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平成15年広審第76号
件名

貨物船進宝丸漁船豊丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年11月27日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(西田克史、供田仁男、佐野映一)

理事官
横須賀勇一

受審人
A 職名:進宝丸船長 海技免許:五級海技士(航海)
B 職名:豊丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 

損害
進宝丸・・・船首部外板及び球状船首に擦過傷
豊 丸・・・左舷船首部外板を破損、船長が頚部捻挫等

原因
進宝丸・・・見張り不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
豊 丸・・・見張り不十分、注意喚起信号不履行、各種船間の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、進宝丸が、見張り不十分で、漁ろうに従事している豊丸の進路を避けなかったことによって発生したが、豊丸が、見張り不十分で、避航を促すための有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年11月21日03時25分
 燧灘南西部
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船進宝丸 漁船豊丸
総トン数 199トン 4.99トン
全長 57.13メートル  
登録長   9.98メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット  
漁船法馬力数   15

3 事実の経過
 進宝丸は、専ら瀬戸内海諸港間において鋼材の輸送に従事する船尾船橋型貨物船で、A受審人ほか1人が乗り組み、薄板鋼板670トンを積載し、船首2.8メートル船尾3.6メートルの喫水をもって、平成14年11月21日02時50分愛媛県壬生川港を発し、大阪港に向かった。
 ところで、A受審人は、それまで夜間を含め10回ほど壬生川港に入出港した経験があって、同港北方沖合にあたる燧灘南西部水域に多くの小型底びき網漁船が出漁することや、その操業方法などを承知していた。
 A受審人は、法定灯火を点灯し、出航操船に引き続いて単独の船橋当直に就き、03時00分壬生川港壬生川西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)から120度(真方位、以下同じ。)130メートルの地点で、針路を045度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
 A受審人は、西防波堤灯台から北方沖合1.5海里ばかりに渡って左右に設置されたのり養殖施設に接近しないよう、注意しながら幅約250メートルの間を03時10分に通過した後、付近に気になる他船を見かけなかったので書類の整理をすることとして船橋左舷側後部の暗幕のない海図台に赴き、天井灯を点灯し照度を少し落として航海日誌の記載及びオペレーターに提出する航海報告書の作成を始め、船尾方を向いた姿勢のまま時折振り返って前方を見張るようにしていた。
 03時20分A受審人は、西防波堤灯台から046度3.4海里の地点に達したとき、右舷船首10度1.0海里のところに、豊丸の緑色、白色各全周灯、紅色舷灯及び数個の作業灯の光芒(こうぼう)を視認でき、緑色全周灯の垂直下ではなくその右方のやや上方の位置に白色全周灯が点灯されていたものの、極低速力で航行していることやそれまでの海上経験から同船がトロールにより漁ろうに従事している底びき網漁船であると認めることができ、その後、豊丸と衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、薄明かりに照らされた海図台で書類の整理を続け、前路の見張りを十分に行わなかったので、これに気付かず、速やかに右転するなど同船の進路を避けないまま続航した。
 03時25分少し前A受審人は、前方を振り向いたとき右舷船首至近に豊丸の灯火を初めて視認し、急いで手動操舵に切り替え右舵一杯をとり、機関を後進に操作したが及ばず、03時25分西防波堤灯台から046度4.2海里の地点において、進宝丸は、右転中の船首が058度に向き、7.0ノットの速力となったとき、その船首が、豊丸の左舷船首部に前方から32度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の北風が吹き、視界は良好で、潮候は下げ潮の末期であった。
 また、豊丸は、小型機船底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人(昭和60年4月四級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、えび、かに漁の目的で、船首0.3メートル船尾0.9メートルの喫水をもって、前日20日16時00分壬生川港を発し、同時30分同港北方沖合の燧灘南西部の漁場に到着して操業を開始した。
 ところで、操業は、船尾両舷からそれぞれ延出する長さ260メートルのワイヤー製引き綱に、網口を開口するための長さ18メートルのビームを取り付け、それにチェーンとロープを更に連結したものに長さ50メートルの漁網1袋を設けて漁具として使い、そのときの潮に乗じて東西方向約6海里の間を2ないし3ノットの速力でえい網を繰り返すもので、えい網中に漁獲物の選別作業も行われていた。
 また、本船は、船体ほぼ中央部に操舵室が配され、同室上方に甲板上高さ約3メートルのマスト及び後部甲板上にその垂直の高さ約4メートルの櫓(やぐら)がそれぞれ設けられ、夜間操業時の灯火として、マスト頂部に緑色全周灯とその垂直下に黄色回転灯及び櫓頂部に白色全周灯のほかに前後部甲板照明用の笠付き作業灯数個の設備が取り付けられていた。
 B受審人は、黄色回転灯以外の前示灯火及び両舷灯を点灯して操業を続け、翌21日02時40分西防波堤灯台から060度5.9海里の地点で5回目のえい網を始め、針路を北緯34度線に沿う270度に定め、舵中央としてえい網により針路を保持し、2.8ノットの速力で進行した。
 その後、B受審人は、自船の右舷船尾方近距離の同業船のほか他船を見かけなかったので、いつものように漁獲物の選別作業を行うこととして左舷前部甲板に赴き、右舷後方を向いた姿勢で腰を落として同作業を始め、時折船尾甲板に移動してえい網状態やGPSで位置の確認を行うほか周囲を見張るようにしていた。
 03時20分B受審人は、西防波堤灯台から048度4.4海里の地点に達し船尾甲板で周囲を見渡したとき、左舷船首35度1.0海里のところに、進宝丸のマスト灯2灯及び緑色舷灯を視認でき、その後、北上中の同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、周囲を一瞥(いちべつ)しただけで付近に他船はいないものと思い、前路の見張りを十分に行わなかったので、これに気付かず、避航を促すための有効な音響による信号を行うことも、更に間近に接近したとき機関を使うなど衝突を避けるための協力動作をとることもないまま、前部甲板に戻って選別作業を続けていたところ、突然、衝撃を受け、豊丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、進宝丸は、船首部外板及び球状船首に擦過傷を生じただけで、豊丸は、左舷船首部外板を破損したがのち修理され、またB受審人が頚部捻挫等を負った。 

(原因)
 本件衝突は、夜間、燧灘南西部において、進宝丸が、見張り不十分で、トロールにより漁ろうに従事している豊丸の進路を避けなかったことによって発生したが、豊丸が、見張り不十分で、避航を促すための有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、愛媛県壬生川港を発航して単独の船橋当直に就き、同港北方沖合の燧灘南西部を北上する場合、付近が小型底びき網漁船の操業する水域であるから、トロールにより漁ろうに従事している豊丸を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、定針後気になる他船を見かけなかったので、船橋左舷側後部の天井灯の薄明かりに照らされた海図台で書類の整理にあたり、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、右舷船首方から衝突のおそれがある態勢で接近する豊丸に気付かず、その進路を避けないまま進行して豊丸との衝突を招き、進宝丸の船首部外板及び球状船首に擦過傷を生じさせ、豊丸の左舷船首部外板を破損させるとともに、B受審人に頚部捻挫等を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、夜間、愛媛県壬生川港北方沖合の燧灘南西部において、底びき網をえい網しながら西行する場合、北上中の進宝丸を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、周囲を一瞥しただけで付近に他船はいないものと思い、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、左舷前方から衝突のおそれがある態勢で接近する進宝丸に気付かず、同船に対して避航を促すための有効な音響による信号を行うことも、衝突を避けるための協力動作をとることもないまま操業を続けて進宝丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自身も負傷するに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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