(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年5月15日14時40分
山口県宇部港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船さつき丸 |
プレジャーボート良浩丸 |
総トン数 |
4.4トン |
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全長 |
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6.63メートル |
登録長 |
11.96メートル |
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機関の種類 |
ディーゼル電気点火機関 |
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漁船法馬力数 |
70 |
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出力 |
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44キロワット |
3 事実の経過
さつき丸は、船尾寄りに操舵室があるFRP製漁船で、昭和49年10月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人ほか2人が乗り組み、囲い刺網漁の目的で、平成15年5月15日11時00分山口県宇部港港町ふ頭東側船だまりを発し、同県宇部市東岐波村松の海岸沖合約1.5キロメートルの漁場に向かい、魚群探索後に1回の操業を行ってスズキ30尾を漁獲したのち、船首0.30メートル船尾1.10メートルの喫水をもって、14時28分亀ケ瀬灯標から062度(真方位、以下同じ。)3.15海里の地点を発進し、帰途に就いた。
ところで、宇部港内の山口宇部空港南方沖合は、好天時には50隻以上の漁船や遊漁船が集中する漁場と釣場とが競合する水域になっていた。
14時36分半少し過ぎA受審人は、亀ケ瀬灯標から005度1,240メートルの地点で、針路を山口宇部空港の西側の埋立地の南方に向く250度に定め、機関を全速力前進が回転数毎分2,800のところ同毎分2,500にかけ、20.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、甲板員2人を操舵室の後部外側に船尾向きに腰掛けさせ、自ら同室の左舷側に設置されたいすに腰掛け、同室右舷側に設けられた舵輪を右手に持ち、手動操舵によって進行した。
14時38分半A受審人は、亀ケ瀬灯標から311度1,300メートルの地点に差し掛かったとき、折からの降雨により視程が約1,500メートルになっていたものの、正船首930メートルのところに、良浩丸を認めることができ、その後同船が移動していないことが分かる状況で接近したが、発進後、平素山口宇部空港の南方水域には多数の出漁船がいるのに他船を見かけなかったことから、天気が悪いので出漁している漁船も遊漁船もいないものと思い、周囲の見張りを十分に行うことなく、良浩丸に気付かず、同空港の西側にある宇部岬漁港の入出港船があるかどうか、左右を見ながら続航した。
14時39分A受審人は、亀ケ瀬灯標から301度1,450メートルの地点に達したとき、正船首620メートルのところの良浩丸に向首し、衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、依然、前路の見張り不十分で、このことに気付かず、同船を避けないまま、同じ針路、速力で進行した。
14時40分わずか前A受審人は、プロペラに良浩丸のシーアンカーロープが巻き付いて急に機関回転数が落ち、何事かと思って機関を中立にした直後、14時40分亀ケ瀬灯標から286度1,930メートルの地点において、さつき丸は、原針路、原速力のまま、その船首が良浩丸の船尾左舷側に後方から20度の角度で衝突した。
当時、天候は雨で風力1の西南西風が吹き、潮候はほぼ低潮時に当たり、視程は約1,500メートルであった。
A受審人は、船首が良浩丸の船尾に乗り上がっていることに気付いて同船と衝突したことを初めて知り、自船の後方海面で救助を求める良浩丸の同乗者の救助に当たるなど、事後の措置に当たった。
また、良浩丸は、船体中央に舵輪や船外機遠隔操縦器などが装備された操舵場所があり、有効な音響による信号を行うことができる金属製のバケツを搭載したFRP製プレジャーモーターボートで、昭和52年6月に四級小型船舶操縦士の免許を取得したB受審人が1人で乗り組み、友人1人を同乗させ、遊漁の目的で、船首0.2メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成15年5月15日08時00分宇部岬漁港の定係場所を発し、山口宇部空港南方沖合の釣場に向かい、同時30分同釣場に到着して船尾から後方にシーアンカーを投入し、漂泊して遊漁を始めた。
ところで、B受審人は、良浩丸を船舶所有者から購入して同年5月に引き渡しを受け、名義変更の手続を行わないまま運航していたもので、発航までに1航海行い、今回が2回目の航海であった。また、同人は、前示釣場に他の船舶で何回も来たことがあり、同釣場で遊漁を行う際には、シーアンカーを投入して漂泊し、速い潮流を利用して流し釣りを行うことを経験していた。また、同人は、シーアンカーを投入することは知っていたものの、同アンカーの投入と回収の時間を短縮しようと思い、漂泊中といえども、衝突のおそれがある態勢で接近する他船との衝突を回避するための措置をとれるように、同アンカーを船首から投入して推進器周りの障害物をなくしておくなど、操船の自由を確保することなく、船尾から後方に同アンカーを投入し、漂泊して遊漁を行っていた。
こうして、B受審人は、14時38分半前示衝突地点で、風が弱いうえにほぼ低潮時でシーアンカーの効果がなかったのに、同アンカーを取り込まずに漂泊を続けているうち、同アンカーが海底の障害物に絡み付き、船首が270度に向いて錨泊状態になったとき、右舷船尾20度930メートルのところに、さつき丸を認めることができ、その後同船が自船に向首接近していることが分かる状況であったが、同アンカーを投入しているので、接近する他船が避けてくれるものと思い、周囲の見張りを十分に行うことなく、さつき丸に気付かないまま、前示絡み付きにより船体が移動していないことに気付いてこれを外そうと、シーアンカーロープを引き寄せている同乗者を見ながら、操舵場所の左舷側に腰掛けて遊漁を続けた。
14時39分B受審人は、前示衝突地点で、右舷船尾20度620メートルのところに、自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近するさつき丸を認めることができる状況であったが、依然、見張り不十分で、同船に気付かず、金属製のバケツを叩くなどして避航を促すための有効な音響による注意喚起信号を行うことも、同アンカーが海底の障害物に絡み付いて錨泊状態になっており、シーアンカーロープが船尾直下に来ていたことから、直ちに機関を始動して移動することもできず、さつき丸との衝突を避けるための措置をとらないまま、同じ姿勢で遊漁を続けた。
14時40分少し前B受審人は、右舷船尾20度150メートルのところに、自船に向首接近するさつき丸を初めて認め、衝突の危険を感じたが、何もすることができず、良浩丸は、船首が270度に向いて錨泊状態のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、さつき丸は、船首船底に擦過傷を生じ、のち修理されたが、良浩丸は、船尾左舷側及び船外機にそれぞれ圧壊を生じ、のち廃船処理され、海中に飛び込んだ良浩丸の同乗者はさつき丸に無事救助されたが、B受審人が衝突時の衝撃で甲板上に倒れ、全治2箇月の尾骨亀裂骨折等の傷を負った。
(原因)
本件衝突は、宇部港内の山口宇部空港南方沖合において、帰航のため西行中のさつき丸が、見張り不十分で、前路でシーアンカーを海底の障害物に絡ませて錨泊状態になっている良浩丸を避けなかったことによって発生したが、良浩丸が、同アンカーを船尾から投入し、操船の自由を確保せずに漂泊したばかりか、同錨泊状態になった際、見張り不十分で、避航を促すための有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、宇部港内の山口宇部空港南方沖合において、帰航のため西行する場合、同沖合の水域が好天時には50隻以上の漁船や遊漁船が集中する漁場と釣場とが競合する場所になっていることを知っていたのであるから、操業あるいは遊漁を行っている他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、漁場発進後、平素多数の出漁船がいるのに他船を見かけなかったことから、天気が悪いので出漁している漁船も遊漁船もいないものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路でシーアンカーを海底の障害物に絡ませて錨泊状態になっている良浩丸に気付かず、同空港の西側にある宇部岬漁港の入出港船があるかどうか、左右を見ながら進行して良浩丸との衝突を招き、さつき丸の船首船底に擦過傷を、良浩丸の船尾左舷側及び船外機に圧壊をそれぞれ生じさせ、B受審人に尾骨骨折等の傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、宇部港内の山口宇部空港南方沖合において、シーアンカーを海底の障害物に絡ませて錨泊状態になった場合、接近する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、同アンカーを投入しているので、接近する他船が避けてくれるものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近するさつき丸に気付かず、直ちに機関を始動して移動するなど、同船との衝突を避けるための措置をとらずに錨泊状態を続け、前示の事態を招くに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
参考図