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平成15年神審第27号
件名

旅客船すいせん岸壁衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年11月12日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(竹内伸二、相田尚武、小金沢重充)

理事官
佐和 明

受審人
A 職名:すいせん船長 海技免許:一級海技士(航海)

損害
左舷プロペラの一部が欠損及び左舷船底外板に擦過傷

原因
荒天に対する判断不適切

主文

 本件岸壁衝突は、係留岸壁に接近中、冬季季節風が強くなって接岸を中止した際、速やかに港外に避難する措置がとられなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年1月23日19時45分
 福井県敦賀港
 
2 船舶の要目
船種船名 旅客船すいせん
総トン数 17,329トン
全長 199.45メートル
25.00メートル
深さ 15.26メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 47,660キロワット

3 事実の経過
 すいせんは、可変ピッチプロペラを装備した2機2軸の船首船橋型旅客船兼車両航走船で、船橋が船首から27メートル後方に位置し、船体側面の水線上投影面積が約3,800平方メートルで風圧の影響を受け易く、船首に推力22.5トンのサイドスラスタ1機、船尾に推力8.5トンのサイドスラスタ2機を備えていたほか、主に離接岸時に可変ピッチプロペラ、サイドスラスタ及び舵を総合的に一括制御する、キックスと称するジョイスティック式操縦装置(以下「キックス」という。)を装備し、専ら北海道苫小牧港と福井県敦賀港との間を航海速力28.6ノット、約21時間で航行する定期航路に就航していた。
 キックスには、離接岸モードと航行モードがあり、通常、外洋航行時にはキックスを使用せず、可変ピッチプロペラ、サイドスラスタ及び舵をそれぞれ個別に制御する方法(以下「個別操船」という。)で操船が行われ、出入港時には、キックスの離接岸モードに切り換えられ、船長が船橋ウイングのキックス操作スタンドでジョイスティックと回頭ダイヤルとを操作して、プロペラ及び各サイドスラスタの翼角と舵角を同時かつ総合的に制御して操船していた。そして、個別操船とキックスとの切換えには、プロペラ及び各サイドスラスタの翼角をすべて中立とし、舵を中央に保持するなどいくつかの条件が満たされる必要があり、切換え操作に10秒ないし1分程度の時間を要していた。
 ところで、敦賀港は、若狭湾東部の敦賀湾奥に位置し、東西及び南の3方を山に囲まれていたが、北西部の常宮湾(じょうぐうわん)を除き、港内の船舶は、冬季北寄りの強風に対する注意が必要であった。そして、平成15年1月当時、北からの波浪を防ぐ鞠山防波堤の延長工事のほか、南部の金ケ崎防波堤北側では鞠山南岸壁築造工事が行われており、工事区域を示すため鞠山防波堤先端から150ないし300メートル離れて6個の簡易標識灯が、金ケ崎防波堤とその北方750メートルの間の工事区域周囲にAからIまでの9個の灯浮標がそれぞれ設置されていたことから、両工事区域の間の可航水域が約800メートルと狭くなっていた。
 また、S株式会社の運航基準によれば、敦賀港に入港する同社旅客船は、平均風速が18メートル毎秒以上に達すれば入港を中止して錨泊など適切な措置を、平均風速25メートル毎秒を超える場合及び着岸岸壁の波高が1.5メートルを超える場合には、着岸を中止し、或いは接岸中の場合は離岸し、適切な海域での錨泊その他適切な措置をそれぞれとることとされ、岸壁付近で北西ないし北東の風が風速15メートル毎秒以上に達するか、達するおそれがあると認められるとき、運航管理者は、船長と協議のうえ引船1隻を手配することになっていた。
 すいせんは、A受審人ほか28人が乗組み、旅客28人を乗せ、車両124台を積載し、船首6.90メートル船尾7.10メートルの喫水をもって、平成15年1月22日23時50分苫小牧港第4区を発し、敦賀港に向かった。
 そのころ大陸高気圧が沿海地方に張り出すとともに、日本付近を低気圧が発達しながら北東に進んでいて、翌23日午後には低気圧が近畿地方を通過して冬型の気圧配置が強まり、季節風が強くなる状況であった。
 出航後A受審人は、23日20時50分の入港予定で、津軽海峡を経て日本海を南下したところ、21時ころには経ケ岬における風速が15メートル毎秒に達するとの気象情報を得たので、09時ころ運航管理者と電話で協議し、入港を予定より30ないし40分早めることとし、16時ころ金沢市沖合を航行中、新日本海フェリー株式会社の敦賀支店からの気象情報により、敦賀港では平均風速が10メートル毎秒、最大風速14メートル毎秒であることを知り、16時50分同支店に対し、引船2隻を手配するよう要請した。
 18時15分A受審人は、越前岬沖で昇橋して入港操船の指揮を執り、そのとき敦賀支店からのファクシミリで港内の最大風速が15メートル毎秒となったことを知り、同支店に引船1隻を鞠山防波堤沖に待機させるよう連絡するとともに、バラストを調整して喫水を船首6.24メートル船尾7.60メートルとし、同時36分立石岬灯台沖合に達したとき、機関用意を令し、船橋に首席三等航海士、次席三等航海士及び操舵手を、船首に一等航海士ほか4人、船尾に二等航海士ほか3人をそれぞれ配置に就け、手動操舵により港内に向かった。
 A受審人は、操舵室中央で、個別操船によって操船にあたり、18時55分ころ敦賀支店及び待機中の引船に港内の状況を問い合わせて風速12メートル毎秒の北風が吹いていることを知り、この程度の風なら引船1隻を使用して接岸できると判断した。
 19時02分A受審人は、機関を回転数毎分360、プロペラ翼角14度の港内全速力に減速し、同時05分敦賀港金ケ崎灯台(以下「金ケ崎灯台」という。)から347度(真方位、以下同じ。)0.9海里の地点に達したとき、180度に向首して12.0ノットの速力(対水速力、以下同じ。)で、延長工事中の鞠山防波堤西端を左舷側540メートルに航過して左回頭を始め、そのころ風速約15メートル毎秒の北風が吹き、その後次第に強くなった。
 19時08分A受審人は、プロペラ翼角8度、8.0ノットの微速力前進に減じて回頭を続け、同時13分金ケ崎灯台から026度1,270メートルの地点で、055度に向首し、接岸予定の鞠山北D岸壁(以下「フェリー岸壁」という。)が正船首700メートルとなったとき、プロペラ翼角を中立及び舵中央として右舷側ウイングのキックス操作スタンドに赴き、個別操船からキックスに切り換えたのち、右舷付け出船係留とするため、船位をほぼ同岸壁延長線上に保ちながら西に向首するまで一気に左回頭するつもりで、風下に落されないようジョイスティックを少し前に倒して前進推力を保持しながら、回頭ダイヤルを左一杯の90度に回し、そのころ曳航力34トンの引船第弐昇陽丸(以下「昇陽丸」という。)が到着してタグラインを取る作業にかかった。
 19時15分A受審人は、フェリー岸壁延長線上で岸壁から470メートルのところで左回頭中、船橋の風速計で風速19メートル毎秒に達したので、引船2隻が必要と判断して鞠山岸壁で待機していた曳航力36トンの引船敦賀丸に出動を要請した。間もなく昇陽丸がタグラインを左舷船首に取ったので横に引くよう指示し、北に向首したあとジョイスティックを中立とし、回頭ダイヤルを左90度としたまま回頭を続けるうち、さらに風が強くなって風速20メートル毎秒を超えるようになった。
 19時17分A受審人は、金ケ崎灯台から022度1,460メートルの地点でほぼ300度に向首したとき、風速25ないし30メートル毎秒に達し、フェリー岸壁や付近の街路灯を見て、接岸時の船尾目標としていた岸壁延長線上より南方に圧流されたことを知り、この強風下では操船が困難なので接岸を一時中止することとしたものの、風速の上昇が急であったからしばらく様子を見ることとし、船首が鞠山防波堤延長工事区域の南東端を示す簡易標識灯に向いたころ、昇陽丸に引き方を中止してタグラインを取ったまま左舷船首を押すように指示し、その後ほぼ西に向いた状態で船位を保つようにキックスを操作しながら、1ないし2ノットの速力で南方に圧流された。
 19時20分A受審人は、金ケ崎灯台から022度1,300メートルの地点で280度に向首し、鞠山南岸壁築造工事区域が風下側460メートルとなったとき、依然風速25メートル毎秒の強風が吹き、錨泊するにも風下側の水域が不十分で、同工事区域に接近する状況となったが、強風は長く続かず、しばらくすれば風速15メートル毎秒前後に弱まり、引船2隻を使用して接岸できると思い、速やかに機関を前進にかけて港外に避難する措置をとることなく、昇陽丸にタグラインを取ったまま左舷船首を押させて船首方向を西方に保ち、敦賀丸の到着と風が弱まるのを待った。
 19時25分A受審人は、敦賀丸が到着したので、右舷船尾にタグラインを取るように指示したものの取ることができず、その間にも南方に圧流されて工事区域に接近する状況であったので同船に左舷船尾を押すように指示し、サイドスラスタを使用しながら昇陽丸と敦賀丸の両船にそれぞれ左舷船首及び同船尾を押させたものの、風速25メートル毎秒を超える北風が吹き続け、風下への圧流を止めることができず、港外に出ることとし、同時26分キックスから個別操船に切り換え、同時27分金ケ崎灯台から026度920メートルの地点で265度に向首したとき、右舷側ウイングから操舵室に戻り、左舷船首至近に工事区域北側のD灯浮標を認めたので接触を避けるため両舷機を微速力後進にかけたところ、F灯浮標に近づいた敦賀丸が押すことを中止して一時すいせんから離れた。
 その後A受審人は、工事区域北東側のF、G及びHの各灯浮標に衝突しないよう、昇陽丸と敦賀丸にそれぞれ左舷側船首と同船尾を押させ、機関を種々使用して風下に圧流されながら後進し、19時42分船尾が金ケ埼に接近したので両舷機を前進にかけたところ、築造中の岸壁に接近し、昇陽丸及び敦賀丸にそれぞれ右舷船首と同船尾にタグラインを取り全速力で引くよう指示するとともに、右舷錨を投下してサイドスラスタ及び両舷機を種々使用したが効なく、すいせんは、19時45分金ケ崎灯台から079度1,000メートルの地点において、ほぼ行きあしがなくなり280度に向首したとき、左舷後部が築造中の岸壁と10度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で、風力9の北風が吹き、潮候はほぼ低潮時にあたり、波高約1メートルで、福井県嶺南地方には風雪、雷、波浪の各注意報が発表されていた。
 衝突後A受審人は、昇陽丸及び敦賀丸の操船支援の下、機関及びサイドスラスタを使用して離岸しようとしたが、風速20メートル毎秒を超える強風が吹き続けて離岸することができず、21時21分風が弱まってようやく離岸に成功し、一旦港外に出たのち、風速が12メートル毎秒になるのを待って再び港内に向かい、23時40分引船2隻を使用してフェリー岸壁に接岸した。
 衝突の結果、左舷プロペラの一部が欠損するとともに、左舷船底外板に擦過傷を生じた。 

(原因)
 本件岸壁衝突は、夜間、福井県敦賀港において、冬季季節風が強まる状況下、可航水域が狭い港内をフェリー岸壁に接近中、北風が強くなって接岸を中止した際、速やかに港外に避難する措置がとられず、強風により圧流され、風下の岸壁築造工事区域に接近したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、福井県敦賀港において、冬季季節風が強まる状況下、可航水域が狭い港内をフェリー岸壁に接近中、強い北風のため接岸を中止し、錨泊するには風下側の水域が狭く、岸壁築造工事区域に接近する状況となった場合、速やかに港外に避難する措置をとるべき注意義務があった。しかし、同人は、強風は長く続かず、しばらくすれば風が弱まり、引船2隻を使用して接岸できると思い、速やかに港外に避難する措置をとらなかった職務上の過失により、岸壁築造工事区域に圧流されて岸壁衝突を招き、左舷プロペラの一部欠損及び左舷船底外板に擦過傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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