海灯を消灯し、前日の航跡上に戻るため、針路を276度に転じて続航した。
 05時10分少し前B受審人は、見島北灯台から254度13.1海里の地点に至ったとき、正和丸が右舷船首23度1.5海里に存在し、その後前路を左方に横切り、衝突のおそれのある態勢で互いに接近する状況であったが、次第に自航マークが前日の航跡上に近づくため、GPSを監視することに気をとられ、周囲の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、速やかに右転するなど、同船の進路を避けないまま進行した。
 こうして、B受審人は、正和丸と更に接近しても、自航マークがほぼ前日の航跡上に重なり、針路を戻す時機を見極めるためGPSを見続けていたことから、依然、見張り不十分で、原針路原速力のまま続航中、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、正和丸は、左舷船首部外板に破口と魚倉に亀裂を生じ、金龍丸は船首部を圧壊したが、のちいずれも修理された。 

(原因)
 本件衝突は、山口県見島西方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、西行する金龍丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る正和丸の進路を避けなかったことによって発生したが、南下する正和丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 B受審人は、山口県見島西方沖合を漁場に向けて西行する場合、接近する他船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前日と同じ漁場への航跡を表示させたGPSを監視することに気をとられ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、正和丸が前路を左方に横切り、衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かず、速やかに右転するなど、同船の進路を避けないまま進行して衝突を招き、正和丸の左舷船首部外板に破口と魚倉に亀裂とを生じさせ、金龍丸の船首部を圧壊するに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は、山口県見島西方沖合を南下中、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する金龍丸を認めた場合、同船に避航を促すことができるよう、警告信号を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前路を右方に横切る金龍丸がいずれ自船の進路を避けるものと思い、警告信号を行わなかった職務上の過失により、金龍丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:14KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION