(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年10月13日23時35分
神戸港第1区
2 船舶の要目
船種船名 |
引船辰甲丸 |
台船丸辰2003号 |
総トン数 |
103トン |
692トン |
全長 |
29.98メートル |
57.00メートル |
幅 |
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15.0メートル |
深さ |
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3.0メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
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出力 |
661キロワット |
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船種船名 |
プレジャーボートシアン ブルーII |
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登録長 |
7.11メートル |
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機関の種類 |
電気点火機関 |
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出力 |
217キロワット |
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3 事実の経過
辰甲丸は、船体ブロックなどを載せた台船の曳航に従事する鋼製引船で、船長Bほか2人が乗り組み、船首1.8メートル船尾3.6メートルの喫水をもって、平成14年10月13日22時50分神戸港第2区の摩耶ふ頭北側岸壁を発し、同ふ頭南方の第5防波堤北側ドルフィンバースに係留していた無人の非自航型鋼製台船丸辰2003号(以下「台船」という。)に寄せ、空倉で喫水が船首尾とも0.5メートルとなった台船船首から曳航ワイヤを取って、船尾から台船後端までの距離が約110メートルとなる引船列(以下「辰甲丸引船列」という。)を構成し、23時20分同ドルフィンバースを離れて兵庫県相生港に向かった。
B船長は、曳航するにあたり、台船の船首左右のビットから長さ15メートル直径28ミリメートルのワイヤロープを1本ずつ取り、それらの端を長さ50メートル直径80ミリメートルの曳航ワイヤと連結した。そして、辰甲丸には、垂直に連携したマスト灯3個、舷灯、船尾灯及び引船灯をそれぞれ表示したほか、マストに黄色回転灯を点灯し、台船には、舷灯及び船尾灯が設置されていたものの、電源としていた蓄電池の電圧が下がっていたので、これらに代え、乾電池4個を電源とし毎2秒に1回の閃光を発する、光達距離約5.5キロメートルの白灯を船首尾両舷の甲板上約1.5ないし2.5メートルの高さに表示した。
ドルフィンバースを離れたあとB船長は、第4防波堤の切り通し水路を通航して新港東ふ頭南側岸壁に沿って航行し、23時30分半神戸港第4防波堤中灯台(以下「中灯台」という。)から245度(真方位、以下同じ。)0.9海里の地点で、針路を神戸大橋中央に向首する218度に定め、機関を全速力前進にかけ、6.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
定針したときB船長は、後方を見て近くに他船がいないことを確かめ、神戸大橋に近づいたところでゆっくり右転を開始し、23時33分中灯台から239度1.1海里の地点で針路を237度に転じ、そのころ左舷船尾10度600メートルにシアン
ブルーII(以下「シアン ブルー」という。)が左舷側を追い越す態勢で西行中であったが、同船に気付かないまま、神戸大橋下を新港第4突堤寄りに続航した。
23時35分少し前辰甲丸引船列は、神戸大橋下を通過中、左舷側を約50メートル離れ無難に航過する態勢のシアン ブルーが、左舷船尾27度100メートルに接近したとき、突然辰甲丸と台船との間に向かって右転し、曳航ワイヤとの衝突の危険が生じ、23時35分中灯台から239度1.25海里の地点において、原針路、原速力のまま進行中、シアン
ブルーの船首が、辰甲丸の船尾から30メートル後方の同ワイヤに後方から30度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力3の北北西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
衝突直後B船長は、折から当直交替のため昇橋した一等航海士がシアン ブルーに気付いて叫び声を上げたので、後方を見て同船が曳航ワイヤに衝突したことを知り、付近の岸壁に着けて事後の措置にあたった。
また、シアン ブルーは、FRP製のプレジャーモーターボートで、平成12年12月に一級小型船舶操縦士免許を取得したA受審人が1人で乗り組み、知人5人を乗せ、神戸港内を遊覧する目的で、船首尾とも0.6メートルの喫水をもって、平成14年10月13日23時00分兵庫県尼崎西宮芦屋港の西宮マリーナを発し、神戸港に向かった。
A受審人は、フライングブリッジの操縦席に座って操舵と見張りにあたり、両隣の座席に座った知人と雑談をしながら、神戸市東灘区の深江浜町から魚崎浜町の海岸沿いに航行し、六甲大橋下を経て摩耶ふ頭沖の第4防波堤の切り通し水路を通り、23時31分中灯台から222度220メートルの地点で、針路を神戸大橋ほぼ中央に向首する239度に定め、機関を回転数毎分3,000の全速力前進にかけ、20.0ノットの速力で進行した。
定針したときA受審人は、右舷船首8度1,470メートルに辰甲丸引船列が存在したが、市街地の明かりに紛れた同引船列の灯火に気付かず、23時33分同方位600メートルとなった同引船列が右転し、その後同引船列の左舷側約50メートルを無難に追い越す態勢となったが、依然として同引船列に気付かないまま続航した。
23時34分A受審人は、中灯台から237度1.1海里の地点に達し、神戸大橋まで160メートルとなったとき、同橋手前の右舷船首22度160メートルのところに橋の照明灯などに照らされた辰甲丸を初認して、その船型から引船が航行していることを知り、機関を回転数毎分約1,000に減じて10.0ノットの速力とした。
A受審人は、辰甲丸が和田岬方面に向かうと予想し、その船尾方を横切って右舷側を追い越すこととしたが、引船灯に留意しないまま、いちべつしただけで、同船が単独で航行しているものと思い、その後方に対する見張りを十分に行わなかったので、同船が台船を曳航していることに気付かず、神戸大橋下を通過した直後の23時35分少し前中灯台から237度1.2海里の地点で、辰甲丸が右舷船首25度100メートルとなったとき、同船後方に向け右転したところ、右舷船首至近に台船船首部と曳航ワイヤとを認め、驚いて左舵一杯とするとともに機関を中立としたが及ばず、シアン
ブルーは、267度に向首したとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、辰甲丸引船列は損傷がなかったが、シアン ブルーは、右舷船首部ハンドレールを曲損、右舷外板に擦過傷及びフライングブリッジの操舵輪を損傷した。また、A受審人が左耳介などに挫傷を、同乗者2人が全治7ないし8日の左前額部裂創、頚部打撲傷などをそれぞれ負った。
(原因)
本件衝突は、夜間、神戸港において、両船が相前後して無難に航過する態勢で接近中、シアン ブルーが、辰甲丸引船列を追い越す際、引船後方に対する見張りが不十分で、辰甲丸と被引台船との間に向けて転針したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、神戸港において、神戸大橋付近を西行中、右舷船首方に認めた引船の辰甲丸船尾方を横切る場合、後方の被引台船を見落とさないよう、引船後方に対する見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、いちべつしただけで、同船が単独で航行しているものと思い、その後方に対する見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、辰甲丸が台船を曳航していることに気付かず、辰甲丸と台船との間に向けて右転して辰甲丸引船列との衝突を招き、シアン
ブルーの右舷船首部ハンドレールを曲損、右舷外板に擦過傷及びフライングブリッジの操舵輪を損傷させ、自身の左耳介などに挫傷を負うとともに、同乗者2人に全治7ないし8日の左前額部裂創、頚部打撲傷などを負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。